わたくしまたまた婚約破棄でございます
米農家コマチサンとの契約も無事に終わらせて、「馬車のようなもの」で帰ってまいりました。
米一俵を自力で持ち帰りはしましたが、これからはシロネコーンなる運送会社と月一の契約を結ぶこともできまして、配送関係も完了。
米が自動的に送られてくる仕組みにホクホクですことよ。
エビの腰にはなりましたが、おおむね満足でございます。
領収書、契約書などを携えて、マグローニさまの寝所へと向かおうとしましたところ、執事のセバスメシチャンさんが声を掛けてまいりました。
「お帰りなさいませ、スシノさま。お疲れとは存じますが、陛下がお呼びでございます。どうぞ、『目で鯛の間』までお越しください」
わたくし、大変驚きましてよ。よもやよもやとは思いますが。
着替えを済ませ、シズシズと『目で鯛の間』の扉を開け、進み出でました。
すると。
「スシノ=カズハ=ヤーリイーカ、第ニ王子マグローニとの婚約を解消し、第一王子ホタテムンドと婚約関係を結ぶことを、ここに宣言する」
やっぱりそうでごさいましたか。
憶測ではございます。が、マグローニさまが、なにかやらかしたのではないでしょうか?
「マグローニの不貞による婚約破棄だ。スシノ、お前には苦労をかけるな」
ほらやっぱねー。
あれほど見つからないようにコソコソやってくれと、軍艦巻きにしてまで注意いたしましたのに。
この大量の領収書や契約書はいったいどうしたらよろしいんでしょう?
わたくしは、食した回転寿司の皿を数え間違えてしまった時のように、この上なく呆然としてしまいました。無意識にも寿司を握る動作を、どうやら繰り返しておりましたようです。
「スシノや、どうした? そんなにもショックであったか? わが愚息がよもや、このような痴態を晒すとは。だが、どうやらマグロー二とタラモ姫は愛し合っているようだ。スシノ、お前にはたいそう酷とは思うが、マグローニを諦めてやってはくれまいか」
わたくしは、眉をハの字にさせていただきました。
「陛下、握りの世界では、不漁不作、そしてバイトテロ、風評被害、色々あるものでございます。わたくしが、マグローニさまと縁がなかったというのも、これも縁のうち。どうぞ、気に病まずにいらしてください。そして、ホタテムンドさまとの婚約へのお力添え、誠に痛み入ります」
「なんと、お前は本当にできた女だ。言っていることはイマイチわからないが、気概はあっぱれ! ホタテムンドの妃となって、この国をホタテムンドとともに支えていって欲しいものだ。スシノ、私はお前を気に入ったぞ!」
「ありがたき幸せにございます」
わたくしは、二本の指で空を切ると、うやうやしく敬礼しましたことよ。これは寿司職人自身への感謝の気持ちと敬意を表す、最上級の敬礼。
「ホタテムンドには、お前の部屋へ挨拶に向かわせよう。頼むぞ、スシノ」
了解っしたー。