15話『VSレッド・ワイバーン』
レッド・ワイバーンとの戦闘が始まった。
ワイバーンも龍も、角の生えた頭に、大きな翼、長い尻尾を持っているが、形状が近いだけでその性質は異なる。ワイバーンの身体は龍と比べて一回り小さく、更に龍と違って頑強な鱗に守られているわけでもないため、攻撃を当てることさえできれば勝機を見出せるモンスターだ。
ワイバーンは龍と違って理性を持たないため、その動きも獣らしく直線的である。つまり先読みしやすい。
目の前の上空で雄叫びを上げる三体のレッド・ワイバーンを見て、メイルは剣を構えた。
「メイル、コツは分かってきたか?」
「ああ。ネットが言っていた通り、奴らが下りてきた瞬間が攻撃のチャンスだな」
レッド・ワイバーンは好戦的だが、遠くにいる敵を攻撃する術を持たない。そのため、ワイバーンは俺たちに攻撃するために必ず一度地面に下りてくる。
「メイル殿、来るぞ」
「はい!」
先頭に立っていたメイルが、レッド・ワイバーンに狙いを定められた。
横合いから迫るワイバーンの巨躯。最初は怯えていたメイルだが、ようやくその速さと恐ろしさに慣れたのか、今度は最小限の動きでワイバーンの爪を避け――。
「せあ――ッ!!」
レッド・ワイバーンの胴体を斬りつける。
ワイバーンは悲鳴を上げて空へ逃げていった。しかし傷が深かったらしく、やがて墜落する。後で一応確認はしなくてはならないが、あの様子だと討伐できているだろう。
「ところで、ネット……」
戦いを眺めていると、不意にメイルが声を掛けてきた。
「お前……レーゼ様とは、どういった関係なんだ」
もう何度もされた質問だった。
溜息を吐いて、俺は言う。
「まだ気にしているのか」
「き、気にするに決まっているだろう! あんな狭い密室で、レーゼ様をあんな格好にさせておいて……! し、しかもよく見たら、レーゼ様も満更ではなさそうだったというか……!」
思ったよりも鋭い観察眼を持っているらしい。
しかし、今はそれを戦闘のために使ってもらいたい。
「二体目のレッド・ワイバーンが来たぞ」
「おい、誤魔化す――――うわあ本当に来たっ!?」
メイルのポンコツ化が激しい。
レーゼと共に行動することで、彼女の騎士としての向上心も高まるのではないかと期待していたが、もしやこれは逆効果だろうか。
「く――このッ!!」
メイルは咄嗟に剣を縦に構えた。
刀身に掌をあて、迫り来るレッド・ワイバーンの爪を受け止める。直後、メイルは掌を柔らかく使い、衝撃を斜めに受け流した。レッド・ワイバーンの爪が刀身を滑る。
「やるなぁ」
「お、お前……! お前は本当に、何もしないんだな……ッ!!」
「してもいいが、足を引っ張るぞ」
「じっとしていろ!!」
メイルが額に青筋を浮かべて言った。
しかし、ギルドでは散々「無理」だの「死ぬ」だの言っていたメイルだが、いざ戦ってみれば中々いい勝負をしていた。そう簡単に倒すことはできないが、レッド・ワイバーンもメイルに中々決定打を与えられないでいる。本職の騎士というだけあってメイルは守りに長けているようだ。
「ネットが連れてきただけあって、筋がいいな」
いつの間にか隣に立っていたレーゼが、メイルの戦いを見つめながら言う。
「完全に偶然なんだけどな。……クラーケンの一撃をただの剣で防いでいたから、有望なのは間違いない。しかもあれで、まだ存在力は3だ」
「あれで3か。瞬間的に、存在力4に相当する力を出しているが……ふむ、鍛えれば化けそうだな」
レーゼが真剣な面持ちで、戦うメイルを観察する。
その様子に、俺は彼女が何を考えているのか察した。
「友好を深めるだけなら別にいいが、スカウトはやめておけよ。メイルは、王女殿下……ルシラ様のお気に入りだ」
「……承知した。相変わらず、お前は人の心を読むのが巧いな」
そうでもしなければ会話が成り立たない相手も、世の中にはいるのだ。
「どれ、この辺りで私も戦っておくか」
レーゼが鞘から剣を引き抜く。
シュルリと音を立てて抜き身となったその剣は、淡い光を宿していた。
「メイル殿、交代しよう」
「は、はい!」
メイルがワイバーンと距離を取る。幸いワイバーンたちもこちらの戦力を警戒しているらしく、二体まとめて襲ってくるようなことはなかった。
「行くぞ――」
レーゼが駆ける。
刹那、光の斬撃がレッド・ワイバーンの巨躯を切り裂いた。
あれがレーゼの特殊武装――《栄光大輝の剣》である。
冒険者パーティ『白龍騎士団』の象徴でもある、白龍と呼ばれるモンスターの素材を使って生み出された剣だ。光を司る白龍の鱗と牙をふんだんに用いて鍛えられたその剣は、目にも留まらぬ一閃によってあらゆる物質を切断するという。
「あれがレーゼ様の戦い……な、なんて神々しいんだ……っ!!」
メイルは若干、興奮しすぎだが、それでも視線が釘付けになるのは理解できる。
迸る閃光は幾重にも連なり、目の前の戦場に光の華が咲きこぼれた。中心にいるレーゼはまるで舞台女優であるかのように、幾つもの光を浴びながら優雅に剣を振るっている。
レーゼの存在力は6……その膂力は、足踏みだけで地面にクレーターを生み出し、拳だけで大木をへし折るほどのものだ。《栄光大輝の剣》と存在力6の膂力。この二つの組み合わせは凄まじい攻撃力を発揮する。
だが、その時――。
「ネット! 危ない!!」
メイルの叫び声が聞こえた。
見れば上空にいる三体目のレッド・ワイバーンが、俺に狙いを定めて突進していた。
巨大な質量だ。生身であの突進を受ければひとたまりもない。
メイルが叫ぶ。しかしその一方で、レーゼは俺を信頼しているのか全く焦っていなかった。
レーゼが無言で俺を見つめる。
防ぐか?
不要だ。
視線だけでやり取りを済ませる。
レーゼは俺の返答を予想していたのか、あっさり納得した。
――さて、どれを使おうか。
ポーチの中に手を突っ込み、取り出す道具を選択する。
だが、俺が道具を取り出すよりも早く、不思議な感触がした。
「ん?」
全身が淡く発光する。
おかしい。俺は何もしていない筈だが、その光は徐々に強くなり――。
「あっ」
キィン、という高い音と共に、光が周りに伝播した。
突進したワイバーンは、いきなり現れた光の壁に弾かれ……俺の眼前で息絶えた。
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