17話『報酬の行方』
「す、凄い額だな」
「これなら山分けに困ることもないな」
レッド・ワイバーン三体の討伐と、オーガ十体の討伐。
それぞれの報酬金を見たメイルとレーゼが、各々の反応を示した。純粋に驚くメイルと違って、レーゼは既に山分けのことを考えている。『白龍騎士団』の団長であるレーゼにとって、この程度の報酬は大したものではないのだろう。
「俺の取り分は一割でいい」
「えっ?」
俺の言葉を聞いて、メイルが驚いた。
「流石にここで三等分を提案するほど、俺は厚かましくないつもりだ」
戦闘中、俺は何もせず棒立ちになっていただけだ。《護身衣》によるイレギュラーはあったが、あれは俺の功績とは言えないだろう。
「いや、報酬は同じ割合にしてもらいたい」
レーゼが真面目な表情で言う。
しかし俺も、簡単に譲る気はなかった。
「レーゼ。こういうのはちゃんと、働きに応じた分だけ貰うべきだ」
「そうか。なら、多めに貰った分は後日お前宛でギルドに預けておくぞ。私が貰った金は、私がどう使おうと勝手だからな」
「……おい」
そんなことをされたら、抵抗のしようがない。
何も言い返せなくなった俺を、メイルは意外そうな目で見ていた。
「ネットでも、誰かに言いくるめられることがあるんだな……」
「ふっ。伊達にネットとの付き合いが長いわけではないからな」
レーゼが誇らしげに言った。
それから、彼女は少しだけ真剣な面持ちとなって俺を見据える。
「ネットには日頃から、情報提供や交渉、相談などで世話になっている。その分の借りを返したいだけだ。……これは『白龍騎士団』の総意と捉えてもらっても構わない」
「……分かった。ならレーゼとは等分する」
溜息を吐いて俺は頷いた。
すると、レーゼの隣に座っていたメイルも口を開く。
「私も等分でいいぞ。元々、今日の目的はネットを手伝うことで、報酬に関しては度外視だった筈だ。それに……ここで私が多めに報酬を貰ってしまうと、ルシラ様が怒る」
流石に王女殿下の面子を持ち出されると、どうしようもない。
唇を引き結ぶ俺に、メイルは少し勝ち誇ったような笑みを浮かべた。俺を言い負かして嬉しいらしい。
「……じゃあ三等分な」
俺だって別に報酬が欲しくないわけではない。
貰えるというなら、貰ってやるまでだ。
「レーゼ様、ネットを言い負かすと気持ちいいですね」
「そうだろう。……まあどうせこの男は、多めに貰った分をどこかに寄付するだけだと思うがな」
「え」
メイルが目を丸くする。
レーゼは訳知り顔で俺に質問を繰り出した。
「今、ネットが経営している孤児院は四つだったか?」
「五つだ。最近また増えた。今回はそこに寄付する」
「傭兵団も持っていただろう? あれはどうした? 最近聞かないが……」
「東の方にある共和国にレンタルしてる。便宜上、騎士団という名前に変わったからレーゼが気づいていないだけで、今もそれなりに目立っているぞ」
そんなふうに会話する俺とレーゼに、メイルは目を見開いた。
「な、なあ、今更なんだが……ネットって、実は凄まじい権力を持っているのではないか?」
「ただ顔が広いだけだ」
偶にそういうことを言われるので、俺はお決まりの返答を反射的に告げた。
しかし、レーゼがすぐに俺の言葉を掻き消すかの如く告げる。
「メイル殿もそろそろ分かっていると思うが、こういう時のネットの発言は真に受けない方がいいぞ」
レーゼは俺の味方ではなく、俺の敵かもしれない。
思わずそんなことを考えてしまうほどの発言だった。
その時、ポーチの中から震動を感じる。
カタカタと小さな音が鳴るポーチを開くと、通信石のひとつが着信を報せていた。
「……姫様?」
石の表面には、金髪碧眼の少女の名が刻まれていた。
「悪い、ちょっと通信が入ったから席を外す」
「相手は誰だ?」
「インテール王国の姫様だ」
レーゼの問いに答えながら、俺は椅子から立ち上がった。
「……一国の王女と気軽に通信できる時点で、おかしいと思うんだが」
「ようこそメイル殿、こちら側の世界へ。あの男と一緒にいると退屈しないぞ。……気を抜けば常識がねじ曲げられるから注意してくれ」
背後で到底納得できない言葉が聞こえたが、真面目に取り合うのも癪だったので無視することにした。
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