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18話『姫様と通信』


『ネット様!!』


 通信石の向こうから、聞き慣れた明るい声音が聞こえた。


「久しぶりだな」


『はい! お久しぶりです!』


 インテール王国の姫様は今日も元気いっぱいらしい。もし姫様に犬の尻尾が生えていれば、今頃さぞや激しく揺れているだろう。そんな様子だ。


「いいのか、俺と通信して。どうせあの陛下のことだから止められているんだろう?」


『大丈夫です! ちゃんとお父様の監視から逃れた上で通信していますから! この程度の逆境で、私とネット様の仲が引き裂かれることはありません!』


「そりゃよかった」


 姫様も伊達に王族ではない。陛下の言いなりにならない胆力もあるし、不要な争いを避ける頭脳も備わっていた。


 巷では声を掛けることすら憚られるほど高貴な女性と評判な姫様だが、王族としての能力や立場を抜きにすれば、ただの明るくて口数が多い、年頃の少女そのものだ。とは言え普段は公務で忙しい筈。こうして通信してきたということは、火急の用件でもあるのかもしれない。


「何かあったのか?」


『はい。ネット様が旅立ってから、インテール王国の方で幾つか変化がありましたので、念のためお伝えしようかと』


「それは助かる。勇者パーティの動向については、こちらも新聞などで知っているから省略してくれて大丈夫だ」


『承知いたしました』


 急ぎの用件というわけではなかったが、いずれ俺の方から聞かなければならないと思っていた情報だった。姫様との付き合いもそれなりに長い。俺の考えを読み取ってくれたのだろう。


『まず、城の人事についてです。ヨアルダール財務官が城を去りました。お父様と宰相が、勇者パーティの損害賠償を税金で賄おうと考えたところ、意見が割れたようです』


「そうか。……その流れだと、後任はエルゼール徴税官になりそうだな。あの人は以前から財務官の補佐もしていたから」


『その通りです。次に、軍部にも幾つか動きがありまして――』


 姫様は続けて説明する。

 俺は必要に応じて、手帳にメモを取った。


『枢機卿の立場が変わったことで、ネット様が運営している孤児院にも影響が出るかもしれません』


「確かに、そうかもな……」


 話は俺が経営している孤児院にも及んだ。

 インテール王国の片田舎にある、小さな孤児院……牧歌的な村を自由に駆け回る子供たちのことを思い出す。


「悪いな。孤児院のこと、いつも任せっぱなしで」


『いえ! 元々あの孤児院は、私とネット様の二人でやりくりしていますし……それに孤児院の子供たちと遊ぶのは、私にとってもいい息抜きになりますから』


「……そう言ってくれると助かる」


『子供たちも、ネット様に会いたいと言っていましたよ』


「そうか。……いつになるか分からないが、なるべく早めに時間を作ってみる」


 俺は孤児院を五つほど持っているが、顔を出すことは滅多にない。今回のように定期的に通信で様子を確認し、必要な資金を送っているだけだ。


 子供たちには、さぞや冷たい男と思われているのだろう……と、諦念に近い感情を抱いていたが、姫様の話によるとそうでもないらしい。もっとも、ただの慰めの言葉かもしれないが。


「しかし、あれから色々あったみたいだな」


『はい。本当に、ネット様が国を発ってからは色々と騒がしくなり――』


 姫様の言葉が不意に途切れたかと思いきや、


『――そうです! ネット様! どうしてエーヌビディア王国にいるんですかっ!? 私、ネット様が国を去るなんて話、全然聞いてませんでした!!』


 大きな声が聞こえ、俺は通信石を少し耳から遠ざけた。


「あー……悪い。でも、言ったら止められる気がしたし」


『当然です! ただでさえネット様は滅多に帰って来ませんのに! せめてもう少しお話ししたかったです!』


「話なら今してるだろ」


『直接、お顔を見て話したかったんです!!』


 それは申し訳ないことをした。しかしタイミングを逃すと陛下に目を付けられそうだったので、今回ばかりは仕方ない。


 今頃は陛下も勇者パーティの動向に頭を悩ませているだろう。俺も彼らの扱いには苦労したため、同情心が湧かないわけでもないが、自業自得なので放っておくことにする。


「話は変わるが、エマ外交官はそっちにいるか?」


『エマ外交官ですか? ……いえ、まだ派遣された国から戻っていませんけど、何かあったんですか?』


「いや、そういうわけじゃないんだが……あの外交官は諸外国を回っているだけあって、俺の他国での経歴にも詳しいからな。普段は口が硬いが、状況が状況だし、もしかしたら陛下に何か言ってるんじゃないかと思ったんだ」


『……口止めしておきますか?』


「いや、いい。陛下や宰相も、いずれ俺のことを調べ直すだろう。この辺りが潮時と考えることにする」


 どうせ俺はもうインテール王国にはいないのだ。

 何かを知られたところで、俺自身の生活にそこまで影響は出ないだろう。


『そう言えば、お父様のことでひとつ気になったことが』


 姫様は思い出したかのように言った。


『先刻、宰相がお父様の指示で、エーヌビディア王国について調査していました。もしかすると……何か企んでいるのかもしれません』


「……企んでいる?」


 不穏な気配を感じるその言葉に、俺は眉根を寄せた。




 ◇




 数刻前。

 インテール王国の王城では、大騒ぎが起きていた――。




 次回、勇者パーティまたやらかす。



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