07話『龍と契りを結んだ国』
クラーケン討伐から三日が経過した頃。
七日に渡る船旅は終わりを迎え、目の前にはエーヌビディア王国の陸地が見えていた。
「ネット」
船が港に近づく中、メイルが声を掛けてくる。
「約束通り、礼をさせてもらおう。今日の予定は大丈夫か?」
「ああ、終日空いている」
「よかった。なら案内したい場所がある」
予定は空いているというか、空けておいた。
本当なら待ち合わせしている相手がいたが、相談の末、彼女と会うのは明日に変更したのだ。
「あ、あの、メイル様。よろしいのですか? 他国の冒険者を、城に招くなど……」
「彼は私たちの恩人だ、問題ないだろう。それにルシラ様は冒険者が好きだ」
騎士たちが何やら会話している。
騎士や城といった単語を耳にして俺は苦笑した。どうもここ最近、そういったものと縁がある。
「メイルたちはどうしてインテール王国にいたんだ?」
「ただの使いっ走りだ。そちらに滞在している我が国の貴族を、数日ほど護衛していた」
インテール王国に、エーヌビディア王国の貴族が足を運んでいたらしい。
それは知らなかった。
「無事に着いたな」
メイルが呟く。
船が港に到着して停まった。
「ようこそ。龍と契りを結んだ国、エーヌビディア王国へ」
◆
龍と契りを結んだ国、エーヌビディア王国。
この国は建国の際、大いなる龍の力を借りたと言われている。それまで、この辺りの土地は作物が育たず干からびていたそうだが、龍の加護によって大地は潤い、資源に恵まれたそうだ。
モンスターの中には、知性を持ち、人と対話できる種類もいる。
龍はその代表例であり、非常に強い力を持つモンスターだ。歴史を紐解けば、人間と龍は時に争い、時に協力していたことが分かるが、建国を支えた龍はエーヌビディア王国の例しかない。
「壮観だな」
「ふふ……そうだろう、そうだろう! ここはいい国だぞ!」
母国を褒められて嬉しかったのか、メイルは楽しそうに笑みを浮かべた。
エーヌビディア王国の建物は、インテール王国と比べて規模が大きい。そのような文化が根付いているのだ。観光客を楽しませるためか、あちこちに龍の飾りや置物が見える。港町にしては華やかな景色だ。
「ちなみにこの町には、あの伝説の冒険者パーティ、『七燿の流星団』も立ち寄ったことがあるんだ」
「え?」
メイルの発言に、俺は思わず疑問の声を発した。
「おい、なんだその反応は。まさか『七燿の流星団』を知らないわけではあるまいな?」
「あ、ああ。流石にそのくらいは知ってるが……」
知らないわけがない。
冒険者パーティ『七燿の流星団』――それは恐らく、この世界で最も有名な七人の冒険者だ。
難攻不落のダンジョンを踏破したり、世界を脅かしていた大型モンスターを討伐したり、前人未踏の土地を開拓したりと、その冒険者パーティが成し遂げた偉業を挙げれば枚挙に暇がない。
名実ともに、最強の冒険者パーティと言えば『七燿の流星団』である。
それは最早、世界共通の常識となっていた。
同じように……『七燿の流星団』が、一年前に解散した事実も、世界中の人々が知る常識だ。
「その『七燿の流星団』が……この町に寄ったのか?」
「そうだ! と、胸を張って言いたいところだが……厳密には、近くを通り過ぎただけだ。しかし相手が『七燿の流星団』ともなれば、それだけでも誇らしい気分になれる」
「ああ……成る程。そういうことか」
少し情報の食い違いがあったようで困惑していたが、納得した。
冒険者パーティ『七燿の流星団』の名声は凄まじい。パーティが暫く滞在したというだけで、その町が観光名所となることもある。きっとこの港町もそうした経済効果を狙い、メイルが話したような売り文句を国民に広めたのだろう。
「エーヌビディア王国にも、有名な冒険者パーティは幾つかあったよな?」
「ああ。一番有名なのは『白龍騎士団』だろうな。ネットも名前くらいは知っているだろう?」
「勿論だ」
冒険者パーティ『白龍騎士団』。
エーヌビディア王国出身であるそのパーティは、冒険者にしては珍しく、全員が騎士甲冑を身に纏っている。主にダンジョンの攻略や、モンスターの討伐で名を上げたパーティだ。
「『白龍騎士団』は冒険者のパーティだが、この国の騎士たちにとっては憧れの的となっている。特に、団長のレーゼ=フォン=アルディアラ様は、S級冒険者である上に、元貴族という立場もあって、気高くて美しいと評判だ。……かく言う私も、彼女に心酔している」
「メイルは、その団長とやらに憧れているのか」
「ああ! 『七燿の流星団』に並び、この世で最も尊敬する一人だ! 私もいつか、あのような騎士になりたいと思っている!」
本当にその団長のことを尊敬しているのだろう。
メイルは興奮気味に言った。
「ネットがいたインテール王国にも、有名な冒険者パーティは幾つかあるのではないか?」
「まあな。でも最近の話題となれば、やっぱり勇者パーティだと思うぞ」
「勇者パーティか……そう言えば丁度、我々がインテール王国を発つ時に、勇者パーティも旅を始めたみたいだな」
メイルもインテール王国の勇者パーティについては多少知っているらしい。
「しかし、今でこそ世界各国が勇者パーティを派遣しているが……私はてっきり、『七燿の流星団』がそのまま魔王を討伐するかと思っていた」
メイルが呟く。
きっとそう思っていた者は少なくない。それだけ、『七燿の流星団』は強かった。
「一年前に解散して以来、『七燿の流星団』は世間に顔を出していない。今頃、彼らは何をしているのだろうか……?」
「さぁな。……まあ好き勝手に生きてるんじゃないか?」
「いいや! きっと国の要職を任されていたり、或いは極秘任務を遂行したり……とにかく、私たちでは想像もつかないことをしているに違いない!」
メイルは少し夢見がちな性格らしい。
「インテール王国の勇者パーティはどんな感じなのだ? やはり国が直々に選定した以上、相当な強者なのだろう?」
「……どうだろうな。確かに強さだけなら、多分、どの国の勇者パーティよりも優れていると思うが……」
小さな声で言う俺に、メイルは不思議そうな顔をする。
「号外! 号外だよー!」
その時、目の前を新聞売りが通り過ぎた。
俺はポーチから硬貨を取り出して、新聞売りに近づく。
「一部くれ」
「はいよ!」
受け取った新聞をすぐに読む。
隣にいるメイルが、覗き込むように顔を新聞の方へ近づけた。
「なんだ、これは……?」
一番大きな見出しを目にして、メイルが驚く。
「あーあ……だから言ったのに」
そこには、でかでかとした文字でこう書かれていた。
――インテール王国の勇者パーティ、街を破壊する。
次回、勇者パーティやらかす。
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