わたくし第一王子とご対面でございますことよ
トントトトトン。
ノックがいたしましてよ。
きっとホタテムンドさまがお越し下さったのですわ。
「はい、少しお待ちくださいまーし」
ホタテムンドさまといえば、王位第一継承者。すでにその風格はお持ちであると評判の王子とお聞きしております。もし、ホタテムンドさまに気に入っていただけたのなら。
わたくしは、回転寿司『転生寿司』の設計建築にまで漕ぎつけたい、そう思ってまいりました。
財力!
まさしくその歩く財力が、わたくしの目の前、扉を一枚隔てまして、そこにはある! ってな感じにございます。
設計図は、どこへいったのかしら? わたくしが慌てて探しておりましたところ、引き出し付きのタンスを倒してしまいました。
ドダーン!
なかなかな大きい音が響きまして、わたくしトビウオのように飛び跳ねてしまいましたことよ。
「おい、なんの音だ。スシノ殿、大事はないかっ? 失礼するぞっ」
ドアをバッと開けてしまわれたのでございます。
わたくしはまだ、回転寿司店の設計図を探し回っておりましたゆえ、寝間着の上になにも羽織ってはおらず、それを見たホタテムンドさまは、真っ赤になられておいでです。その様は、ホタテというよりまるで赤貝。
「す、すまぬ。たいそうな音がしたから、あなたのことが心配になってだな」
そう言って、くるりと背を向けておられます。
「いえ、大丈夫でございますわ。パンツイッチョウフンドシイッチョウというわけでもなく。ちゃんとパジャマを着ておりますから、安心してくださいまし」
するとホタテムンドさまは、そそそそうかと言って、こちらをくるりと振り返られました。
そして。
後ろ手にドアをガチャコンとお閉めになられました。
「まあ、横着してはいけません。ちゃんとドアノブを見てお閉めになりませんと、指を挟んでしまいますことよ」
心配して忠言いたしましたが。
「スシノ殿、いいですか? ホタテが自分の貝殻で手を挟むだなんてことがありますか?」
「いえ、ございません」
「そうでしょう? 俺を信じてください」
なんという力強いお言葉。なんという聡明なお方でしょうか。寿司ネタで、クールなこのやり取り。そんなことはあり得ませんね! と、妙に納得させられました。
「スシノ=カズハ=ヤーリイーカ殿、ようやくお会いできましたね。俺のことを覚えていますか?」
はて? どこかでお会いしたのでしょうか?
わたくしが、首を傾げておりますと、ホタテムンドさまは苦笑を浮かべながら、言いました。
「スシノ殿、あなたにお見せしたいものがある」
そう言って、側にあるイスの背もたれに掛けてあったわたくしの上着を取ると、さあ、これを羽織りなさいと誘うのでございます。
促されるままに、わたくしは上着に袖を通しました。
そして、部屋を出て、ホタテムンドさまのお部屋へと参ります。
っと! 近っっ! 距離感がっっ。パーソナルスペース皆無っっ! 貝だけに。
けれど、腰に回される腕に。
愛しさと切なさと心強さを感じますと、わたくしの身体がカッカと熱くなっていくような気がして。
この距離感は、まさしく恋人同士のもの。まさかまさかホタテムンドさまはサーモンならぬ、チャラ男ではございませんね?
あ、いえ。サーモンをチャラいと言っているわけではございません。が。
サーモンと鮪、どちらが硬派と言えましょうか。
そう思い至った時、「鮪」は、ザ日本。間違いなく硬派。
「サーモン」は、北欧のイメージ。西洋風≒軟派。
そう判断してしまったのでしょう。申し訳ございません。あくまでわたくしのイメージでございます。
そこ行くサーモン派の方々! わたくし、サーモンも大好きでございます。炙りサーモンとマヨネーズの相性は最高位! 軟派発言が、失言ということであらば、どうぞお許しくださいまし! (寿司への並々ならぬこだわり)
わたくしはそっと、ホタテムンドさまの方に視線を滑らせます。ウェーブのかかった金髪が歩くたびに、ゆら、ゆらと揺れております。自信に満ち溢れた、その凜としたお顔。鼻梁も高く、シュッとしておられます。
さすがでございます。さすが次期、王。風格がハンパではございません。
(キングとろサーモン……? あ、いえ、なんでもございません)
ふと、ホタテムンドさまがこちらを見やります。
「なんだ? 俺の顔になにかついているか?」
ホタテといえば、食べられぬものは『ウロ』ただひとつ。その『ウロ』など、もうとっくの昔に取り除かれた、美しいお顔でございます。
「いいえ、美しいお顔をされていらっしゃると……あっっ、キングとろサーモンであらせられる、ホタテムンドさまになんて失礼なことを、あわわわあわび、お許しくださいませ」
歩みが止まる。そして、ホタテムンドさまは、さらにわたくしの腰をぐっとお近づけになられました。
「スシノ殿。なにを言うのだ。あなたに勝るネタはなし。エンガワのような白い肌、コウイカのような透明感、あなたこそなんという美しい女性だ。ははっ、そんなキングとろサーモンもあなたの前では、こうして膝まづき、ひれ伏しましょうぞ」
そう言って、ホタテムンドさまは、わたくしを前にして、膝をつかれました。手を取って、そっとその甲に口づけされます。コウイカだけに。
どうしたことでしょう。わたくしをこのように最上級の賛辞でお褒めくださる殿方は、今まで出逢ったことがございません。しかも、お寿司の話題に、こうも明るくていらっしゃる。
胸がトキメいてしまいます。ドキドキ。
「それにしても、ホタテムンドさまはお寿司にお詳しくていらっしゃいますね」
胸がトキメキながらも、違和感はありまくりでございます。
なぜ、異世界の食べ物であるSUSHI 、シースーを知っているのか?
わたくしには、とんと見当もつきませぬ。
そう言いますと、ホタテムンドさまは、少し悲しそうな表情を浮かべられました。
「スシノ殿、では参りましょう」
わたくしは、ホタテムンドさまに肩を抱かれながら、長い長いレーン(廊下)を歩いていくのでございました。
おほほほほほ。