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34話『勇者になりたかった』


 勇者になりたかった。


 誰もが羨む英雄になりたかった。人々の希望を担い、世界を混沌に陥れた魔王を討ち滅ぼして、人類を――世界を救いたかった。


 どうしてそんな風に思うようになったのか、切っ掛けは分からない。子供の頃に読んだ英雄譚かもしれないし、街の酒場で聞いた吟遊詩人の唄かもしれない。


 ただ俺は、とにかく誰かのために剣を握って戦いたいと思っていた。

 勇者になりたい。そんな強い志を、幼い頃の俺は持っていた。



 しかし――現実は甘くない。

 勇者を志した俺は、程なくして自分に才能がないと知った。


 身体能力は平均以下。同世代と比べると、スタミナはないし膂力もない。体格も決して優れている方ではなかった。おまけに存在力も上がりにくい体質だと発覚した。


 では頭脳はどうかと問われると、こちらも平凡止まりだった。地頭は普通で、独特な戦術を編み出すほどのセンスもなく、記憶力も興味の対象でなければそこまで優れているわけではない。そんな頭では魔法の習得も難しかった。


 ――才能がない。


 勇者になるとか、ならないとか。それ以前の問題で……俺には戦う才能がなかったのだ。



 だから俺は、誰かを頼ることにした。

 どう足掻いても、俺は勇者になれないから。


 勇者になれないと分かったのに――どうしても、誰かのために戦いたいという気持ちだけは、消えなかったから。


 とにかく強い人たちに声を掛けた。

 彼らに対する尊敬と憧憬を忘れることなく、彼らと共に行動を続けた。


 そうして、勇者になるという道を諦めてから、数年が経過した頃。

 いつの間にか俺の周りには色んな人たちが集まるようになっていた。俺は、俺自身が勇者になることを諦めれば、それなりに人生が上手くいくと気づいたのだ。


 それでも、ほんの数日前。

 インテール王国で、俺の作った冒険者パーティが、勇者パーティに任命されると聞いた時。


 きっと俺は――心のどこかで期待した。

 こんな俺でも、勇者になれるのではないかと。


「本当に……俺はどこまでも半端者だな……」


 パーティを追放された時のことを思い出す。

 今思えば、インテール王国の国王陛下に、色々と根回しすることができたかもしれない。


 陛下が勇者パーティを募集していることは知っていたし、その第一候補に俺たち『星屑の灯火団』の名が挙っていることにも気づいていた。


 それでも、俺が敢えて根回しを一切しなかったのは――――。



 ――認められたかったのだ。



 お前は勇者だと、言って欲しかった。

 根回しや損得勘定による、ねじ曲げられた意見ではなく……純粋に、勇者だと認められたかったのだ。


「くそ……」


 中途半端な自分の生き様に吐き気がする。まさかまだ諦めきれていなかったのか……その幼稚な精神をぶん殴りたくなる。


「思ったより……こたえたのかもな……」


 認めざるを得ない。

 どうやら勇者パーティの追放は――俺にとってそれなりに辛かったようだ。

 今まで明るく振る舞っていた分、その事実に気づくと一気に頭が重たくなった。


 俺は弱い。そんなこと、今更言われなくても気づいている。

 身体だけではない。きっと俺は心も弱い。


「ネット!!」


 その時、メイルの声が聞こえた。

 気づけば毒魔龍の顎が迫っている。


 俺はすぐに風馬を操り、毒魔龍の噛み付きを紙一重で回避した。

 毒魔龍が動くだけで爆風が吹き荒れる。その風に乗って瘴気がばらまかれ、肌が焼けるような痛みを訴えた。


「ネット、あまり無茶をするな!」


 メイルが剣を振り回し、周囲に立ち込めていた瘴気を吹き飛ばす。


「お前は――戦えないのだろうッ!!」


 メイルが叫ぶ。

 それは、俺の覚悟を今一度呼び起こす言葉だった。


「ああ……そうだな」


 メイルの言う通りだ。

 俺は戦えない。それを認めたからこそ――今の俺がある。


「メイル、もう少し持ち堪えてくれ! 後少しでレーゼが来るッ!!」


 必死に叫ぶと、メイルは不敵な笑みを浮かべて毒魔龍と対峙した。

 その勇ましい姿を見て俺は安心する。――ああ、やっぱり彼女たちは、俺には手の届かない世界にいるのだ。


 彼女たちを尊敬するのはいい。しかし、比較して今の自分を否定してはならない。

 勇者を諦めた過去は重苦しいが、俺は今の自分の生き様に満足しているのだ。


 この生き方をしてから、ちっぽけな信念も成長した。

 幼い頃は、漠然と誰かのために戦いたいと思っていたが――今は違う。

 この胸にあるのは、確かな覚悟だ。



 俺はいつだって、誰かに助けられて生きている。



 だから俺は――誰かのために生きなくてはならない。



「ルシラ……ッ」


 理不尽な運命を前にして、苦しんでいる少女のことを思い出す。

 彼女に救いの手を差し伸べるのは――俺の使命だ。



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