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ヒロインなんかじゃいられない!!アナザーストーリー  作者: ayame@キス係コミカライズ


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11/11

ルビィの独白11

 セーラから預かったという荷物を開けると、細長い箱とルビィ宛の手紙が入っていた。それは短い遺書だった。ルビィの妹に生まれて幸せだったこと、7年という短い年月ではあったが夫と夫婦になれて幸せだったこと、自分が死んでも彼のことを責めないであげてほしいということ。箱を開けてみると、中には見覚えのあるネックレスが入っていた。7年前の王都での見合いの席で、夫がセーラのためにと選んだ、趣味の悪いネックレスだ。手紙には、自分が亡くなればこのネックレスも処分されてしまうだろうから、少女に預けたことが書かれていた。できることなら一緒に埋葬してほしいけれど、難しいだろうから、ルビィに持っていてほしいと。そしてルビィが天寿を全うするときに、一緒に天国へ持ってきてほしいとも。どんなに自分に似合わないネックレスであっても、それは夫がセーラに贈った最初の品で、セーラに結婚を決意させたものだった。どうしても捨てたくないし、新しい妻にも見られたくないと記されているのを見て、セーラがすべての事情を理解していることを悟った。



 その後、後ろ髪を引かれる思いでいったんは王都に戻ったルビィだったが、やはりセーラをひとりであの地方に置いておく気になれず、遺体を引き取る算段を立て始めた。だが事は簡単ではなかった。とにもかくにもお金が足りない。一度埋葬された棺を掘り出すのにも、それを移送するにも莫大なお金がかかる。王都までは乗合馬車を使っても丸4日以上かかる距離だ。乗合馬車は遺体を乗せることを嫌がるだろうから、馬車を個人手配しなくてはならない。さらに新しい墓地を用意するのも困難だ。王都は土地が狭く、新しく墓地を用意するにも割高だ。

 ルビィはその費用を父親に頼った。彼は当初、この申し出を拒否した。死んだ娘など利用価値もないものに大金を払う意味がわからないとせせら笑ったが、ルビィが生涯に渡り仕送りをすると約束することで、しぶしぶ幾ばくかの金を用立ててくれた。さらにウォーレス教授が、ウォーレス領の墓地に埋葬してはどうかと提案してくれた。ウォーレス領はセーラの婚家と王都との間にあり、王都まで運ぶよりも半分の距離ですむ。王都の墓地より入りやすいこともあり、セーラはその提案を飲むことにした。それからさらにお金を貯めて、準備をするのに時間を費やし、ルビィが今回の計画を実行に移せたのは、それから1年の月日が流れた後だった。一応婚家にも了解をとる手紙を出したが、返事はなしのつぶてだった。予想していたことだし、今更反対にも合わないだろうと、ルビィは返事がないまま行動をおこした。セーラの棺をウォーレス領の墓地まで移送する間はずっとお天気に恵まれており、妹と2人旅をしてる気分になれた。ウォーレス領の墓地で再びセーラを埋葬するとき、例のネックレスを一緒に捧げた。ルビィが持っているより、セーラが自分で持っていたいだろうと思ったのだ。

 その後、バーナードに嫁入りするカトレアとともにダスティン領に移り住んだことで、セーラへの墓参りはより行きやすくなった。彼女は今も、ウォーレス領の墓地で、あのネックレスとともに眠っている。



 ルビィはもともと貴族と平民との身分差にそれほど頓着していなかったが、セーラの死がきっかけで平民に対して一定の距離をとることになった。もしセーラが嫁いだのが貴族の家であれば、子どもが産めなくともそれなりに敬われて生活できていただろうことを思うと、貴族と平民とのしきたりの差や、それを理解できない彼らに対して憤りを感じるようになった。とくに、あの地方の屋敷で見た女主人や新しい嫁のあさましい考え方がおぞましく、平民は皆あのように打算と己の欲望のためだけに生きる種族だと思い込むようになった。だからこそ、新たな女主人となったカトレアの身に似たようなことが起きてしまったとき、騎士爵の娘である平民の相手の女が許せなかった。カトレアは貴族女性として納得し受け入れていたが、ルビィは納得などできなかった。生意気なあの女の姿に、セーラが死ぬ要因を作った農場の新しい嫁の姿が重なった。セーラのときと同じようにカトレアのことも失ってしまうかもしれないという恐怖もあった。幸いダスティン男爵はあの婚家の一族のような浅はかな人間ではなかったため、カトレアの生活は守られることになったが、今度は子どもを産む決断をしたにもかかわらず、その子を手放さずに男爵の気を引きたがる女の行動がさらに腹立たしかった。怒りはそのまま、女の子どもを引き取ったあとも、その子に向けられることとなった。

 ルビィも頭のどこかでは理解していたはずだった。この子は男爵の血を引く子どもであり、この家に必要な跡取りなのだと。この子とあの女は違うのだと。だが頭では理解していても心が変われなかった。今でもセーラと別れるときの、作られたような笑顔が浮かぶのだ。あのとき、余計なことなど考えずセーラを引き留めていれば、あの子は死なずにすんだかもしれないと。後悔は尽きない。だからこそ、その不満を目の前の少女に向けてしまう。その思考の歪みを、自分自身、どうにもできないでいた。

 自分は罪を問われ、放逐されるだろう。それは敬愛する女主人との別れを示している。セーラのようにしないためにも全力で守ろうとした存在を、自分はまた失うことになるのだ。その皮肉さは自分で招いたものだと知っている。


 悲しみなのか、喪失感なのか、憎しみなのか、絶望なのかーーー。ルビィにはもう、判別できない。


 12月の夜がますます更けていく。ルビィはやはり眠りにつくことができないでいた。





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