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40話『エピローグ①:ネットの武器』


 ――『七燿の流星団』は、意図して作ったものではない。


 俺が自分自身で勇者になることを諦め、色んな人たちの手を借りて生きるようになってから、一年が経過した頃。


 ふと俺は、頼る相手に偏り(・・)が生まれていることに気づいた。


 基本的に俺は、自力ではできないことを成し遂げようとする際、目的に適した協力者を選ぶようにしている。しかし当たり前の話ではあるが、高難度の目的を果たすためには、協力者も厳選しなければならない。難しい目的を達成するには、より優れた実力者に協力してもらう必要があった。


 そうして、協力者の選定を繰り返してるうちに……俺は、ほぼ毎回頼りにしている相手がいることに気づいた。


 その人数は六人。

 彼らはどのような頼みでも気軽に受け入れてくれる寛容な者たちであり、尚且つ、どのような困難にも屈しない実力者たちだった。


 今まではその六人を、バラバラのタイミングで協力者に選んでいたが……ある日、遂に全員が合流した。


 あれは天空に浮かぶ神殿――空中神殿の攻略を目指した時のことだ。空中神殿は非常に危険な場所であるため、俺は特別頼りになる六人の協力者を、全員呼んだのだ。


 結果、俺たちはかつてないほど大きな成果を残した。

 不思議なことに、六人の協力者と、彼らを呼んだ俺は、まるで全員が旧友であるかのように親しく過ごすことができたのだ。それは生活面だけではなく戦闘時の連携にも活きた。俺たちの連携は以心伝心と言っても過言ではなく、どのような強敵が相手でも恐れることなく戦うことができたのだ。


 きっと俺たちは、世界で最も気が合う七人だ。

 誰かがそう口にしたわけではないが……恐らく全員がそう思っていただろう。


 以来、俺たちはこの七人で行動することが多くなった。

 これが――『七燿の流星団』の始まりである。


 その後、俺たちは飛ぶ鳥を落とす勢いで冒険者としての名を上げ、やがて世界中にその実力を知らしめることになる。最初は適当だった役割分担も徐々に明確になり、俺が毎回新たな協力者を招くようになってからは、何故か『変幻王』などという訳の分からない二つ名をつけられるようになった。


 全てが順調に思えた。

 だが……どのような栄光にも終焉は付きものだ。


 元々、俺たちは自由気ままに生きることが好きな集団だった。

 しかし『七燿の流星団』として活動していると、徐々に周囲の者たちの目の色が変わってきたのだ。


「モンスターが出ても、この街には『七燿の流星団』がいるから安全だな」


「危険な依頼は『七燿の流星団』に任せたらいいんじゃないか?」


 ちらほらと、そんな声が聞こえるようになっていた。

 最初は誰かに頼られることが、それなりに嬉しいと感じていた。だがその数が増えると……いつの間にか、彼らは当たり前のように俺たちに守られる日々を享受するようになった。


 冒険者パーティ『七燿の流星団』は、世界的に有名な組織である。

 俺たちに対する共通認識は、ひとつの街や国だけに留まらない。いつしか世界中の人々が、そのような目で俺たちを見るようになってしまったのだ。


 六人の仲間たちは皆、自由気ままな性分だ。

 そんな彼らが最も嫌うものは束縛。だというのに、気がつけば俺たちは、世界中から束縛される身となっていた。


 そして、ある日。

 俺たちが冒険のために街を出ると、丁度そのタイミングでモンスターが街を襲撃する事件が起きた。暴れ回るモンスターに対し、住民たちは為す術がなく、街は盛大に破壊されてしまった。


 モンスターが去った後。

 冒険から帰ってきた俺たちに、街の人々が浴びせたのは――。


「お前たちが街を出て行ったせいで、こうなったんだ!」


「どうして、この街にいてくれなかったんだ!!」


 まさに罵詈雑言の嵐。

 彼らの言葉を聞いた時――――俺は、終わったと思った。


 街の警備は俺たちの責任ではない。つまりこれは完全な責任転嫁だ。

 だが、気がつけば俺たちは、世界規模で「責任転嫁してもいい組織」として認識されていた。何処に行っても似たような経験をしてしまう。人々は『七燿の流星団』を、都合の良い英雄のように考えていたのだ。それもきっと、無自覚に。


 だから、俺は決意した。

 冒険が終わり、各々が落ち着いた頃。俺は六人を呼んで、決意を表明した。


「一度……『七燿の流星団』を解散しようと思う」


 六人に向かって、俺は告げた。


「元々、俺たちは好き勝手に生きてきた筈だ。でも最近、それができないのは……俺たちが突出しすぎたからだ」


 そう。――俺たちは強すぎた(・・・・)

 俺以外の六人はただでさえ優秀だ。その六人が抜群の連携を発揮すれば、追随できる者などいない。更に俺も彼らの技能を伸ばすために、世界中から講師を招いたり、踏み台になりそうな依頼を片っ端から受注していた。


 結果、俺たちは強くなりすぎた。……目立ち過ぎてしまった。

 だから、多大な有名税が生じてしまったのだ。


「……少しだけ、時間を置こう」


 自身の考えを皆に伝える。


「きっとこの世界には、俺たち以外にも凄い奴らが沢山いる。……時間さえ経てば、彼らも俺たちと同じくらい有名になる筈だ」


 顔が広い俺だからこそ、それを知っていた。

 俺たちは破竹の勢いで名を上げたからこそ、有名になった。けれど暫く待てば、次々と他の者たちも台頭してくると考えた。


「それからだ。……世界中の人間が、『今更お前たちなんていらねーよ』って口にする頃、俺たちはまた集まろう」


 それまでは、お別れだと告げて。

 俺たちは一度、別々の道を歩むことにした。


 これが『七燿の流星団』の、成り立ちから解散までの流れである。

 勘違いしてはならないが、俺たちは別に冒険が嫌になったわけではない。ただ、『七燿の流星団』のメンバーで活動すると、どうしても目立ってしまう。それが駄目だったのだ。


 だから暫くの間は正体を隠し、別々で活動することにした。

 いずれ、俺たちを超えるようなパーティが現れると信じて……。




 まあ――――――まっっっっっったく、期待通りにはならなかったが。




 あれから一年が経過した現在。『七燿の流星団』の名声は未だに衰えることなく、俺たちに追随するパーティも現れていない。


 当事者の視点ではどうしても分からないものがある。……まさか『七燿の流星団』が、ここまで世界に影響を与えていたとは思わなかったのだ。俺たちは、俺たちが思っている以上に強く、人々から尊敬されていた。


 パーティ解散後、俺は仲間たちと分かれて暫く一人旅をする予定だった。しかし、ある日いきなり『七燿の流星団』の一員であるロイドが「ネットと一緒にいた方が楽しそう」という、実にふんわりとした理由で同行する羽目となった。こうして俺の旅はお守りと化した。


 その後、俺とロイドを中心に作ったパーティが『星屑の灯火団』である。流星(・・)が砕けて分かれたら星屑(・・)という、我ながら安直なネーミングセンスだ。


 人助け中毒のロイド、強い相手と戦うことしか興味がない戦士、知識のためなら倫理の壁すら越えてしまう魔法使い、蘇生しか使えず蘇生以外に興味がない僧侶。『星屑の灯火団』のメンバーは『七燿の流星団』に負けず劣らずの個性派ばかりだった。しかし実力だけは優れていたため、どうにか手綱を握っているうちに、徐々に名を上げることができた。馬鹿と天才は紙一重と言うが、英雄と問題児も紙一重なのかもしれない。


 今後、『七燿の流星団』に追随するパーティが現れるとしたら、『星屑の灯火団』……改め、インテール王国の勇者パーティが第一候補となるだろう。その実態はただの問題児集団だが、知名度だけならいずれ追いつくと思う。


 だがそれも今後の話。

 今はまだ……仲間たちと合流できない。


 かつての仲間、『七燿の流星団』のメンバーたちのことを思い出す。彼らは皆、元気にしているだろうか。……元気なのは間違いない。鑑定士ギルドの優先案内者カードの動きを見ればよく分かる。彼らは好き勝手に世界中を旅しているようだ――俺の名義を使い続けて。




「――ネット、こっちじゃ」


 ルシラの声が聞こえた俺は、そこで思考を切り替える。

 王城の廊下を歩きながら、俺は隣にいるルシラに視線を注いだ。『七燿の流星団』や『星屑の灯火団』の仲間たちと比べれば、ルシラなんて優等生のようなものである。


 先日。毒魔龍を倒した俺たちは、すぐ王城に戻り、その日は休養に費やした。

 そして一晩が過ぎた今日。王城の客室に泊まっていた俺は、ルシラから「父上がお主に話があるようじゃ」と告げられたのだ。


 こうして俺は今、ルシラと共に謁見の間へと向かっている。


「しかし、なんで俺がこの国の王様に呼ばれるんだ?」


「それは勿論、毒魔龍の件じゃろうな」


 まあそれはそうか、と俺は納得する。

 元々インテール王国から毒魔龍討伐の要請を受けたのは、この国の王だ。俺に訊きたいことは山ほどあるだろう。……話が長くならなければいいが、と内心で思う。


「ルシラ。龍化病の経過はどうだ?」


「もうすっかり問題ないのじゃ! あれから発作も起きておらんし、龍化の力も今は自由にコントロールできておる! ……こんな感じじゃ!」


 ルシラが右腕の手首から先を龍化してみせる。

 突然、龍の爪が現れて、俺は「おぉ」と驚きの声を零した。


「……こんなふうに、気軽に龍の力が使えるようになるとは、思わなかったのじゃ」


 ルシラが微笑みながら言う。

 毒魔龍が討伐されたというニュースは、既に国中に広まっていた。……同時に、ルシラが龍化病を患っていたことも公にされている。『白龍騎士団』が証人ということもあり、国民たちはそれらの情報を信頼し、各々噛み砕いている最中のようだ。


「病原となる龍を倒した後も、定期的に龍化したい欲求に駆られる筈だ。但し、今までの発作のように苦しむことはないし、数日くらいなら我慢もできる。……これからは、朝のストレッチのついでに、身体を龍化するような習慣でもつければいい」


「うむ、そうすることにしよう。……しかし今更じゃが、何故ネットはそんなに龍化病について詳しいのじゃ?」


「ルシラの他にも、龍化病の知り合いがいるからな」


「……お主は本当に、顔が広いのう」


 どうりで怯えん筈じゃ、とルシラは呟く。

 などと会話しているうちに、俺たちは謁見の間に辿り着いた。


 扉を開くと、大きな椅子に優しい顔つきの男が座していた。髪はどちらかと言えば長めで、聡明そうな目つきをしている。皺はあまり刻まれておらず、全体的に若く見えた。


「よくぞ来た」


 王の第一声は穏やかな声音で発せられた。だがそれはどこか力強く、謁見の間に響き渡る。インテール王国の国王とはまた違った方向性の貫禄を持つ男だ。


 ルシラの隣で、俺は頭を下げる。

 用件は何だろうか、と王の言葉を待っていると、


「ルシラ、下がっていなさい」


 王はルシラに部屋から出るように促す。

 顔を下げているため、ルシラの表情は見えないが……ルシラは十秒ほど悩んだ末、不安気な足取りで謁見の間を後にした。


 沈黙が滞る。

 そのまま頭を下げ続けていると、やがて王は気が抜けたかのように小さな吐息を零した。


「顔を上げてくれ。……娘と同様、私も堅苦しい空気が好きではなくてね」


「……はぁ」


 言われた通りに頭を上げる。

 先程と比べて、王の表情は柔和なものになっていた。堅苦しい空気が好きでないというのは本心からの言葉だったらしい。


「ラウマン=エーヌビディアだ。朝早くに呼び出してすまない」


 気さくな態度で、王は言う。


「ネット=ワークインター。……毒魔龍の討伐、感謝する。正直なところ、まさか討伐できるとは思わなかった」


「ありがとうございます。ですが感謝なら、俺ではなく『白龍騎士団』とルシラにするべきです」


「……謙虚な男だな」


 恐らくルシラから事の顛末は聞いているのだろう。

 それでも結局、俺は戦いに殆ど参加していない。今回の件で最も褒められるべき人物は、己の殻を破って戦場に赴いたルシラだ。


「既に娘から話は聞いているだろう。私は、我が身可愛さのために君の命を売ろうとした。……君には私を恨む権利がある」


 神妙な面持ちで王は告げた。

 その沈んだ様子は決して演技ではないだろう。俺を拘束しようとした時のルシラと同じように、きっとこの男も良心の呵責に苛まれていたのだ。


「確かに、複雑な気分ではありますが……余所者の命ひとつで、国の外交問題を避けることができるんです。誰だって陛下の立場になれば、同じことをしますよ」


 そう答えると、王は頼りなく微笑する。


「謝って済む問題ではないが……本当に申し訳ない。私も、焦っていたんだ」


 王は頭を下げた。

 ただの平民に対して、ここまで誠意を見せる王は稀である。しかし俺はそんな王の態度よりも、王が告げた言葉の方が気になった。


 焦る? ――何を?


 インテール王国の要求は単純だ。一週間以内に、俺と毒魔龍をぶつけること。……期日は短いように感じるが、国王の権力があれば、そのくらい簡単に実現できるだろう。配下の騎士たちに俺を拘束させ、毒魔龍の巣まで連行すればいいだけだ。別に焦るほどのことではない。


 国王が焦っていたのは……毒魔龍の件ではない?

 だとすれば、それはきっと――。


「貴方は、最初からルシラが龍化病であると知って――」


「――それ以上は言うな」


 王は己の失言を悟ったのか、若干後悔したような顔で、俺の言葉を遮った。


 唇を引き結んだ俺は、改めて豪奢な椅子に座す男の顔を見る。

 それは一国の命運を背負う王の顔であると同時に……一人の娘を大切に想う、父親の顔でもあった。


「娘は、優しい子だ。自分のために誰かが傷つくことを受け入れられない。それなら……無知を装うしかないだろう?」


 そういうことか、と俺は納得する。

 メイド長のヘルシャが、ルシラの龍化病に気づいていたように……この王も最初から気づいていたのだ。


 王の言う通り、ルシラは自分のせいで他人が傷つくことを拒む。「龍化病を治すために連合軍を編成し、毒魔龍を討伐する」なんて言えば、ルシラは間違いなく止めにかかるだろう。その戦いで死人が出れば、ルシラは「自分のせいで誰かが死んだ」と考え、酷く落ち込む筈だ。


 だから、王は龍化病について何も知らないフリをしたのだ。

 そうすれば、少なくともルシラの負担にはならないから。


「事情は、理解しました」


 王は焦っていたのだ。

 ルシラの龍化病が、既に限界まで進行していると知っていたから――。


 だから俺に一縷の望みを託したのだろう。

 きっと不可能だと分かってはいても、最早、そうすることくらいしかできなかったのだ。


「報酬は何が欲しい?」


 唐突に、王は切り出した。


「娘から君の活躍は聞いている。だから謙遜する必要はない。……何か、欲しいものはないか?」


 その問いに、俺はほんの少しだけ悩んでから答えた。


「でしたら、連絡先を交換してください」


「……連絡先?」


「今後、何か相談したい時があれば通信させていただきます。……勿論、公務の邪魔にならないよう注意する所存です」


 そう告げると、王は小さく笑った。


「娘が言っていたな。……ネットという男は、とてつもない人脈を持っているとか」


 その言葉を聞いて、俺も笑みを浮かべた。


「それが俺の、武器ですから」



 次話で1章は完結です!


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