12話『捜索無双』
23日、3話目の更新です。
純白の鎧を纏った彼女は、美しい女性だった。
高い背丈に、整った目鼻立ちは同性の視線すら引き寄せる。美しい金色の髪はウェーブがかかっており、戦いを生業とする冒険者のものとは思えないほど艷やかだった。
レーゼ=フォン=アルディアラ。
きっとエーヌビディア王国で、彼女の名を知らない者はいない。彼女こそが、優れた冒険者パーティとして名を馳せる『白龍騎士団』の団長である。
「成る程、メイル殿は王女殿下の近衛騎士なのか」
「は、はい! そうです!」
テーブル席に座ったレーゼは、早速、メイルとの交流を深めようとしていた。
これから俺たちは、冒険者ギルドでモンスター討伐の依頼を受ける予定だ。モンスターとの戦いに危険はつきもの。だからこそ、背中を預ける仲間のことは知っておいて損はない。
この場で初対面なのは、レーゼとメイルの二人。
だから二人は今、それとない雑談で信頼関係を構築しようとしていたが――どうやらメイルは、憧れの人物であるレーゼと対面したせいで、途轍もなく緊張しているようだった。
「ネットとは船で知り合ったようだな。これも何かの縁だ、今日はよろしく頼む」
「はい!」
「近衛騎士の剣術は一級品と聞いている。期待しているぞ」
「はい!」
「メイル殿から、私に訊きたいことはないだろうか?」
「はい! ………………あっ!!?!?」
そこは即答しちゃ駄目なところだ。
メイルもすぐに自覚したらしく、さっと顔から血の気が引く。そして今にも泣いてしまいそうな表情をした。……連れてきたのは間違いだったかもしれない。
「……取り敢えず、ギルドに登録してくる」
このままでは一向にメイルの緊張が解けそうにないので、早く依頼を受けて行動を開始しよう。そのためにも、まず俺はギルドに登録しなくてはならない。
「ネット。今更だが、冒険者は登録したばかりだとE級だろう? その状態では大きな依頼は受けられないぞ?」
レーゼが、椅子から立ち上がった俺を見て言う。
「分かってる。だから取り敢えず、いつものやり方ですぐにD級まで昇格するつもりだ」
そう言って俺は、受付嬢が立つカウンターへ向かった。
「いらっしゃいませ。ご用件は何ですか?」
「冒険者の登録をしたい」
「かしこまりました。まずはこちらの用紙にご記入ください。代筆は必要ですか?」
「不要だ」
受付嬢から登録用紙をもらい、カウンターに置かれた羽ペンで記入を行う。
名前、年齢、性別などを記入した後、以下のような項目があった。
-------------------------
【存在力】
【加護】
【特殊武装】
【その他】
-------------------------
幾つもの国の冒険者ギルドに登録している俺にとって、それは見慣れた項目だった。
基本的にはこの四つが冒険者の実力を示す指標となっている。
存在力……モンスターを討伐することで上昇する、全体的な強さを表す数値だ。この値が高いほど、その人物は肉体的・精神的に強い。ただし、存在力の上がりやすさは人によって大きく異なる。ちなみに一般人の平均値は1であり、英雄と呼ばれる者たちの平均は大体6だ。7は伝説と言っても過言ではなく、世界で十人もいない。
加護……自分以外の特殊な存在から力を授かっている場合は、この項目に記入する。たとえば『星屑の灯火団』で一緒に冒険していた騎士(今は勇者だが)は、全能神の加護をその身に宿していた。
特殊武装……文字通り、特殊な武器や防具を持っていた場合はこの項目に記入する。レーゼはここに記入している筈だ。彼女が持つ剣は、特殊な力を宿している。
その他……上記三つに該当しないところで、何か冒険者としてアピールできる特徴があればここに記入する。魔法を使える者ならここに「魔法使い」と書くのが定番だ。魔法は特殊な学問を修めた者のみが使用できる技能であるため、専用の項目が用意されていない。
俺はこの用紙に、以下のように記入した。
-------------------------
【存在力】1
【加護】なし
【特殊武装】その時による
【その他】人脈に自信あり
-------------------------
「これで頼む」
「承知いたしました。……人脈に自信あり、ですか?」
「ああ」
この記述で首を傾げられるのはいつものことだ。
丁度いい。D級に昇格したいし、すぐに証明してみせよう。
「D級に上がるための条件は、依頼を十回達成することであってるよな?」
「はい」
インテール王国のギルドと同じだ。
それなら多分、予定通りすぐにD級まで上がることができる。
「早速、依頼を受けたい。人捜し系の依頼を紹介してもらってもいいか?」
「畏まりました。少々お待ちください」
受付嬢は手際よく書類を用意してくれた。
人捜し系の依頼は、依頼主が個人である場合が多いため、報酬が不十分だったり、手違いで依頼がキャンセルされることも多い。そのため依頼自体が不人気で、いつまでも達成されないまま放置――いわゆる塩漬けにされることも多いのだ。ギルドの職員からすると、少しでも早めに消化したいのだろう。
「お待たせしました。こちらがただ今、募集している人捜し系の依頼になります」
受付嬢は人捜し系の依頼書を持ってきた。
見たところ依頼書は三十枚ほどある。他支部のギルドと情報を共有しているのだろう。王都の住民だけでなく、近隣にある村や町の行方不明者についても捜索が依頼されていた。
「ありがとう。――すぐに解決する」
「……はい?」
俺はそれぞれの依頼内容をざっと見て……ポーチの中にある通信石を取り出した。
◆
「レノバンか? 久しぶりだな。……ああ、俺だ、ネットだ。いきなりで申し訳ないんだが、先週、お前がいる村で二人組の男を見なかったか? そう……その二人について詳細を教えてくれ」
手元の紙に、聞き出した情報のメモを取る。
「サイカ、一年ぶりだな。言いそびれていたが、半月前の剣闘技大会では優勝おめでとう。……ちょっと訊きたいんだが、その会場で下働きをしていた赤髪の女の子はいなかったか?」
再びメモを取る。
「お久しぶりです、ルーイン公爵。……え? 既に用件を知っている? ……その通りです。流石は《千里眼》のルーイン公ですね。情報提供ありがとうございます。…………はい? お嬢様の縁談をぶち壊した責任ですか? ははは、あれは俺が壊したんじゃなくて、ロイドが勝手にやったことですよ。ではまた」
メモを取る。
「シャリンか? 悪いな、急に。実はそっちの森で捜して欲しい人がいるんだ。入り組んだ場所にいると思うから、動物たちの目を貸してほしい。……分かった。毛づくろいくらいなら幾らでも付き合うよ」
メモを取る。
「久しぶりだな、エディ。ちょっと頼みたいことが――」
メモを取る。
「エレイン。少し訊きたいことがあるんだが――」
メモを取る。
「アレク。今ちょっと――」
「ローリー。尋ねたいことが――」
「ゼス――」
「ユーファ――」
「ナルク――」
メモを取る。
メモを取る。メモを取る。メモを取る。メモを取る。メモを取る。メモを取る。メモを取る。メモを取る。メモを取る。メモを取る。メモを取る。メモを取る――。
「……こんなものか」
いつの間にかテーブルには、八つの通信石と、大量のメモ用紙が乱雑に置いてあった。
メモ帳を適当に整理して、俺は受付嬢に手渡す。
「もらった分の依頼は全部達成した。ここに対象者の居場所と連絡先、安否などをまとめてメモしてある」
「は、はい。……しょ、少々お待ちください!」
受付嬢が慌てた様子で奥の部屋に向かう。
暫くすると、人手が足りなかったのか付近にいた他の受付嬢たちも奥の部屋に入った。徐々に部屋から騒がしい声が聞こえるようになる。バタバタと忙しない足音がずっと響いていた。
およそ十分が経過した頃。受付嬢は再び俺の前にやって来た。
「い、依頼の達成を確認しました。こちらが報酬と……冒険者カードになります」
紙幣と貨幣を詰め込んだ袋が、どさりと音を立ててカウンターに置かれた。
その後、受付嬢は未だに信じられないものを見るような目で俺を見つめながら、そっとカードを手渡してくる。
カードには俺が、D級の冒険者であると記されていた。
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