わたくしのお寿司道ふぁいなるでございます
「スシノ=カズハ=ヤーリイーカ。お前がここまでできる女だとは、思いも寄らなかった。見上げた根性だ。このように、いちから寿司店を作ってしまうとはな! 店をひとつ持つということは、一国一城の主でもある。これからも精進しなさい」
「転生寿司」のドアが、ピポーンピポーンと鳴りましたゆえ。急いで参りましたところ、なんとそこに父王さま、いーーーえ、国王さまがいらっしゃるではないでしょうか。←根に持っている ※ 第6話参照
「陛下、いらっしゃいませでございますでそうろう。わざわざ足をお運びになってくださったのですね。光栄なことでございます」
そして、その後ろからホタテムンドさまが、ひょっこり顔をお出しになります。
「父上。スシノは素晴らしい女性だ。隣国クラクラ国との戦争に見事に勝利できたのも、スシノの功績が大きい。カッパースシ国の歴史書に載るくらいだからな。俺の婚約者に相応しいだろ? 俺はもう、スシノと結婚することを心に決めている」
「なるほどそうか。お前が心に決めたとなれば、そのようにしよう。次期、国王のお前の妃としてこれほど相応しい女性はおらぬ。私も賛成だ」
「父上……センキューありがたき幸せ」
そこなお二人。早く店内に入っていただけませんこと?
さっきからずっと自動ドアが、ピポーンピポーンと鳴っておりますの。うるさっ。
「陛下、ホタテムンドさま。そのような大切なお話、立ち話もなんでございますから、どうぞ店内へお進みください。お二人さま、テーブル席へええぇぇご案内いいいぃぃぃ」
さっさとテーブル席へ。
国王と皇太子が向かい合って座っております。
わたくしもなにか接客において粗相があってはいけませんので、ホタテムンドさまの隣に腰を下ろしました。お茶とおしぼりを用意しましたことよ。
国王は回ってくるお寿司を見て、興味深そうに覗き込んでおられます。
「ほう、これが回転寿司というものか。面白い、実に面白い」
「父上、これがホタテ握りだ。食べてみて欲しい。舌の上でとろけるはずだ」
国王が慣れない手つきで箸を持ち、ホタテの握りをそらよっと掴むと、醤油をチョンチョンとつけて、口の中へと放り込みましてよ。
「うお、なんだこれは。口の中に甘みが広がっていくではないか」
「だろ? ホタテは貝の中でも最高ランク、最高の寿司だからな」←自画自賛。
確かにホタテは貝の中ではキングなのかも知れませぬ。その言葉に特になんの反論もございませんが、ちょっとだけ言わせていただきますと、そのドヤホタテ顔が鼻につきましてよ。
やはり。ここは。
ホタテムンドさまは王の素質はお持ちでいらっしゃいますが、少し浮ついたところがございますので、できましたらわたくし、現国王の王妃の座を目指したい、そんな気持ちがむくむくと湧いてくるのでございます。
国王はコレも美味い、アレも美味いと回ってくるお寿司を手当たり次第に、ご賞味くださっております。
嬉しい限りでございます。
ホタテムンドさまも、先ほどからチラチラとこちらに視線を送りつつ、同じように舌鼓をうたれておいででございます。
「いやあ、スシノのシースーは最高だ! (チラッ)この新鮮なネタ、漁船を買い付けてまで釣り上げてきた甲斐があったなあ、なあスシノ? (チラッ)」
まあ。これはどうやら、二択でございますね。
① 自分との結婚についてどう思っているか返事が欲しい
② 口についた白米をチュってして取って欲しい
そんなどうでも良いことはスルーさせていただきまして、わたくし国王に申し上げました。
「陛下、わたくしこの回転寿司『転生寿司』において、お寿司をもっともっとたくさんの方々に召し上がっていただきたい、そう心に決めております」
すると、国王は箸を置き、重ねた皿をすいっと手で退けると机に乗り出し、わたくしに向かってこうお話されました。
「この寿司とやら、ホタテムンドに詳細を聞いてはおったが、これ程までに美味いとは思わなんだ。これは天下一品の旨さだ。スシノや、この寿司という料理を広く国民に知らしめ、我が民を幸せにして欲しい」
胸が熱くなりました。
「寿司にはその力がある」
お寿司が、この広大な異世界で認められた、輝かしい瞬間でございました。
国王は、やはり話のわかる、素敵なお方でございます。わたくし、やはりホタテムンドさまの妻より、もうワンステップアップいきたいという気持ちが、じわりじわりと出てくるわけでございます。
皆さまもそうお思いではございませんか?
おほほほほほ。
けれど、ここでお話がガラリと変わってしまう出来事が起きたのでございます。
国王とホタテムンドさまのお二方が、げふっとなるまでお寿司を堪能した時。
どこかから照らしているのかはわかりませんが、まばゆい光が、ふわあっとNo.2 卓を覆ってしまったのです。
「なんだ、この眩しい光は」
陛下が目を細めます。
「これは、俺が転移した時のものと同じ光ではないかっっ」
ホタテムンドさまが叫び声を上げます。
もちろん、この異世界へと飛ばされたわたくしにも、身に覚えがございました。
「陛下、ホタテムンドさま……」
まさか、という気持ちでいっぱいでございます。
せっかくここまで、せっかくここまで来たというのに。
紆余曲折を経て、回転寿司「転生寿司」1号店を完成させたというのに!
やっと喜ばしいオープン初日をこうして盛大に迎えることができたというのに!
ヤーリイーカのお父さまお母さま、丸やんさま、コマチサンさま、第1王子〜第8王子の面々(ホタテムンド含む)、タラモ姫、そしてなにより、国王陛下。
走馬灯のようにわたくしの脳裏に、お世話になった皆さまのお顔が次々と。
「陛下、ホタテムンドさま……」
そして、まばゆい光は勢いを増していきます。
お別れの時間が近づいていることを、直感いたしました。
「ありがとうございました。スシノはこちらの世界でも寿司をたらふく食べることができ、幸せにございました」
「なにを言うっ、この店はスシノが作り上げた店だっ!この寿司店や俺を置いていくのかっ、お願いだ! 行くなっ! 行かないでくれ、スシノオォォォ!」
ホタテムンドさまの叫び声が、胸にこだま致します。
ここへきて、これほどまでの愛を与えられたことのないわたくしが、ホタテムンドさまを愛しく思わぬなんてことがありましょうか。
「ありがとうございます、ホタテムンドさま」
涙が頬を伝いましたが、このまばゆい光に包まれておれば、お二方に泣いているお顔を見せることなく、わたくしは去ることができるでしょう。
舞台から女優が去るように、動物園からモンキーが去る(猿)ように、幕が降りるのでございます。
わたくし、家に帰るんだわと、ようやく実感が湧いてまいりました。
さあ、お別れの時間でございます。
スシノは元の世界へと戻ります。
「国王陛下、ホタテムンドさま。ご機嫌よう……」
スポットライト級の強烈な光に目を瞑りました。
ぱあああああああああああああああああああああ。
もちろん。
わたくしが選ばれたと思いました。
この異世界と現代社会を行き来する、時空の旅人に選ばれたのだと思いました。
ですが。
なんともかんとも。
眩しさにつぶっていた目を開けると。
国王陛下のお姿が……
ありませんでした……。
「ち、父上ええぇぇぇーーーーーーー!」
あれ?
え、うそ。
ううむ。
ふむ。
なるほど。
そゆこと?
……
了解っしたー。あざーす。
……あーあ陛下ぁ、醤油とワサビ、買ってきてくんないかなぁ。。。
わたくしは、呆然とされているホタテムンドさまを前に、冷静にこう言いました。
「ホタテムンドさま。陛下は今頃、スクランブル交差点の真ん中で脛を打ち、どこぞの姫君と恋に落ちていることでしょう」
「そ、そうだな。まあすぐ帰ってくるだろう。俺の時もそうだったからな。父上はきっと井の中の蛙を嫌い、おのずから広い世界を見てこようとされたのだ。突然ではあったが、父上は開眼された。これも、スシノのSUSHI のワサビのお陰だ。あれは、カッッッッッツーンときて、その刺激で目が覚めるからな。ははは」
まあ、そういうことにしておきましょう。
「えーこほん。そ、それではホタテムンドさま、……気を取り直して。えーこほん……」
わたくしは懐から、第二の設計図と見積書を出し、机へと滑らせ、ホタテムンド王(仮)へと突きつけました。
王妃(仮おさえ)のわたくし、深呼吸をし、気持ちを新たにいたしましてよ。
「それではホタテムンドさま。回転寿司「転生寿司」2号店の建築設計、着手にございます!」
わたくしの夢、異世界にて回転寿司のチェーン展開!!
やってやりますわよっ!!!
皆さま、どうぞ、ついてきてくださいましっ!!!




