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調律師と隊長  作者: 鳥飼泰
番外編
6/11

隊長は格好いい

アキの故郷には、セキレイという鳥がいた。

セキレイは狩猟に使われる賢い鳥で、青みがかった灰色の羽と紺色の目を持つ。性格は獰猛で、小さなものなら魔獣でも狩ってしまう。狩りで連れ歩くときは狩人の腕に止まらせるものだが、セキレイの体は狩人の頭よりも大きいくらいなので、狩人はまず腕の筋肉を鍛える必要があるらしい。

アキの故郷では強いものがもてはやされる。セキレイは人気の鳥で、もちろんアキも大好きだった。


そしてアキは、シロウが戦うところを見たとき、セキレイの目だと思った。

もともと、アキは武人が好きだ。そこへ、圧倒的な剣技で靄を蹴散らしていた人物がセキレイのように鋭い目をしていたのだ。好意を持つのは当然だった。


だがシロウはどうも、目つきの鋭さから他人に怯えられることがあるらしく、自身の外見をあまり好んでいない。アキはシロウほど格好いい人を他に知らないというのに。


シロウ本人が気にしている目は紺色で、セキレイと同じ色をしている。真剣になったときの鋭い眼差しは、獲物を狙うセキレイの目だ。顔だって凛々しくきりっと引き締まっていて、短く揃えられた濃藍色の髪と相まって意志の強さが表れている。

それから体も全身よく鍛えられ、それでいて無駄に筋肉がつきすぎていないところもいい。きゅっと引き締まったお尻から太ももにかけての脚線美は最高だとアキは思っている。

まったく文句のつけどころがない。


そんなシロウがアキに心を留め、王都で暮らそうと誘ってくれた。

気持ちを口にするのを恥ずかしがるシロウに、なんとか好きだと言わせて、アキは頷いたのだ。

今のシロウとの暮らしは、とても楽しい。




王都で暮らし始めてしばらく経ったある日。シロウと一緒に街へ出かけようということになった。

森から帰って来てすぐは、怪異の件の後処理でシロウは忙しそうにしていたが、最近は落ち着いたらしい。通常時であれば、シロウの仕事はこうしてきちんと休みが取れるのだ。


「シロウさん、まずはどこから行きましょうか?」

「そうだな……、天気もいいし、少し歩くか」


シロウの提案に、アキは微笑みで応えた。

寒くなってきたとはいえ、今はお昼過ぎの時間で太陽も出ている。それに、シロウと繋いだ手からじんわりと温もりが伝わってくる。


この季節、王都の街には様々な手袋が売られている。アキの故郷は手袋をするような気候ではなかったので珍しく、ひとつ買ってみようかなと思っていた。だが、もし手袋を買ってしまうと、シロウと手を繋いだときにその感触が遠くなるのだと気づき、慌ててやめたのだ。

こうして手を繋いでいると、その選択はやはり正解だったなとアキは当時の自分の判断に満足した。


「どうした、嬉しそうだな?」

「ん? シロウさんとこうして歩いているだけで嬉しいですよ」

「そ、そうか……」


これくらいの言葉で照れてしまうシロウに、アキはにこにこしてしまう。

きりりとした厳つい顔が、ほんのり目元を染めて口元をむずむずさせている。隣を歩く立派な軍人がこんな風に可愛いひとであると知るのはきっとアキくらいだ。

この純真なところは、是非これからも持ち続けてほしい。



しばらく歩くと、広場に花売りの屋台が出ていた。

色とりどりの花に誘われてアキが屋台へ近づけば、花売りの青年が笑顔で出迎えてくれようとして、隣に立つシロウを見てびくりとした。だがすぐに持ち直し、いらっしゃいませと言ってくれる。


「なにかお探しですか、お嬢さん?」

「いえ、特に探しているものがあるわけではないのですが、きれいだなと思って」

「ありがとうございます。よかったら手に取って…………」


そこで青年は言葉を止め、シロウをじっと見つめた。


「あの、もしかして軍の方ですか?」

「ん? そうだが」

「ああ、やっぱり。先日うちの店が泥棒に狙われたときはお世話になりまして、ありがとうございました」


青年がぺこりと頭を下げると、シロウは少し考えた後、そういえばと呟いた。


「……ああ。うちの隊が担当した案件だったな」


どうやら、この屋台の売り上げを盗まれそうになったところを、見回りで通りかかったシロウの部下トリオが未然に防いだというお手柄があったらしい。その際、後処理でシロウも隊長として顔を出していたようで、青年はそれを覚えていたのだ。


先ほどはシロウを見てびくりとしていた青年は、今はにこにこと笑みを向けている。


「先日のお礼に、お連れの方にお好きな花を差し上げましょう」

「いや、それは悪いだろう」

「いえいえ、こうして店を続けられるのも、あのときの軍のみなさんのおかげですから」


いいのかなとシロウを見上げれば頷いてくれたので、アキは好意に甘えて花を選ばせてもらうことにした。

だがアキはこの地方の花には詳しくない。知っているものはあるだろうかと見回して、ひとつ、馴染みのある花を見つけた。


「あ、この花」

「ああ、サネリアの花ですね。これは今が季節なので、おすすめですよ」


サネリアの花は、すらりと長く伸びた太い茎の上に大きな花がひとつだけ咲いているものだ。

葉は別にされているのか、花籠には花のついた茎だけが並べられていた。赤や白や黄色と、様々な色がある。

アキの故郷でもよく見かけていた花だから、適応環境が広いのだろうか。故郷で見慣れた花とここでも出会えたことに、懐かしさとともに嬉しさを感じる。


「お嬢さん、ご存知ですか? サネリアの花言葉は、可憐と祝福ですよ」

「へえ」

「あなたに似合いますね」


たしか故郷では違う花言葉だった気がするなと考えながら、青年の社交辞令にアキも笑顔で応える。接客の仕事だからか、青年の言葉は自然で嫌みがなかった。

さらによく見てみれば、青年は水色の髪に柔和な表情で、いかにも優しい店員という雰囲気がある。花屋でこの見た目であれば、きっと人気があるに違いない。


王都から遠いアキの故郷でもこの花は咲いていたと話すと、青年は、他にも分布範囲の広い花やその花言葉をあれこれ教えてくれた。珍しさから興味深く聞き入るお客が嬉しかったようで、しばらく盛り上がった。


「さて、何本くらいでおまとめしましょうか?」


そう言って数本のサネリアの花を手に取る青年に、アキは待ったをかける。

大きく存在感のある花なので、一本で十分だと思ったのだ。帰ったら、食卓の一輪挿しに飾りたい。この花を見ながらのシロウとの夕飯は、きっと楽しいに違いない。


「なるほど、それも上品でいいですね。では、一本でお包みしましょう」


笑顔で頷いた青年に包んでもらった花を渡され、アキはシロウに微笑んだ。

丁寧に包まれたサネリアは、黄色の華やかな花だった。きっと食卓を華やいだ雰囲気にしてくれるだろう。


「ふふ。シロウさん、いただいちゃいました」

「ああ、……よかったな」


左手にサネリアの花を持ち、右手はシロウの手を握り、両手に花の気分でアキはシロウと共に再び歩き出した。



(………………?)


花屋の屋台を出てから、なんとなくシロウの雰囲気が変わったような気がする。

握られた手の力が先ほどよりも強いし、話しかけても上の空だ。


(なにか気になることがあるのかな?)


せっかく楽しいお出かけなのだから、引っかかることがあるならここで解消してしまおうと、アキは握られた右手をくいっと引いて、シロウの意識をこちらに向けさせた。


「少し、力が強いです」

「あ、ああ。……すまない」

「どうかしましたか、シロウさん?」

「いや、…………」


そこで言いよどんでしまう時点で、なにかあるということだ。


「なにか気になることがあるなら、言ってもらった方が私は嬉しいです。せっかくふたりで過ごしているのだし」


こういうとき、アキは折れないとシロウは知っているはずだ。

じっと見上げれば、シロウはためらいながら口を開いた。


「その、……先ほどの青年のような人物の方が、アキの好みなのだろうかと、」

「はあ?」


思いがけない言葉に、アキは声を上げる。


「彼と話しているアキは、とても楽しそうだった。俺では、ああいう話はできないだろう」

「え、それは私の故郷と同じ花があったので、ちょっと興味がわいただけですよ?」

「それに、彼は見た目も優しそうで、俺とは違うしな…………」


言いながら目を逸らして悄然とするシロウを、アキはぽかんと見つめる。

シロウは普段はすごく格好いいのに、こういうところがちょっと可愛いなと思ってしまうのだ。

だが、無用な勘違いは取り去ってしまうべきだろう。


繋いだままだった手を、アキは強くぎゅっと握った。これから言うことが、しっかりシロウに伝わるように。


「あのね、シロウさん。あなたは私にとって、すごく格好いい男性ですよ。その目だって、鋭くて強そうでセキレイみたいで、最高に魅力的です。それにいつも言ってますが、その鍛え上げた肉体、特にお尻からの脚線美。思わず触りたくなるくらいです」

「え、あ、ああ…………」


シロウがうろたえて少し目元を染めている。ちゃんと伝わっているようだ。


「王都の女性の好みはよく知りませんが、…………私の故郷だと、きっとシロウさんはすごく人気があると思います」

「は?」


想像してみればその通りだとしか思えず、なんだか愉快ではない気分になった。その不愉快さを顔に出したまま、アキは続ける。


「故郷では、強い男性がもてはやされていました。シロウさんは文句なく強いし、顔も凛々しいので、間違いなく争奪戦です」

「…………」


今度はシロウがぽかんと見つめてくる。

嘘ではないと、アキは重々しく頷いた。


「だから、ここでシロウさんと会えた私は幸運ですね。故郷でシロウさんを手に入れるのはちょっと大変だったでしょうから」


そういう意味では、迷子になってよかったのかもしれない。

いまだに迷子の理由はよく分かっていないが、それはすでに終わったことだ。今は、シロウに会えた幸運に感謝しよう。


「まあ、もしも話はしても仕方ありません。私たちはここで出会って、思いが通じたのだから、それで十分です」


ね、と握っていた手を離してアキが笑いかけると、シロウもぎこちなく頷いてくれた。


「そうだな…………」


シロウは腕を伸ばしてアキを引き寄せると、ぎゅうっと抱きしめてきた。

アキは慌ててサネリアの花が潰れないように避難させる。


「わわ、シロウさん。ここ、街中ですよ」

「うん? …………まあ、少しだけ」


今日のシロウは軍の制服を着ていないからそれほど目立たないだろうが、先ほどの花屋の青年のように顔を知っている住民もいるだろうに。いいのだろうか。


「アキ、ありがとう……」


顔をすり寄せてくるシロウがとてもご機嫌のようなので、まあいいかと、アキはその広い背中に腕を回した。


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― 新着の感想 ―
[良い点] なっ、なな、なんで急にこんな直接的な甘い話をぶちこんできたんでしょうかねえええええええええええええ!!!! またふんわりじんわりを期待してた私はのけぞり過ぎて倒れましたよマジで!(マジ […
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