表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/41

11話『協力者』

23日、2話目の更新です。


「朝か……」


 エーヌビディア王国の王城にある客室で目覚めた俺は、カーテンの隙間から差し込む朝日を見て、欠伸を漏らした。


 流石に王城の客室なだけあって、部屋の居心地は最高だった。昨晩は食事も豪勢だったし、ベッドもふかふかでよく眠ることができた。インテール王国を出てすぐにこれほど上質な環境を堪能できるとは……幸先はいいが、ここまでくると逆に今後の生活が不安である。


「上の階に行かなければ、好きにしていいと言ってたし……軽く散歩でもするか」


 顔を洗って着替えを済ませた俺は、城の外にある庭園に向かった。


 朝靄が激しい。昨晩、寝ているうちに雨でも降ったのだろうか。湿った石畳を歩いていると、いつの間にか四方八方全てが靄に包まれていた。庭園の美しい景色を見に来たつもりだが、時間帯が悪かったかもしれない。


 再び城の中に戻ろうとした時、ふと目の前の靄に、不思議なものが映っていることに気づいた。


 ――巨大な影。


 城の二階、いや三階まで届きそうな高さの影だ。それが何かは分からないが――動いている以上、生き物に違いない。


 モンスターか?

 瞬時に警戒し、頭の中にある知識を総動員して、目の前の現象の解明に努める。

 しかし心当たりは全くなかった。


「――誰じゃっ!?」


 前方から少女の声が聞こえる。

 警戒を維持したまま無言で待っていると……影が映っていた靄の中から、ルシラ様が現れた。


「なんじゃ、お主かネット」


「……おはようございます」


「うむ! おはようなのじゃ!」


 ルシラ様は朝からお元気な様子だ。


「あの、今、何かがここにいませんでしたか?」


「何か? 今は妾しかいない筈じゃが……」


 不思議そうに小首を傾げるルシラ様を見て、俺は警戒を解いた。冷静に考えればこんな場所にモンスターがいる筈がない。


「ところで、ネットはこれからどうするのじゃ?」


 ルシラ様に今後の予定を尋ねられる。

 取り敢えず、先程の影は気のせい……ということにしておくか。


「まずは冒険者ギルドに登録して、収入源を確保しようと思います」


「うむ、お主はインテール王国でも冒険者じゃったし、それがいいじゃろうな」


 ルシラ様が頷く。このご時世、冒険者ギルドは大抵どの国にもあるが、残念ながら連携は完璧ではない。エーヌビディア王国で冒険者として活動する場合、俺はまた登録し直さなくてはならなかった。等級も一番低いところからやり直しだ。


「では、メイルをお主の案内役につけよう」


「……いいんですか?」


「昨晩は楽しませてもらったからのう。そのお礼じゃ!」


 気前のいい王女殿下だ。

 港町から城まで馬車で来たため、まだこの街の道には詳しくない。ルシラ様の善意に甘えることにしよう。




 ◆




「では、これから私が街を案内しよう。冒険者ギルドに行きたいんだったな?」


「ああ、よろしく頼む」


 城で簡単な朝食を済ました後、俺はメイルと共に街を歩いた。

 エーヌビディア王国の王都は快適だった。治安は良く、活気もある。走り回る子供たちや、散歩する老夫婦はまさに平和の象徴だ。


「ところでネット。昨日、ルシラ様に語った冒険譚だが……あれはどこまで本当なんだ?」


 その問の意味が分からず、俺は首を傾げた。


「どういう意味だ?」


「空中神殿に行ったとか、火山を丸ごと凍らせたとか……まさか事実ではないだろう? ルシラ様を楽しませるためとは言え、自分の功績を誇張しすぎるのはあまり感心しないな」


 成る程。どうやらメイルは、昨晩、俺が語った内容に不信感を抱いているらしい。


「誇張なんて一切していない。全部、本当にあったことだ」


「……いやいや、そんな馬鹿な。もしあれが全て事実なら、お前はA級どころかS級の冒険者だぞ」


「俺はA級だけど、周りが皆、S級なんだよ」


 だから実現できたんだと伝えると、メイルは深刻な表情でうつむいた。


「……いやいやいや。騙されないぞ、私は。だって、その話が本当なら…………空中神殿に辿り着いたパーティは、三つしかないし……そのうちの二つはこの国にいる筈がない。しかし、残り一つだとすると、ネットは…………あり得ない、あり得ない。流石にそれはあり得ない……」


 メイルはブツブツと何かを呟きだした。だいぶ混乱させてしまったらしい。

 彼女は思ったより冒険者の事情に詳しいのだろうか? そういえば昨日、冒険者パーティ『白龍騎士団』の団長に心酔していると言っていたことを思い出す。


「道はこっちであっているのか?」


「あ、ああ。あっているぞ。この角を右に曲がったところだ」


 メイルが我に返り、案内を再開してくれる。


「ネット、ギルドに登録した後はどうする? すぐに仕事を受けるのか?」


「そのつもりだ。ルシラ様は今日も城に泊まっていいと言ってくれたが……流石にこれ以上世話になるのは申し訳ないし、今日の分の宿代は稼いでおきたい」


「分かった。それなら私も手伝おう」


 その言葉は予期しておらず、俺は目を丸くした。


「ルシラ様から、今日一日はお前の行動に付き合えと言われている。私は一応、B級冒険者としてギルドに登録しているから、依頼も受けられるぞ。……不要なら帰るが」


「いや、ありがたい。ただ一応、協力者は既に用意していてな。先に簡単な顔合わせだけしてもらってもいいか?」


「勿論だ。……しかし既に協力者を用意しているとは、伊達に座右の銘が他力本願ではないな」


「それしか俺の取り柄はないからな」


 メイルが協力してくれるなら、予定よりも簡単に金を稼げそうだ。

 冒険者ギルドは、街や国の依頼を斡旋する役割を持つ。その依頼の中には最低人数が指定されているものもあり、三人いるならやや規模の大きい依頼にも挑戦できる。


「ここが冒険者ギルドだ。中に入るぞ」


 メイルが扉を開け、俺も後に続いた。

 ギルドの雰囲気はどこも同じらしい。古めかしいがどこか趣のある木造建築に、武器や防具を持った男女がいたるところで話し合っている。すぐ隣には酒場があり、まだ午前中だというのに賑やかな声が聞こえていた。


「一人目の協力者とは、ここで待ち合わせているが……まだ来てないな」


「では、あちらのテーブルで待つとしよう」


 メイルの案内に従い、テーブル席につく。


「それで、協力者とは誰のことなんだ?」


「それは……」


 説明しようと思ったが、少し考えた末、言葉を引っ込めた。


「……折角だから、内緒にしておこう」


「む、なんだそれは」


「まあ、すぐに分かるさ。多分メイルは驚くと思うぞ」


 サプライズというやつだ。

 その後、五分ほど経ったところでギルドの扉が開いた。


「お、来た」


 ドアの方をぼーっと眺めていた俺は、目当ての人物が来たと気づく。

 そんな俺の声に、メイルも振り返るが――。


「――――――――は?」


 現れたその人物を見て、メイルはポカンと口を開いたまま硬直した。

 真っ白な甲冑を身に纏う彼女の登場に、ギルドはざわついていた。「おい、あれ」「どうしてここに」「まさかあの人って」「美しい」……そんな声が至るところから聞こえる。


「そこにいたか、ネット」


「よっ、久しぶり」


 久々に見たその顔に、懐かしさと安心感を得る。


「あ、あぁ……ま、まままま、まま、まさ、まさか、まさか……!!」


 こちらに近づくその女性を見て、メイルの混乱は一層激しくなっていた。


「ネット、彼女は?」


「二人目の協力者だ」


「そうか、なら自己紹介をしなくてはな」


 メイルはとっくに、彼女のことを知っていると思うが……まあいいか。


「『白龍騎士団』団長、レーゼ=フォン=アルディアラだ。よろしく頼む」


 騎士たちにとって憧れの的であり、メイルも心酔しているという冒険者。

 そして、俺の友人の一人でもあるレーゼは、静かに微笑んだ。



【作者からのお願い】


「面白かった!」「続きが気になる!」といった方は、

広告の下にある☆☆☆☆☆からの評価や、ブクマへの登録をお願いいたします!


執筆の励みになりますので、何卒お願いいたします!!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ