序. 隊長が陥落した日
王都の郊外にある森で、怪異が起こっているとの報告が上がってきた。
森に隣接する村からの要請もあり、軍の調査隊が派遣されることが決定され、シロウは隊長として四人の部下を引き連れて向かうことになった。
シロウは、よく人から怖がられる。目つきが悪いのに加え、軍人として鍛え上げた体躯で威圧感があるらしい。特に初対面の女性であれば、ほぼ確実に怯えられるのが常だった。
街で住民から聞き込みをしていても、相手が怖がって口をつぐんでしまうこともあるので、同期の魔術師に任せるしかないこともある。この同期は顔が穏やかで雰囲気も柔らかいので、人気があるのだ。
さすがに軍の部下たちはシロウのことを怯えたりはしないので、周りはむさくるしい男ばかりになってしまった。
このままずっと、女性とは縁のない人生を送るのだろうとシロウは思っていた。
だが、調査隊として派遣された森で、アキに出会った。
「怖くはありません。あなたのような目は、セキレイの目というのです。鋭く凛々しい、武人の目です」
「セキレイ……?」
「狩りに使われる鳥です」
よほど博識なのか、アキはシロウも聞いたことのない鳥の名前をさらりと上げ、凶悪なこの目を武人の目だと褒めてくれた。
「私はあなたが剣を振るところを見たことがありますが、そのときの鋭い眼差しと剣技は、思わず見惚れてしまうほどでした」
どこでシロウの剣技を見てくれたのかは分からないが、自分の専門を認められて嬉しかった。
「あなたは素晴らしい武人です。なんら恥じることはないと思いますよ」
「…………そうか。部下たち以外にそういったことを言われるのは初めてだな。ありがとう」
「わ、隊長さん、その顔いいですよ。笑顔がとても格好いいです!」
「……っ、からかうな」
そもそも女性の前で笑うなど滅多にないことだが、さらに笑顔を褒められたのは初めてのことで、シロウは顔に朱が上るのを感じた。
シロウの笑顔を褒めながら笑うアキのその顔こそ、とても魅力的だと思った。
その後、もう一度アキに会いたいと、シロウは森に隣接する村を探し回った。だが、なぜか一向に見つからない。
(アキは村の住人ではなかったのだろうか…………)
たった一度の邂逅で、シロウの思いは募る一方だった。
第一話も、同時に投稿しています。