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23話『再び城へ』


 再び城へ向かう途中、レーゼは通信石で協力者と話し合っていた。

 いつ、どこで合流するか、城の警備状態はどうなっているかなど、一通り確認してもらう。やがてレーゼは通信石を甲冑の内側に仕舞い、俺を見た。


「段取りがついた。合流地点は、城内にある大食堂の厨房だ。使用人の出入り口を利用すればすぐに行けるらしい」


「分かった。ただ、無策に突っ込めば間違いなく捕まってしまうから……」


 レーゼと視線を交錯させる。

 こちらの言いたいことを察したのか、彼女は不敵な笑みを浮かべた。


「私の出番だな」


「……ああ。任せる」


 自然と役割分担が済む。付き合いが長いと意思疎通が円滑で気も楽だった。

 周囲にいる騎士たちに見つからないよう、狭い路地裏を歩いていると、小さな露店を見つけた。衣服……それも旅装束を専門に扱っている店らしい。王都は観光客が多いから、旅に役立つ商品の需要も高いのだろう。


「レーゼ、警戒を頼む。少しあの露店に寄りたい」


「露店? 何か買うなら私が行った方が安全ではないか?」


「レーゼじゃ駄目だ」


 短く告げて俺は露店に向かった。

 無精髭を生やした店主は、すぐ来客に気づく。


「いらっしゃい、お兄さん」


「この黒い外套を一着頼む」


「これですかい? お兄さんには少し大きい気がしますが……」


「これでいい。代金はここに置いておくぞ」


 あまり悠長にしていられないので、目的の物を手に入れた俺は速やかに店を去った。

 そして再びレーゼと合流する。


「レーゼ、これを着てくれ」


「それはいいが……何故だ?」


「『白龍騎士団』の団長であるお前が、表立って城の騎士と戦うわけにはいかないだろ」


「む、そう言えばそうか。失念していた」


 そんな大事なことを失念しないで欲しい。

 レーゼが直接購入すれば足がつくので、先程は危険を承知で俺が購入した。……この手の尻拭いは高確率で俺の仕事になるのだから、今のうちに対策させてもらう。


「……待てよ。よく考えれば、ネットから贈り物を貰ったのは、これが初めてではないか?」


「……そう言えば、そうかもな」


「流石にそれは複雑だ。事が終わればやり直しを要求する」


「分かった、分かった。なんでもやるから後にしてくれ」


「なんでもと言ったか? それは添い寝とかも頼んでいいのか?」


「物品限定だ。とにかく後にしてくれ」


 疲れた。……身体ではなく心の方が。

 基本的にS級冒険者は、大抵の敵に勝つことができるため、危機感が薄い者も多い。……厳密には危機感が薄いというより鈍感だ。あらゆる苦難を乗り越えてきた歴戦の猛者たちにとって、大慌てするほどの危機というのは滅多に生じない。


 夜の帳が下りたこの王都で、俺とレーゼは息を潜めて城へ近づく。

 警備は城に近づくほど疎らになっていた。……当然である。逃走中である俺が、再び城に戻ってくるなんて誰も思うまい。


「レーゼはここで待機してくれ。三十秒後、作戦開始だ」


「承知した。武運を祈るぞ」


「そりゃこっちの台詞だ」


 なにせ俺は戦わないのだから。

 いつだって、戦いだけは誰かに任せているのだから。


 ――作戦開始。


 城の裏口に回り、三十秒が経過した頃。

 正門の方で豪快な破壊音が聞こえた。


 レーゼの役割は陽動だ。とにかく城にいる騎士たちを誘き出し、無力化することに専念してもらう。


 その隙に、俺は城の中に入る。

 鉤縄を利用して、素早く城壁を越えた。付近にいる騎士たちが正門の方を振り向いているうちに合流地点へと向かう。


「ネット様、こちらです」


 あらかじめ鍵が開けられていたドアを抜けると、どこからか声が聞こえた。

 廊下の先にある部屋のドアが開いている。その中から手招きしている女性がいた。俺は足音を立てずにその部屋まで向かう。


「レーゼが言っていた協力者だな」


「はい。この城の使用人として働いている、ヘルシャと申します」


 厨房のドアを閉めた後、ヘルシャと名乗ったその女性は粛々と頭を下げた。

 歳は二十代の半ばくらいだろうか。背は高く、顔はどちらかと言えば美人よりで、凛とした雰囲気がある女性だ。深い赤色の髪は後ろの方で纏められており清潔感がある。ギブソンタックと呼ばれる髪型だ。フリルのついた白黒のメイド服もきっちり着こなしており、城内で働いても違和感がない気品を醸し出していた。


「ネット様は、私のことなど覚えていらっしゃらないと思いますが――」


「……いや、見覚えはある」


 ヘルシャの顔を見つめながら、俺は頭の中の記憶を探った。


「確か、二年くらい前だった筈だ。この王都から馬車で行ける距離の、小さな村だったような……」


「……流石ですね。仰る通り、貴方は二年前に私が暮らしていた村を訪れ、付近で出没していたモンスターを退治してくれました。私とネット様は、ほんの数秒だけ顔を合わせただけですが……まさか覚えていらっしゃるとは」


「人の顔を覚えるのは得意なんだ」


 そう告げると、ヘルシャは柔らかく微笑んだ。 


「しかし、二年前というと……『星屑の灯火団』として活動していた時期じゃないな」


「はい。貴方がたが星屑(・・)になる前……一塊の大きな輝きだった時代に、お世話になりました」


「……成る程」


 あの頃は活動の幅が広かった。

 ヘルシャの村を訪れ、モンスターを討伐したこともあるかもしれない。


「お急ぎのところ申し訳ございませんが、ひとつだけ質問させてください。……貴方は、正体を隠しているのですか?」


 真剣な面持ちで尋ねるヘルシャに、俺は後ろ髪を掻きながら答えた。


「慎んでいるだけだ。そこまで必死なわけじゃない」


 別に、必死になっているわけではないが――。


「ただ……馬鹿でかい有名税を支払うのは、もう懲り懲りなんでな」


「……心中お察しいたします」


 ヘルシャは恭しく頭を下げた。

 この話題はあまり得意ではない。そろそろ行動を開始しよう。


「レーゼから話は聞いていると思うが、俺はルシラ様と会いたい。頼めるか?」


「はい。これでも私、メイド長を務めていますから」


 淡々と告げるその女性に、俺は目を丸くした。


「村人から、随分と出世したな」


「貴方がたの活躍を目の当たりにした者は、皆、少なからず野心を揺さぶられます。……私もその一人です」


 良い影響なのか悪い影響なのか、俺には判断できないが、少なくともヘルシャにとっては良い影響だったようだ。


「では、案内いたしますね」



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