クラウス、真剣に悩む。
半分夢の中にいながら、レティシアもまたクラウスと出会った頃を思い出していた。翼を捨てて、神としての力を完全に封じてしまった彼の姿は、今でも焼き付いている。
あの時から彼は徹底していた。自分が、神族は嫌いだと言ったから。彼を嫌いだと言ったつもりはなかったけれど、クラウスは妨げになると判断したのか、躊躇がなかった。
一目で惚れたと、クラウスは言ってくれた。思い起こしてみれば、彼の言動のすべてはそこに集約されている気がした。彼は神族だけれど、ずっと一途で、ただ直向きにレティシアを愛してくれていた。
ふっと目が醒めると、いつの間にかベッドに寝かされていて、身体には毛布が掛けられていた。クラウスは眠りに落ちる前と変わらず傍らに居てくれた。レティシアの横に横たわり、銀の髪を指先で弄って遊んでいた彼に、レティシアは視線を向ける。
「・・・・クラウス・・・・。」
「ああ、起きたか。なんだ?」
「神族に、戻りたいと思ったことはあるか・・・?」
彼の答えは明確だった。
「無い。お前が俺の傍に居るなら、別に俺はこのまま人間として終わっても構わない。ただ、神族よりは寿命が短いから、お前を愛する時間は少しでも無駄にしたくない。」
だから起きられるなら起きろ、早くまた抱かせろと言わんばかりに、くしゃりと撫ぜたクラウスの手に、レティシアはくすくすと笑った。
確かに神族の時間は長い。自分も彼も神族になったら、もっと長く愛し合えるだろうか。人間であることを苦しいとは思ったことはないけれど、クラウスと一緒に居られるなら、神族になることも悪くは無いような気もした。
その為なら、あの激痛も、悪夢も、乗り越えられるかもしれない。もう一度、自分の背に純白の翼があったら、クラウスは何と言ってくれるだろう。
でも、もしもそうなったら。
そこまで考えて、レティシアは不意に苦笑した。
「・・・お前の子を何人産まされるか、分からないな・・・・」
小さく呟いて、レティシアはまたしても眠りに落ちた。彼女の爆弾発言を受けたクラウスは、だが全く動じなかった。至極不満そうに、再び眠ってしまった恋人の頬を撫ぜた。
「何言っているんだ、お前は。俺はお前を孕ませるつもりでいるんだが。」
何人でも産ませるに決まっている、とクラウスはレティシアにとって洒落にならない事まで考えている。ただ、彼もふと考え直した。出来れば、男が良い。娘が欲しいと煩い母親の事だ、孫娘など産まれようものなら、今以上に過干渉になるに違いないと、彼は確信していた。
だが、そうすると、もっと厄介なのは、自分の父親である。あの男は外見こそ優男だが、神界随一の剣の使い手であり、息子である自分は散々嫌と言う程鍛えられた。一族の男は、強い男にしなければという、大変に迷惑な信条の持ち主である。あの男も、大概厄介だ。
散々悩んだ末に、クラウスはレティシアが目を醒ますと、言った。
「お前には、俺の子を産ませる。でも男でも女でも無くていい」
それは一体どういう生物だと、レティシアが呆気に取られたのは、言うまでもない。