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36話『その牙は、その翼は』


*****************************


【人類最強ランキング(暫定版)】


 1位:ナッセ=アドヴェンテリア

 2位:セブン=ユグドラシル

 3位:リュウゼン=アルハザード

 4位:ロイド=イクステッド

 …………

 ……


*****************************



 レーゼから受け取ったその手紙には、謎のランキングが記されていた。

 ネットは一体、どのような意図で自分にこれを渡したのだろうか……ルシラは疑問を抱きながら、ランキングに記されている名前を黙読する。


 ナッセ、セブン、リュウゼン、ロイド……聞いたことがある名だ。彼らはいずれも人類最強の候補として有名である。このランキングの上位に記されていてもおかしくない。



*****************************


 27位:ロサナ=メルグリア

 28位:リズ=ドロウェル

 29位:ナイン=ユグドラシル

 30位:エドウィン=ウォーカー

 31位:ペネルト=ピルジャローア

 …………

 ……



 49位:ウォルフレッド=オルギス

 50位:エリザベート=デュライブ

 51位:ホセ=マキシア

 52位:ルシラ=エーヌビディア

 53位:クロチアード=メイ

 …………

 ……


*****************************



「……む」


 順位が下がるにつれて、徐々に聞き覚えのない名前が増えてきた。

 適当に読み流そうとした時、ルシラは自分の名前が記されていることに気づく。


 52位:ルシラ=エーヌビディア


 ネットが作った【人類最強ランキング(暫定版)】の中で、自分は52番目に強い人間と位置づけされていた。


 ランキングはその後も続いている。

 ざっと読み飛ばすと、100位まで記されていた。


 ページを捲ると、今度はネットのメッセージが記されている。

 ランキングの意図を知るためにも、ルシラは二枚目をじっくり読み始めた。



*****************************


 と、言うわけで、ルシラは52位にランクインすることになった。

 おめでとう。



 ……流石にそれだけでは何も伝わらないと思うので、順を追って説明する。



 いきなり手紙を出して申し訳ない。

 口頭で伝えるよりも、紙に書いた方が分かりやすいと思ったから、レーゼに頼んでこれを渡すことにした。


 見ての通り、ルシラは52番目に強い人間だ。

 ルシラの中にある龍の力が、どれだけ大きかったとしても、最高で52位となる。俺も詳しくは知らなかったが、どうやら龍化病で手に入る龍の力は、病原となる龍の情報からある程度推測できるらしい。


 ちなみにこのランキング、監修は大賢者マーリンと叡智王ルーカスだ。


 ルシラも名前くらいは聞いたことがあるだろう? 世界で最も知識を蓄えている二人だ。そんな二人に監修してもらったんだから、このランキングの信憑性は世界一と言っても過言ではない。……余談だが、この二人が協力して何かを作ったのは初めてらしい。本人たち曰く「歴史的な共同作業」とのことだ。明日の新聞に載るかもしれないな。




 さて……このランキングで俺が伝えたいことはひとつ。


 ルシラ。

 世界を舐めるな。


 龍化病なんて、ちょっと広い視野で見れば決して珍しい症状ではない。

 世の中には、龍を素手でぶっ飛ばせる人間だって幾らでもいるんだ。


 ランキングを見れば分かる通り、ルシラの順位は高くても52位。

 その上にはあと51人もの人間がいる。


 お前は化物じゃない。


 お前如きでは手も足も出ない、本物の化物が、この世界にはまだまだいるんだ。


 俺の言いたいことは分かるか?

 つまり……最低でも51人、お前のことを全く恐れない人間がいるということだ。 


*****************************



「……ぁ」


 ルシラはそこで漸く、このランキングの意図に気づいた。

 ネットが自分に何を伝えたいのか、はっきりと理解した。



*****************************


 ちなみに、ランキングには入っていないが、俺もそのうちの一人だ。

 ランキングの1位から51位のうち、俺は47人と会ったことがある。彼らと関わってきた俺にとって、たかが52位のお前なんか、その辺にいる一般人と同じだ。


 昨晩、ルシラの龍化を見た時の俺は怯えていたか? そんなことないだろう。

 俺はお前が龍になったところで、大して怖いとは思わない。


 ……それじゃあ、駄目か?


 少なくともここに一人、お前の力を全く恐れていない人間がいるわけだが。

 それがルシラにとっての、龍の力を受け入れる理由にはならないだろうか?



 この手紙を見ているということは、既に俺は城を発った後だろう。


 多分、俺は今、死にかけている。

 これで死んだところで、自業自得なのは間違いないが……もし、ルシラの気が変わったなら、是非とも手を貸して欲しい。


 ルシラの力は、誰かを救うために使うことができる筈だ。


 物は試しだと思って、まずは俺を助けてくれたら嬉しい。



*****************************



 手紙が終わる。

 最後の一文まで読み進めたルシラは、ぷるぷると身体を震わせた。


「くふ、ふふふ……っ!!」


 思わず、笑ってしまう。

 何が物は試しだ。何が助けて欲しいだ。


 いつの間にか立場が逆転している。

 てっきり、自分が助けられる側だと思っていたのに……気がつけば助けを求められている。


 だが、きっとそういうことなのだろう。

 奇妙で、おかしな話ではあるが、それがネットという男の生き様なのだろう。


 ――もしも、この世界が英雄譚なら。


 これは、ネットという英雄が、誰かを救う物語ではない。

 この世界に遍く存在する、様々な英雄たちが、ネットを救う物語なのだ。


 今回、その英雄に選ばれたのは――ルシラ=エーヌビディア。

 龍化病に蝕まれ、その身に宿った龍の力に怯える少女である。


 ただ――それだけに過ぎない。

 自分は、数多くいる英雄の、たった一人に過ぎないのだ。


「勇者にはなれないが……誰かを勇者にできる男、か」


 レーゼの言葉を思い出す。

 その意味を今、完全に理解した。


 きっと、これがあの男の常套手段なのだ。

 今回は自分が英雄に選ばれた。多分、レーゼの時(・・・・・)もあったのだろう。そして、その前はまた別の誰かが英雄に選ばれたのだ。


 バルコニーに出ると、一陣の風が吹き抜ける。

 小さく吐息を零したルシラは、己の内側にある龍の力に手を添えた。


 目の前にあるのは頑強な殻だった。他でもない自分自身が生み出した殻だ。その先にあるのは冷たい暗闇だと思っていたから、ずっと殻の中に閉じこもっていた。


 しかし、どうやら殻の向こうにあるのは暗闇ではないらしい。

 少なくとも一人、殻の向こうで待ってくれている男がいる。その事実は、ルシラの背中を優しく――強く押した。


 殻の向こう側は、想像していたものより温かいのかもしれない。

 信じてみよう……この先にある世界を。



 ――ミシリ、と身体が軋む。



 龍の鱗が頬を覆った。

 手足の爪は逞しく伸び、歯の間に鋭い牙が生える。


 不思議だ。発作で龍化する時はいつも苦しかったのに、自分の意志で龍化すると、全く苦しさを感じなかった。自分の中で相反していた二つの要素が噛み合ったかのようだ。


「妾の、爪は……」


 その手に生えた鋭い爪を見る。

 この爪は、破壊と暴力のためはなく、誰かを救うための剣になれるだろうか。


「妾の、翼は……」


 窓に映る純白の翼を見る。

 この翼は、殺戮を振りまくためではなく、助けを求める誰かのために羽ばたくことができるだろうか。


「妾の、力は……ッ!!」


 身体の奥底から湧き上がる、龍の力を感じ取る。

 この力は――誰かを救うために、使うことができるだろうか。


 自信はない。だから委ねようと思った。

 自分を信じてくれた、あの男に――この力の在り方を決めてもらおう。





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