ルビィの独白7
婚家に戻ったセーラからは一度だけ手紙が届いた。3ヶ月目のことだ。そこには「家族に事情を打ち明けたことで、義両親からは離縁を求められたが、夫がそれを拒んで守ってくれているから大丈夫だ」と記されていた。心配は尽きなかったが、ルビィ自身にできることは何もない。辛くなったらいつでも自分のところに戻ってくるようにとしたためるので精一杯だった。以後セーラからの便りはなく、それはなんとか婚家で折り合いをつけてやっているからだろうと思っていた。
だからセーラの死亡の知らせはまさに晴天の霹靂だった。手紙には亡くなった事実がたった数行、簡潔に記されているのみで、死因などについての記載もなかった。ルビィは取るものも取り敢えず、休暇をもらってセーラの婚家に向かった。馬車を乗り継いで丸4日はかかる道程の末たどり着いたのは、見渡す限り麦畑の広がる豊かな田園地帯だった。王都と子どもの頃の夜逃げ先だったウォーレス領くらいしか知らないセーラにとっては、初めて見る田舎の光景だった。乗合馬車を降りてセーラの婚家への行先を道ゆく人に尋ねれば、すぐに返事が返ってくるくらい、地元では有名な家らしかった。ちょうどその家まで行商に行くという商人と行き合わせ、馭者台の端に乗せてもらったルビィは、この見渡す限りの畑がすべてその家の敷地であることを教えてもらい、息を呑んだ。裕福な農家だとは聞いていたがこれほどまで潤っているとは思ってもいなかった。この土地も、そこかしこで働く人々も、すべてセーラの夫が継ぐ予定のものだと思うと、後継ぎが強く望まれる理由がわかった気がした。
派手さこそないが明らかに都会の出で立ちのルビィを見て、商人はあの家に何をしに行くのか尋ねてきた。嫁いだ妹が亡くなった知らせを受け取った旨を答えると、突然商人は顔を歪め、それ以上ルビィに何も聞いてこなくなった。しかも家まであとわずかという距離で、ルビィに馬車を降りるよう求めてきた。
「若奥様にはよくしていただいたし、とても気の毒なことだったと思うが、ワシも商売なんでね。あの家の人間に睨まれて二度と立ち入れなくなると困るんだ。ほら、土手の向こうに茶色い屋根が見えるだろう。あそこが本家だ。もう歩いてもいける距離だろうから」
迷惑そうというよりは申し訳なさそうな商人の様子を見て、ルビィは彼が事情を知っていることを悟った。セーラの死因すら知らされていなかった彼女は、商人に妹の死の真相を教えてほしいと頼んだ。商人はそんなことも聞かされていないルビィに対して驚いた様子だったが、それと同時に哀れみのような表情も浮かべた。「ワシから聞いたとは絶対に言わないでくれ」と前置きして、声を潜めた。
「自殺だったと聞いているよ」