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06話『地の民=りんご農家と思われている』


 クラーケンが船から離れた後、俺は笛をポーチの中に仕舞った。

 暫くすると、目の前の水面がブクブクと音を立てて泡立ち、やがて無数の人魚が顔を出す。


『地の民よ!』


『地の民よ! クラーケンを倒してやったぞ!』


『報酬をくれ! 地の民よ!』


 わらわらと集まった人魚たちは、我先にと報酬を求めた。

 水飛沫があちこちに飛ぶ中、俺はポーチの中から用意していたものを取り出す。


「はいはい。りんごでいいな?」


『おお……! これぞまさしく、命の結晶!』


『地の民は、これを生み出すために存在していると言っても過言ではない!』


「それは過言だ」


 流石に人間を舐めすぎである。

 しかし……こんなこともあろうかと、港町でりんごを買っておいてよかった。


 人魚たちの好物は幾つかあり、りんごはそのうちの一つである。これで機嫌をよくしてくれるなら幾らでも買ってみせるつもりだ。


「悪いな、急に呼び出して」


『気にするな! ネットは我々と盟約を結んでいる! だから笛を渡したのだ!』


 男の人魚が大きな声で言った。

 大体、戦いに出てくる人魚は男である。その上半身は屈強な筋肉の鎧で包まれており、水の浮力を利用して非常に重たい槍を握っていた。


『ところでネット!』


「ん?」


『女王がネットに会いたがっている! 竜宮城に来てくれ!』


「了解。落ち着いたらまた行くと伝えてくれ」


『すぐに来てくれないと、大津波を起こしてこの船を沈めるそうだ!』


「それは困るな。りんごをもう一個やるから、うまく宥めておいてくれ」


『承知した!』


 そう言って人魚は再び水中に潜った。

 クラーケンを倒したのに船が沈められたら本末転倒だ。ひょっとして俺は今、この船に迫っていた二つ目の危機を退けたのではないだろうか……? まあ二つ目の危機に関しては、俺のせいで訪れたようなものだが。


 人魚たちの姿が完全に見えなくなった頃、近くで足音が聞こえる。


「お、お前……今のは……」


 そこには、目を見開いて驚愕するメイルの姿があった。


「通信している時といい、今回といい……メイルは覗き見が趣味なのか?」


「なっ!? ち、違う! 偶々、タイミングが悪かっただけだ!」


 メイルは顔を真っ赤にして否定した。


「それより、どういうことだ。今のは人魚だろう? 人魚は、人間のことを嫌っている筈だ。会話は愚か、本来なら顔を合わせるだけで争いになってしまうような関係だぞ」


「普通はそうかもしれないが……まあ、俺は友人みたいなものだから」


「友人……? 人魚と、友人だと……?」


「正確には、西の海域に住むリューグウ族と盟約を結んでいるんだ。その代わり、東の海域に住むローレイ族とは少し折り合いが悪い。でも、ローレイ族と盟約を結んでいる人間とは知り合いだから、大体どの海の人魚とも平和的な交渉ができると思う」


「??????」


 メイルは難しい顔をする。

 少し余計な情報まで喋ってしまったかもしれない。別に問題はないが。


「……俄には信じがたいが、要するに人魚と交渉できるということか。……では、先程のクラーケンとの戦闘では、お前が人魚を呼んでくれたのか?」


「ああ。……言っただろ、俺のモットーは他力本願だって」


 他人の力を借りることにおいて、俺の右に出る者はいない。そんな自負すら持っている。


 冗談めかして自慢っぽく言ってみせると、メイルはきゅっと唇を引き結んだ。


「若干、複雑だが……どうやらお前は、私たちの恩人らしいな」


 メイルの表情が柔らかくなる。

 少し驚いた。てっきりまた馬鹿にされるかと思ったが、メイルは思ったよりも他人の価値観に対して寛容らしい。インテール王国の国王陛下には、是非とも彼女を見習って欲しいものだ。


「国に着いた後、少し時間をくれないか? 礼がしたい」


 人脈を武器とする俺にとって……というより、人脈しか武器がない俺にとって、その提案は断る理由がない。


 新しい人との出会いや交流は歓迎だ。


「喜んで」



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