わたくしの野望について少しご説明いたしますわ
さて。王が右手を振りかざしました。なんと威厳のあるお姿でしょう。
お持ちの杖には、こぼれイクラのように、たくさんの宝石があれもこれもとついています。
「スシノよ。見事に、エビダスの妃の座を射止めた暁には、おまえには相応の地位と名誉を与えよう」
頭は下げておりました。
けれど、わたくしの心のうちは。
おっっっっっっしゃああぁぁ。やっっっったるうぅぅぅう。財力‼︎
はい。おしとやかにガッツポーズを決めた次第。もちろん、顔には出しておりません。あくまで心のうちのことでございます。
野球の試合でストライクのアクションを決める審判のように、わたくしは拳を突き上げました。
野球? 野球とは? と? なぜ、野球とやらを知っているのか?
ま、そんなことは些事。たわいないことでございます。それより、今はそれどころではございません。どうぞお察しくださいませ。
…
…
気になると? なるほどわかりました。
そうですそうです、もちろんです。もちろん、わたくし転移者というものでございます。
現代(令和2年現在)からの転移者、スシノカズハと申します。
本名ですよ。おや、なんですか、その疑いの目は。
ある日、いつものように回転寿司でお寿司を食べておりましたところ、まばゆい光に包まれ、そしてこの世界へと舞い降りた、というわけでございます。それから、わたくしは王家に近しい親戚のお宅に、引き取られました。
このカッパースシ国の王族の外戚、ヤーリイーカ家。その当主、ヤーリイーカご夫妻にはお子さまがおひとりもおられません。そんなご夫婦が馬車で街へとお出かけの際、光に包まれたわたくしが、その馬車に轢かれた、という経緯でございました。
わたくしは、謎の光に包まれたまま転がって頭をしこたま打ち、お寿司に追いかけられる夢を見ながら三日三晩、眠りについておりました。が、ようよう目が覚めた時には、大きなベッドに寝かされており、そしてご夫婦が土下座でお謝りになられまして。その姿、まさしく握り寿司のポーズ。(これはわたくしがヨガのポーズ=土下座として最近発見したものです)
わたくし、心底感動し、おふたりの前に降り立ちました。
このヤーリイーカ夫妻、わたくしがあまりにもツヤツヤとしたまばゆい光に包まれておりましたので(お酢の力)、どうやらわたくしを天使だとか神の使いだとかと、勘違いしたようでございます。
そしてそのまま、ヤーリイーカ家に引き取られることとなった、ということです。
そのような生い立ち(?)に加え、わたくしのこのまずまずな美貌も作用いたしまして、こうして王家の王子の婚約者という地位がすぐにもホイホイパクパクと手に入るものですから、それ以来、わたくしはこの世界で生きていくという気持ちを固めてまいった次第でございます。
おほほほほ。
そう、わたくし。こう見えて、お寿司が大好きですの。けれどどうやら、この世界にお寿司という食べ物は存在しないようでございます。
それだけは、わたくし、なんとかしなければと強い意志でいるのでございます。
いつかはこの手で、お寿司の頂点を掴みたい。
王子をおひとりおひとり攻略し、そしていつかは王妃にまでに登りつめ、そしてその財力によって、ここカッパースシ国に、回転寿司のチェーン店を展開するのです‼︎
半年後。
「スシノ=カズハ=ヤーリイーカ、第三王子エビダスとの婚約を解消し、第ニ王子マグローニと婚約関係を結ぶことを、ここに宣言する」
父王さまの朗々とした声が、大広間に響き渡ります。
さあ、あと一歩です。第三王子エビダスさまの婚約者となった時に、その立場を利用してわたくし、漁場の確保や魚の買い付けの契約は、すでにできております。
第二王子マグローニ殿下の婚約者となったあかつきには、米農家との契約を結ぶ算段も。
わたくしは、懐に秘めている計画書を、そっと手で押さえましてよ。
ほほほほほほ。
❇︎❇︎〜計画書〜❇︎❇︎
第三王子 → 漁船スシゴテンマルの購入管理 済
第二王子 → 米農家コマチサンとの契約 仮おさえ
第一王子 → 回転寿司『転生寿司』の設計建築 設計図あり
王 → チェーン店の全国展開
座右の銘 『お寿司のためならどこへでも!』
好きな言葉 『へいらっしゃい! 』