わたくし思いもよらぬところからアイテムゲットでございます
なんということでしょうか。
わたくしは手にした二つのアイテムを前にして、驚きを隠せませんことよ。
このように異世界に飛ばされまして、家族、友人、知り合い、ご近所さん、おイナリ犬(家で飼っていた芝犬)の居ない中、それでもお寿司だけは、お寿司だけは、と踏ん張ってまいりました。
お寿司を胸に。ドレスの心臓部分にお寿司の刺繍を自前で施し、そしていつ何時でもお寿司を讃えてきた。
心臓をお寿司に捧げる。
いつ何時でも。
この最上級の敬礼を繰り返し、自分を鼓舞し、寿司道を進撃してきたというのに。
このように容易にアイテムが手に入ってしまうとは、と。
「私も……いや、俺も驚いた。どうしてこの世界にカズハちゃんがいるのか。信じられなかったよ。まさか、ってね」
「ホタテムンドさま」
「事の次第はこうだ。俺はね、数年前に次期王になるために帝王学を学ぶことになってね」
ホタテムンドさまが、ベッドに腰掛け、わたくしを誘います。わたくしも失礼つかまつって、となりに腰かけましたことよ。
「父上から先生を紹介されたんだ。カワリダネ先生という方でね。ちょっと変わった先生なのだが……。先生曰く、『ホタテムンドさま。王というものは、〝木を見て森を見ず″ の考えではいけません。わかりにくいですと? では例えを変えましょう。〝魚を見て海を見ず″ これでわかりますか? んー、〝ブイブイ(エビ)でディアンネルダーバン(タイ)を釣る″ これでどうだ! え? 意味がわからない? ……と、とにかく、広い世界を見て来なさい、それが王となるお方には必要なのであります』とね」
「まあ、それで?」
「ああ。それから、まばゆい光に包まれたかと思うと、あっという間に、令和2年だった……」
「あの時でございますね。道路のスクランブル交差点で、わたくしとぶつかった、あの時」
「ははは。あれは痛かったな。お互い、弁慶の泣きどころを打ちつけて、その場で悶絶した」
ホタテムンドさまが、さも可笑しいというように、大声でお笑いになりました。
その高らかな笑いに、わたくしの脳裏に記憶がよみがえります。
「ふふ、そうでございましたね。あやうく、車に轢かれそうになりましたわ」
「良い思い出だ」
遠い目をされながら、ホタテムンドさまはわたくしの手を握りました。あら、お寿司ならいくらでも握ってくださって結構ではございますが。
「あの時、俺はカズハちゃんに運命を感じて、その場で交際を申し込んでしまった。そして、キミはすぐにもオッケーをくれたね」
あらら。これにはほとほと参りましたことよ。その時、わたくしは向こう脛をやられ、声が出ないくらい悶絶していたわけでございます。
脳が正常に働いておりませんでしたのよ。
それなのに、正体不明でなにやら怪しい洋服をまとったコスプレ(今なら違和感なく受け入れられましたものを)の男は、あなたに運命を感じただの好きだの付き合ってくれだの、延々と話しかけてきて、迫ってくるではありませんか。
アナタノコトがスキダガラー! って、スクランブル交差点の中心で愛を叫ぶわけでございます。
スクランブル交差点でですよ! カッッッ! ←効きすぎたワサビが神経を刺激する音
わたくしは、向こう脛の痛みに涙を流し、はたまた四方を囲まれている車からのクラクションや、道の真ん中で何やってんだっっっバカヤロウッッなどの罵声を浴びながら、これはもうオッケーを出すしかないじゃんと思いまして、そのままデートの約束をさせていただきました次第でございます。
「異世界から飛んできた衝撃で、その時は記憶が曖昧になっていた俺に、カズハちゃんは親切丁寧に名前をつけてくれたね。海馬志羅篤志、と」
ほう。我ながら、絶妙なネーミングだったわけですね。結果的に。
「それから二人、足を引きずりながら、回転寿司『喰ラ王寿司』へと飛び込んだね。あれは、俺にとって衝撃だったよ。この世にこんな回転があるのか、この世界にこんな美味いものがあるのか、とね」
ホタテムンドさまは、また遠いところを見つめていらっしゃいます。みるみる(ミル貝二回目)、その瞳が潤んでいらっしゃいます。
わたくしは、自分の手にあるものを見つめます。
ホタテムンドさまに握られている、わたくしの手の中にあるもの。
ワサビと醤油。
山盛りで。
これは、個々で使えるようにと小袋に入った、とても便利なワサビと醤油でございます。
「カズハちゃんがお土産にって、たくさん持たせてくれたものだ」
はい?
事の次第はちょっと違いますが、とりあえず置いておいて。
異世界において普通は手に入らんでしょうなる、No.1とNo.2。以上、2点をゲットなーりー。時間短縮あざっす。
けれど、……?




