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わたくしなぜか仲人となっております



第二王子マグローニさまは、今年で二十歳になられました。


この国、カッパースシ国では15歳ですでに成人、盛大に戴冠式を行うのでありますが、さすればマグローニさまは第二王位継承者であらせられますので、それ相応の教育、王になるための帝王学は一通り学び終えられていらっしゃるというわけです。


しかも、わたくしの二つ上でございます。


それがですよ?


「スシノ=カズハ=ヤーリイーカ、おまえを我の婚約者とは、ぜっっっっったいに認めんからな!」


キャンキャンと犬のように、牙をむいて敵意丸出しにしてくるわけでございます。


「お叱りは覚悟で申し上げますが、婚約の件に関しましては、父王さまが……」


「おい、父上はおまえの父ではないだろう。だから、父王と呼ぶのは筋が通らないし、おかしいだろ?」


とまあ、あたしはあんたのママじゃない、みたいなことを仰ってくるのです。


もうこの時点で、婚約破棄的雰囲気。


「いいか。おまえの話は、弟エビダスからも聞いている。おまえはふらっと海に出かけたかと思うと、魚を釣ってさばき、寿司なるものを日々、製作しておるという。怪しいぞ、実に怪しい!」


「マグローニさまも、よろしければご一緒に……」


「ふん、オレは猟にならゆく。だが、漁になど絶対にいかない!」


頑なにわたくしを拒絶する方向でございます。どうにか懐柔できたらと思いましたが、『猟』と『漁』なる決定的な違い。これはもう分かり合える日は来ないのではないでしょうか。


マグローニさまは少し前まで、やはりエビダスさまと同じように婚約者がいらっしゃいました。それは、父王さまをお支えする執事の家系、タラマヨール家のマイヨール氏の長女、タラモ姫。


タラモ姫はお父上に似て才女であり、この王宮の銀食器と司書の管理も任されていらっしゃいます。


「要は、タラモ姫と結婚されたいと思っておられる、そういうお話でございますね」


「そんなことは一言も言っていないのだが……は、話が早いな」


「タラモ姫は、第一王子ホタテムンドさまの婚約者となってしまわれましたが?」


「タラモが兄上を好きになっては困るのだっっ!」


なるほど、そういうことでございますか。このままでは、回転寿司店の建築費を出していただくことができなくなってしまいますゆえ。


「わかりました。わたくしから、タラモ姫さまにマグローニさまのお気持ちをお伝えして参ります」


自分でなんでもこなす。


これが、わたくしの信念ではございますが、今回ばかりは致し方ないでしょう。この言葉、ぐっと飲み込みまして、わたくしはタラモ姫さまの寝所へと参りました。


トントトトンとノック。


『はい、どなた?』


「タラモ姫、わたくし、スシノ=カズハ=ヤーリイーカでございます」


『……どうぞ』


今。お返事に、躊躇が見られましたね。これはもう、訪問者がマグローニさまの婚約者であるわたくしと知って、落胆されている証。なるほど、これは完全に両想いでございますね。


三点リーダーに秘めた思い。タラモ姫はマグローニさまをこれほどに愛していらっしゃる。


ドアを開けずとも、タラモ姫の暗い表情、このわたくしにはお見通しでございます。


タラモ姫は少しの躊躇とともに、ドアを開けられました。


「タラモ姫さま、御機嫌よう」


わたくしは両手を広げ、そして目の前で寿司職人の礼をいたしました。


へいらっしゃいあんちゃんはなんにする? のポーズでございます。


「スシノさま、ご機嫌麗しゅう」


渋々、彼女も同じような挨拶を返してくる。やはりそうですか。その表情は暗く、そして薄っすらと目が潤んでいるようにも見えます。


泣いていたのでしょうか。可哀想に。恋しい方と離れ離れとなってしまったからでございましょう。


わたくしはダイレクトに、彼女の心に問いかけました。そのさまは高級寿司店のカウンターのようでございました。大将が差し出してくるお寿司に、すかさず手を伸ばし、そして取り上げて食べるのでございます。


「タラモ姫さまは、マグローニさまを愛しておられますね?」


はっと、わたくしの顔を見上げます。(わたくし、ドレスで隠れていておわかりにならないかもしれませんが、業務用の長ぐつを履いているものですから、普段より背は高くなっているのです)


「す、スシノさま……」


みるみる(みる貝)、薄水色の瞳がうるると潤んでいきます。


わたくしは、少しだけ眉を八の字にいたしまして、そっとタラモ姫の涙を拭いました。


「タラモ姫さま、マグローニさまからご伝言を預かっております」


「そ、それはいったい、どのようなものでしょうか?」


「マグローニさまはこう仰られました。タラモ姫さま、あなたはまごうことなき、わたしの大トロだ、と」


「お、大トロ? それは、……それはどういう意味でございましょうか?」


わたくしは、ふっと小さく吹き出し、そしてタラモ姫に笑いかけました。


「お寿司言葉で申し上げますと、あなたを世界で一番愛している、という意味でございます」


「えっ! スシノさま、それは本当でございますかっ」


タラモ姫は、両手を胸の前で組み、お祈りのポーズ。可愛らしいお姫様でございます。


「本当ですよ。大トロは最上級の賛辞。繰り返し申し上げますが、あなたを世界一愛している、ですわ」


「お、大トロ……」


わたくしは、タラモ姫に安心するよう、お伝えいたしました。わたくしは、マグローニさまとは仮の婚約であること、そして結婚はしないということを。


タラモ姫は、寝間着の袖で、何度も何度もぐいっと目元を拭っておられます。


「ありがとうございます、スシノさま。このご恩は一生忘れません。大トロを胸に、わたくし、マグローニさまと結ばれる日を夢見てお待ちいたしております」


「伝わったようで、安心しましたわ。それでは、タラモ姫、御機嫌よう」


わたくしもほっと胸を撫で下ろし、自室へと帰った次第でございます。


さあ


これで、次に企てております米農家との取り引きも、上手くいきましてよ。おーほほほほ。










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― 新着の感想 ―
[良い点] 大トロが口説き文句……!(*´ω`*)アリですね! 脂がタップリのった大トロを下にして、醤油につけて……。ぐおおお、食べたい!! お寿司が食べたくなる楽しいお話で、お寿司に縁のある方々にと…
[良い点]  面白いです。名前の付け方にセンスを感じました。 [一言]  連載頑張ってください!
[一言] 業務用長靴……なんて逞しい出立ち…… インパクトがすごいです(笑) 「君は私の大トロだ」 ふふふ、私、普段はブリ、カンパチ、ツバス派でございますがなかなか痺れる口説き文句ですね。私も言って…
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