09話『高貴なる姫』
22日、3話目の更新です。
「ここからは馬車に乗って移動するぞ」
港町を適当に歩いた後、メイルは俺を馬車に案内した。
先に乗るよう促された俺は、足元の段差に注意しながら車体に乗る。それからメイルも乗り、ドアが閉められた。
「何処へ行くんだ?」
「王都だ。よければそこで私の雇い主に会ってもらいたい」
メイルは騎士だ。その雇い主ということは、最低でも貴族……もしくは政治家だろう。クラーケンを撃退したことについて相当感謝されているようだが、俺がやったことと言えば人魚を呼んだだけである。
馬車がゆっくりと動き出した。
地面を踏む蹄鉄の音が規則正しく聞こえた頃、メイルが口を開く。
「しかし、その……残念だったな。インテール王国の勇者パーティが、早々にこんなことになるとは……」
「いや、まあ……予想通りだし、そこまで残念ではないが……」
本当に予想通りだった。今頃、陛下はどんな顔をしているのか、少し気になってしまう。インテール王国の姫様にこっそり連絡を取り、様子を教えてもらうか……?
その後もメイルとは、お互いの国について色々と話した。
とはいえ俺は色んな国を旅してきたので、実はインテール王国について一際詳しいというわけではない。学生時代も授業をサボって他の国で冒険していたので、多分、一般的なインテール王国の国民と比べても国に対する知識は少ない方だろう。
「到着だな」
小一時間ほど経った後、馬車が停車する。
数分前から馬車は王都に入っていた。そして今、俺たちの目の前にあるのは――城だった。
「ここは……エーヌビディア王国の、王城か?」
「ああ。これからネットには、私の雇い主……ルシラ王女殿下に会ってもらいたい」
つくづく俺は、王女とか城とか騎士とかに縁があるらしい。
そして、メイルの雇い主が王女である時点で、ひとつの事実が発覚する。
「メイルは、ただの騎士じゃなかったのか」
「ああ。私は近衛騎士を務めている」
メイルは王族を警備する騎士らしい。それなりに高い身分だ。
「なに、緊張する必要はない。王女殿下といっても気さくな御方だ。私は身分の都合上、堅苦しく振る舞わねばならないが、恐らくネットなら気楽な態度で接することができるだろう。……勿論、嫌なら会わなくてもいいが」
「……いや、是非会わせてくれ。会ったことがない人とは、取り敢えず会ってみる主義なんだ」
「それはいい主義だな」
「ああ。なにせ、いざという時に俺を助けてくれるかもしれないからな」
「……前言撤回。打算的な主義だ」
「打算に裏打ちされていない主義なんて、ただの妄想だと思うぞ」
メイルの案内に従って城の中に入る。
階段を上り、廊下の突き当りにたどり着くと、目の前には扉があった。
「ルシラ様には、既に通信でお前のことを報告してある。このまま入るぞ?」
「分かった」
多少、身だしなみをチェックして、俺は頷いた。
メイルが扉を開ける。その先には豪奢な部屋があった。
精緻な模様が刻まれた赤絨毯に、見るだけで高価なものと分かる装飾品の数々。その上で、実用的な家具一式もしっかりと配置されている部屋だった。インテール王国では国王と会うため謁見の間に入ったが、今回会うのは王女殿下だ。扉の規模からして、恐らくここは王女殿下の私室のひとつなのだろう。
「お主が、ネットか」
部屋の中心に立つ少女が、俺の顔を見て言った。
「妾は、ルシラ=エーヌビディア。この国の王女である」
玉座には、十代半ばに見える少女が座していた。
見目麗しい少女だ。初雪の如く白い肌に、透き通るような銀色の長髪。触れるだけで折れてしまいそうな華奢な体躯ではあるが、その真紅の双眸だけは台座に嵌め込まれた宝石の如く、決して揺れ動かない強さを醸し出していた。
王族特有の、気高い雰囲気を肌で感じる。
ひと目見るだけで確信した。――いい相手と巡り会えた。
長年の経験則が告げる。
これはきっと、俺にとって良い縁となる。
「お目にかかれて光栄です。私は――」
「ああ、よいよい。お主はメイルの恩人じゃろう? なら妾にとっては友人も同然じゃ。もう少し砕けた態度でよいぞ」
「……そういうことなら」
深々と下げていた頭を持ち上げ、ほんの少しだけ肩の力を抜く。
これは今まで俺が出会ってきた上流階級の者たちから聞いた話だが……貴族や王族は、堅苦しい環境にうんざりしていることも多いらしい。だからせめて外部の人間とは、気軽に話したいという気持ちの持ち主も多いのだ。
とはいえ敬語くらいは使った方がいいだろう。
ルシラ様が問題ないと言っても、彼女を慕う他の者たちが同様に思うとは限らない。
「ネット=ワークインターです。インテール王国では、冒険者として活動していました」
「ほお、冒険者か。妾は冒険者が好きだぞ」
ルシラ様は微笑して言う。
「ネットよ、まずは礼を言わせてもらおう。……メイルを助けてくれて感謝するのじゃ。妾にとって、メイルは気を許せる数少ない友人のひとり。お主がクラーケンを退けていなければ、今頃、妾は悲しみに暮れていたじゃろう」
少々口調は独特だが、平民である俺にも礼儀正しく、人柄の良さが窺える振る舞いだった。
「感謝していただけるのはありがたいですが、俺は大したことをしていませんよ。クラーケンを倒したのは――」
「――人魚、だそうじゃな?」
ルシラ様は、ニヤリと笑いながら言う。
「お主、今日の寝床は決まっておるか?」
「いえ、決まっていませんが……」
「なら今日はこの城に泊まるといい」
唐突な提案に目を丸くする俺を他所に、ルシラ様は続けて言った。
「代わりに、お主がこれまでにしてきた冒険について聞かせてくれ。妾は冒険譚が大好きなのじゃ!!」
成る程、納得した。
どうやら俺をこの場に呼んだ本当の理由は、これだったらしい。ちらりとメイルを一瞥すると、柔和な笑みを浮かべられた。「付き合ってやってくれ」と暗に告げられる。
「分かりました。俺でよければ、いくらでも話しますよ」
そして、その日の夜。
俺はルシラ様と共に、食事をしながら今までの冒険について語った。
勿論――隠すべきところは、しっかり隠して。
一章ヒロインのルシラ様、登場です。
のじゃロリです。
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