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35話『勇者にはなれませんが』


「す、すぐに撤退を指示するのじゃ!」


 ルシラは叫んだ。

 目の前に立つレーゼを睨む。今、ネットたちが毒魔龍と戦っているというのに、どうしてそんな冷静な態度を保っていられるのかルシラには全く理解できなかった。


「お主も、戦ったことがあるなら分かるじゃろう! 毒魔龍は、勝てる相手ではないのじゃっ!!」


 だから連合軍が敗れた後、誰も毒魔龍には挑まなかったのだ。

 しかし――。


「ネットは、止まりませんよ」


 レーゼは落ち着いた声音で告げる。


「かつてあの男は、勇者に憧れ、挫折し……それでも志だけは胸に残った。……あの男は、貴女を救うと決めたのです。それが成し遂げられるまで、止まることはありません」


 断言するレーゼに、ルシラは目を見開く。


「しかし……殿下の言う通り、このままでは勝てないでしょう」


 当たり前だ。

 そう、ルシラが告げる前に――レーゼは言った。


「ネットは待っています。殻を破って、駆けつけてくれる誰かを……」


 それが誰のことを指しているのか、ルシラはすぐに察した。

 しかしルシラは拳を握り締め、視線を下げる。


「わ、妾は……それでも……」


 ルシラは過去、発作を抑えている時に偶々鏡を見たことがある。

 鏡に映る自分は、悍ましい化物にしか見えなかった。その身に破壊の力を宿す、正真正銘の化物……そんな醜い怪物になるくらいなら、自ら死を選ぶ覚悟だった。


 だが今、その覚悟が揺らぎ始める。

 ネットという、一人の男の生き様によって……。


「……少し、昔話をしましょう」


 不意に、レーゼは言った。


「私は以前、ネットに家族を救ってもらいました」


 レーゼは過去を懐かしむような表情で語り続ける。


「その時、ネットは私ではなく、また別の冒険者を雇っていました。家族を救われた私は勿論、ネットに感謝を抱きましたが……それ以上に気になったのは、ネットが雇っていた冒険者の表情です」


「表情……?」


 訊き返すルシラに、レーゼは微笑む。


「とても、誇らしげな顔をしていたのです。……ただ雇われているだけの冒険者が、何故あのような顔つきでいられるのか、気になって仕方ありませんでした」


 大切な思い出を語るように――レーゼは丁寧に言葉を紡ぐ。


「それから私は暫くの間、ネットと共に行動するようになり……その冒険者の気持ちを理解することができました。……あの男は、いつだって誰かのために戦います。決して、強くはないのに……その信念だけは揺らがない。あの男は、力を持っていませんが、誰よりも力の使い方が分かっているのです」


 どこか誇らしい表情で、レーゼは語る。


「もし、自分が強さを持て余すくらいなら……彼のような人物に託したい。いつの間にか私は、そう思うようになりました」


「……じゃから、お主は、ネットに従っておるのか?」


「はい。私だけでなく、きっとネットを慕う者の全てが、同じ考えの持ち主でしょう」


 ネットは大勢の仲間を持つ。レーゼは、その全てと知り合いというわけではない。

 だが、きっと顔を合わせれば盛り上がるだろうと思う。あの男に協力している時点で、気が合うのは間違いないのだ。


「ルシラ殿下。どうか、ネットを信じてやってください」


 レーゼは真剣な面持ちで告げる。


「あの男は、勇者にはなれませんが――誰かを勇者にできる男です」


 言葉の意図はすぐに分かった。

 今、目の前に、その誰か(・・)の枠があるのだ。レーゼはそれをはっきりと伝えていた。


「これを渡しておきます」


 レーゼは、一枚の手紙をルシラに渡す。


「これは……?」


「ネットが、殿下に書き残した手紙です。本当はこれを渡すことだけが私の仕事でしたが、少し話が長引いてしまいました。……徹夜で書いたようですから、できれば最後まで目を通してやってください」


 そう言ってレーゼは踵を返した。


「ま、待て! 何処に行くのじゃ!?」


「勿論、戦場です。予定では、そろそろ私が必要になる頃合いですので」


「……今から行って、間に合うというのか?」


「間に合いますよ。私は足が速いので。……まあ、貴女には負けるかもし(・・・・・・・・・・)れませんが(・・・・・)


 微笑を浮かべてそう告げたレーゼは、今度こそ振り返ることなくルシラの前から去った。

 手紙を受け取ったルシラは、すぐ傍にある、ネットに宛がっていた客室の扉を開いた。


 部屋の中に入り、ネットが書き残したという手紙を読む。

 一体、どのようなことが書かれているのか、恐る恐る読み進めると――――。




【人類最強ランキング(暫定版)】




 手紙の冒頭には、そのような文言が記されていた。


「な、なんじゃ、これは……?」



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