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22話『本当の目的』


「ネット、怪我はないか?」


「ああ」


「怖くなかったか? 寂しくなかったか?」


「怖くも寂しくもな…………おい、さり気なく頭を撫でるな」


「いいではないか、少しくらい。ちなみに私は寂しかったぞ」


 知るか……と言いたいところだが、助けてもらった身としては多少報いたい気持ちもある。

 抵抗をやめて、暫く頭を撫でられることにした。美しい金髪が鼻の先を掠り、くすぐったく感じる。呼吸すると、ほんの微かに香水の甘い香りがした。


 優しく頭を撫でていたレーゼの動きが、次第に激しくなる。

 やがてレーゼは鼻息荒く、興奮した様子で――。


「駄目だ、もう我慢できん。少しだけ抱き締めさせてくれ」


「やめろ。お前そう言って一日中離さなかったことがあるだろ」


 肩を押して突き放すと、レーゼは残念そうな顔をした。


「しかし……先程ネットを追っていた連中は、この国の騎士ではないか? 何があったんだ」


「それが、俺にも分からないんだが……」


 取り敢えず、ルシラ様と話した内容をレーゼに伝えた。

 だが、レーゼもルシラ様の豹変した態度に心当たりはないらしく、不思議そうな顔をする。


「相変わらずのトラブル体質だな」


「……俺のせいみたいに言うなよ」


 確かにトラブル体質の自覚はあるが、それは色んな人と接する以上、仕方のないことだ。

 トラブルには慣れている。しかし……今回は不可解な点が多く、迂闊に動けない。


「毒魔龍の討伐をネット一人に依頼するとは、どう考えても普通の思考ではない。何か事情がありそうだな」


「……多分な」


 レーゼの言葉に俺は首肯する。


「軽く話してみたところ、ルシラ様は、本心では俺が毒魔龍を倒せるとは思っていないようだった」


「ふむ。にも拘らず、お前に毒魔龍の討伐を強要したのか」


「ああ。つまり……本当の目的は他にある(・・・・・・・・・・)


 毒魔龍を倒すことが目的なら、俺よりもっと信頼のおける人間に任せるべきだろう。それこそ、エーヌビディア王国が誇る冒険者パーティ『白龍騎士団』などに。


 しかし、ルシラ様はそうしなかった。

 彼女はあくまで俺に依頼することを重視していた。ということは――。


「目的は――俺を毒魔龍にぶつけることだな」


 俺と毒魔龍が戦うこと。

 恐らくそれ自体が目的なのだろう。

 

「理解できんな。何故、ルシラ様がお前にそんなことをする」


「さぁな。それが分かれば、説得の可能性も見つかりそうだが……」


「何か粗相でもしたのか? 無理矢理スキンシップを迫ったんじゃないだろうな」


「お前と一緒にするな」


 そんなことするわけないだろ。

 相手は王族だ。楽しく会話をしていただけだし、その上で気も使っていたつもりだ。


 頭を冷やす。

 どうしてルシラ様は俺と毒魔龍を戦わせたいのか、まずはその事情を調べた方がいい。


 或いは、いっそ――毒魔龍の討伐を承諾してしまうか。 


「……レーゼ。『白龍騎士団』を総動員すれば、毒魔龍を討伐できるか?」


「無理だ」


 即答される。


「物理攻撃を得意とする我々にとって、毒魔龍は相性が悪い。アレは近づくだけでも猛毒を受けてしまう、まさに難攻不落の砦だ」


「……まるで戦ったことがあるような口振りだな」


「ああ。実際、一年前に戦った」


 レーゼは続けて説明する。


「毒魔龍討伐のために、近隣諸国の有志を集めて連合軍が編成されたんだ。『白龍騎士団』もその戦いに参加した」


 そう言えば、メイルが言っていた。連合軍を編成して毒魔龍に挑んだが、返り討ちにあったとか。……その戦いにレーゼは参加していたらしい。


「あと少しのところだったんだがな、それ以上に被害が大きすぎて撤退するしかなかった。……あれは中々の地獄だったぞ。幻覚、幻聴、身体の麻痺に、堪えきれない激痛。肌が爛れる者もいれば、延々と吐血する者もいた。後遺症が残った者もいる。……毒とは、こうも恐ろしいものなのかと痛感した」


「……できれば一生経験したくないな」


 説明が生々しい。本当にその光景を目の当たりにしてきた人間の言葉だ。

 俺には耐えられそうにない。


「何にせよ、まずはルシラ様の意図を知りたい。そのためには、本人と直接話すのが一番手っ取り早いんだが……こうなってしまった以上、会いに行くのは難しいし、どうするべきか……」


 考えを口に出して整理する。

 その時、レーゼが何か思いついたかのような様子で口を開いた。


「ネット。妙案が浮かんだ……というか思い出した」


 レーゼが告げる。


「協力者を紹介する」


「……協力者?」


「実はあの城の中に、お前がかつて救った人物がいるんだ。……以前『白龍騎士団』に、お前に救われた礼がしたいと言って、わざわざ訪ねて来たことがあってな」


「……そんなことがあったのか」


 俺が過去に救った人物。流石にその情報だけで相手が誰かは思い出せないが、過去の行動が今の自分を助けるというのは感慨深いことだ。


 城の中にいるというなら、ルシラ様との面会にも力を貸してくれるかもしれない。

 これは、乗るべき提案だ。


「よし、紹介してくれ」


「承知した」



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