わたくし漁は大量に大漁でしたことよ
そして、1時間ほどで船長がイカリをあげましたことよ。ストップ獲れ高でございます。
はい?
なぜ、釣り上げるところを端折ったか?
それは、ご自分の目で見てくださいまし。なんと、大量に大漁もいいところ、たくさん釣れたではありませんか。
ただ。やはり、異世界の魚。魚はサカナでも、わたくしの元いた世界のさかなとは少し、異なっているようでございます。
ですから、わたくし、ノートを取り出して、さっそくメモりました。
バゴネスリ→マグロ
ダンドンド→ハマチ
ディアンネルダーバン→タイ
ピチュピチュマイ→シャケ
ブイブイ→エビ
ダガボ→イカ
マットゥンダ→ツブ貝
と。
強引に、名付けてみました。ほぼ、見かけで。
こう解釈すれば、間違いないという、辞書のようなものでございます。
そして、この漁船を船長や船員ごと、まるごと買収することにしたのです。
もちろん資金は、エビダスさまより頂戴いたしております。
ポケットから現金を出し、領収書を切っていただきました。
以下、その内訳。
❇︎❇︎〜領収書〜❇︎❇︎
漁船買取額 50000 ガリ
船長手当 200 ガリ
船員手当 150 ガリ× 2名
燃料費(前払い) 月48 ガリ
そして、契約。
漁船は、『スシゴテンマル』と命名し、皇室御用達の漁船といたしました。
わたくしの、初めての財産でございます。
ただ。その半年後のことでございました。
わたくしが、漁船で釣った魚をさばいてさばいてさばき倒していましたところ、あまりのその忙しさに、エビダスさまのことをすっかり忘れ申し上げており。
痛恨のミス。
「スシノ=カズハ=ヤーリイーカ、第三王子エビダスとの婚約を解消し、第ニ王子マグローニと婚約関係を結ぶことを、ここに宣言する」
父王さまの朗々とした声が、大広間に響き渡ります。
「……はい、承知いたしました」
とは言ったものの。
実はその少し前、エビダスさまより直々に、
「スシノ、私との婚約を解消してくれ。何度となくプロポーズしたのにもかかわらず、一度も振り向いてくれなかったおまえよりも、もっと好きな人ができてしまったのだ。すまない、スシノ。私を許して欲しい」
さすがに胸が、ちくちくっと痛みました。
もちろん、婚約者であったエビダスさまを放っておいて、漁場ばかりに足を運んでいたわたくしが、どう考えても悪いのでございます。
魚を寿司ネタとして、どのように刺身におろすか。こればかりに、気を取られてしまっていたものですから。
色恋には疎い、わたくし。これは、元の世界でも同じでございました。
恋愛に向かない、わたくし。クリスマスの前日に振られるなど、何度も寂しい思いをしたものでございます。
振られるのには多少、慣れてはおりましたが、けれど、流石にこの日はショックでございました。
さばいたネタで作ったお寿司を、いつもなら50貫はペロリでございますのに、この日はたった33貫。
確かにわたくし、回転寿司をチェーン展開すべく、資金集めで上へ上へと上り詰めねばならない身、ゆくゆくは父王さまのお妃さまとして、そして回転寿司のオーナーとして、この城に君臨する日を夢見ておりますが。
ただ、エビダスさまはわたくしを、好きだと言ってくださった。
結婚して欲しいと、言ってくださった。
ただ、形だけの婚約者であるはずのわたくしを、一目惚れしたと愛してくださった。
情が湧いて胸に痛みを感じてしまうのは、致し方ないことであるのかもしれません。
けれど、いつまでも引きずっているわけには参りません。
わたくしには、この世界を回転寿司店でいっぱいにする、そんな野望があるものですから。
さあ、あと一歩です。
正式に、第二王子マグローニ殿下の婚約者となったあかつきには、米農家との契約を結ぶ算段も持っておりましてよ。
わたくしは、懐に秘めている計画書を、そっと手で押さえました。
ほほほほほほ。