わたくし領収書と契約書の山を相殺できましたことよ
けれど……?
けれどっ! 怒!
「あの時は、馳走になったな。俺はいざ、会計となった時。またまばゆい光に巻き込まれて……そのままこの世界へと戻ったわけだが……。すんでのところでカズハちゃん、キミは俺のこの手に、あるったけの醤油とワサビを握らせたんだ」
思い出しましたわっ! その結末! あなたさまは、食い逃げしましたよね?
いえ、わたくしが醤油とワサビを握らせたのではございません。あなたさまが、消える前にむんずと握ったのではございませんかっ! 濡れ衣ですわ。なにが、わたくしのお土産などと言っちゃっているのでございますか! 濡れ衣ですわっっ。
あの後、店の店員さんに、「お客さーん、困りますよー。うちは醤油とワサビねえ、どんだけでも取り放題ってわけじゃないんですよねえ!」
睨まれました。睨まれたのでございます。あの時の店員さんのあざと可愛くない表情、忘れようにも忘れられませんわ。
だからこそ。
わたくしは、お会計をひとりで支払ったにも関わらず、醤油とワサビ代として、少し多めに置いていく羽目になりましたことよ。
その日が、お給料日の翌日で良かったと、心底思いました。
もしこれが、お給料日二日前のできごとだったとしたら。
考えるだけで震えが走るほどの地獄。その時わたくしの所持金は、カツカツ485円。お寿司4皿が限度でございました。あやうくわたくし、この身をもってしてお支払いをしなければならないところでした。(バイト募集:皿洗い・やる気のある人待ってるZzz)←やる気なし
とにもかくにも、ひどい目にあったのでございます。思い出の改ざんとはこういうことを言うのですわ。
「カズハちゃん、俺はキミに会えなくなって……俺は……寂しくて寂しくて、アイミスユーユーラブミーだった」
(´⊙ω⊙`) !
いったいカワリダネ先生とやらは何を教えていらっしゃるのかしら? ゆーらぶみーですって?
けれど、わたくし、冷静になってみました。
ホタテムンドさまが、会いたかった会いたかったと、悲しげなお顔を浮かべておられます。
そのお顔を見て、わたくしは……。わたくしは……。
いえ、騙されませんことよ!
わたくし。意を決して、懐からすっと出すものを出しました。
マグローニさまにお渡しするはずだった、領収書に契約書の山。
心を鬼にして! 剣を飲み込むマジシャンのように、恵方巻きを一気飲みする覚悟で!
ホタテムンドさまに進呈することといたしました。
「お寿司の食い逃げ分で、こちらをお支払いください」
「お? お? ……おおう、わかったわかった」
ホタテムンドさまが、懐から渋々、財布をお出しになります。
はいっ相殺っっ。解決でございますわ。
そして、わたくし。
こほんとひとつ咳払いをし。
宣言いたします!
「わたくし、こちらの回転寿司『転生寿司』を建設いたしたいと思っております。ホタテムンドさま、ご協力下さいますね?」
ホタテムンドさまは、その設計図を隅から隅までご覧になられると、大きく頷きました。
「これは……絵が下手すぎてなにが書いてあるかわからないが……んーーーー目を細めれば、なんらかのレジャー施設だということはわかる……これはヘヴィ(蛇)だろうか? アナグォ(穴子)だろうか? ちょっとわからんが、まあ良いだろう!」
建築許可おりましたー。へいおまち!
おーほほほほほほ。




