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04話『女騎士メイル』


 三日後。

 俺は予定通り、エーヌビディア王国行きの船に乗った。


「しかし、船が着くまで一週間か……」


 燦々として降り注ぐ陽光に瞼を細めていると、潮風が頬を撫でた。

 微かにべたついた頬を親指で撫でながら、俺はかつての仲間たちのことを思い出す。


 今朝購入した新聞によると、勇者パーティは今日、王都を出発するらしい。

 王都では彼らの出発を祝う盛大なパレードが催されているようだが、その喧騒も大海原には届かない。少し前まで俺は『星屑の灯火団』の一員として、彼らと共に過ごしていた筈だが、のんびりと船に揺られているとそうした日々が他人事のように思えてくる。


 勇者パーティは、陛下が望んだ通り、俺の代わりにユリウスが加入した。

 しかし、やはりあの男にメンバーの手綱が握れるとは思わないので……。 


「早ければ……エーヌビディア王国に着くまでに、街がひとつ潰れてるかもな」


 さらば、ユリウス。

 旧友の犠牲に一秒だけ黙祷を捧げる。


「っと、先に連絡しておくか」


 エーヌビディア王国へ着く前に、ある人物に連絡を入れたかったことを思い出した。

 早速、俺は城下町で購入した通信石を起動して、その人物と通信する。


『ネットか?』


 通信石から、女性の声が聞こえる。


「ああ、久しぶりだな。今、時間は大丈夫か?」


『問題ない。お前のためなら幾らでも時間を作ろう』


 相変わらず忠誠心が高い。どうしてそうなったかは不明だが。


「実は今、船でエーヌビディア王国に向かっているんだ」


『ほぉ、こっちに来るのか。何の用だ? お前のことだから、天変地異が起きる程度では驚かんぞ』


 天変地異より驚くものってなんだよ……。


「ちょっと色々あってな。国を出ることにしたんだ。詳しくは会った時にでも話す」


『分かった。着いたら街を案内してやろう』


「助かる。何日滞在するかは分からないが……取り敢えず収入を得る手立てが欲しい。そっちに着いたら冒険者ギルドに登録すると思うから、幾つか依頼を手伝ってくれないか?」


『お安いご用だ。ワイバーンでも狩るか?』


「お、いいね。ワイバーンの尻尾はステーキにしたら旨いからな」


 などと話していると、どこからか視線を感じる。

 振り返ると、そこには青い長髪をたなびかせた、若い女騎士がいた。歳は十七か十八……俺と同じくらいだろう。船旅だというのに甲冑を着込んでいるあたり、生真面目な性分が窺える。


「それじゃあ、また」


 通信を切断する。

 青髪の女騎士は、ゆっくりとこちらに近づいてきた。


「すまない、通信中だったか」


「いや、もう終わった。……何か用か?」


「用と言うほどではないが、軽く挨拶がしたくてな」


 挨拶? と首を傾げる俺に対し、彼女は姿勢を正す。


「私はメイル=アクセント。エーヌビディア王国の騎士だ」


「ネット=ワークインターだ。インテール王国の冒険者をやっていた」


 もうあの国の冒険者として活動する気はないので、過去形で告げる。

 しかしメイルは気にした様子を見せることなく、口を開いた。


「この船に乗っているということは、A級の冒険者だな? 頼もしいことだ」


「頼もしい?」


「クラーケンが出るかもしれないという話は聞いているだろう? いざという時は、背中を預ける戦友になるかもしれない。だからこうして、挨拶をしている」


「成る程、それは殊勝な心がけだな」


 礼儀正しいというか、律儀というか……。

 恐らく育ちがいい人間なのだろう。その容姿は非常に整っており、肌や髪も、戦いを生業にする騎士とは思えないほど美しい。身だしなみに気を使える、良い環境で過ごしている証拠だ。


「ただ、申し訳ないが、俺を戦力に数えるのはやめてくれ」


「ん? それは何故だ?」


「俺のA級冒険者という肩書きは、同じパーティの仲間たちに引っ張ってもらって、強引に手に入れたものだ。個人の実力に関しては、残念ながらE級と大して変わらない」


「……なんだそれは。詐欺ではないのか?」


「あー……よく言われる」


 残念ながら本当によく言われる。

 陛下やユリウスの顔が脳裏に過ぎった。


「ふん、A級冒険者が船に乗っていると聞いたから、期待していたが……ただの腰抜けだったか」


 メイルは溜息交じりに告げた。


「まあいい。戦いになったら、精々邪魔にならない位置で大人しくしていろ」


「そうさせてもらう。なにせ俺のモットーは他力本願だからな」


「……ふざけた奴だ。軽蔑する」


 メイルは踵を返して何処かへ行ってしまった。

 冗談交じりの一言のつもりだったが、どうやら空気を悪くするだけに終えてしまったらしい。……まあ別に冗談というわけでもないが。


「一番いいのは、クラーケンと遭遇しないことなんだがなぁ……」


 そんな儚い希望を抱いてみたが、あっさりと打ち砕かれる。


 四日後。

 俺たちはクラーケンと遭遇した。



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