男爵令嬢は起業したい
思いついたので書いてみたくなった勢いのみの短編です。
乙女ゲームのヒロインって、呪いか何か不可思議なチカラ絶対働いてるだろ!!
って、いつも思っていた。
勿論ゲームしている時はそのシチュエーションに酔って、推しキャラとのイベントやスチルに萌えまくったけど!
でも、冷静に考えて貴族の常識を知らない平民上がりのちょっと可愛い子が王子様や公爵、侯爵などちゃんと教育された方々を落とすとかおかしいでしょ?
悪役令嬢とか言われちゃうライバルだって、そりゃ自分の婚約者に手を出されたら文句も言うだろうし、言ってわからないなら行動に移すだろって思う。そこも変で、そんな権力のある令嬢達がいぢめとか嫌がらせなんて小さい事するの??なんで親使わないの?とも思うけど…
まあ、そんな事を言ったら何も進まない、終わらないになるのは十分に分かった上でゲームは楽しめるから良いんだけども。
そう、ゲームなら、ね。
なんで、こうなったんだ・・・
正直、それが私の感想だった。
アイシス・ミッテンハイマー
それが私の今の名前だ。
サンドリア王国、貴族の子弟達が通う学園を舞台にした乙女ゲームのヒロイン。
どうやら私は所謂転生を果たしたらしい。
私がこの世界が乙女ゲームの世界だと知ったのは、10歳の時だった。
母からサンドリア王立学園の名前を聞いて、何かが引っかかった... 何日も悩み、ふと鏡を見て全てが合った。
ゲームらしく、ピンクのふわふわした髪に菫色の可愛らしい少女。
成り上がりと言われる男爵家の令嬢が学園に夢見て入学し、上流貴族子弟と共に過ごすと言うかなりオーソドックスな物語。
ゲームのタイトルはなんだったろうか、「終曲は円舞曲と共に」だったかな…?
卒業パーティーでのシーンをそのままタイトルにしたイメージだ。
登場するキャラも王道を押さえる無難なラインナップとして王族として第二王子、公爵や侯爵令息に騎士、教師、後輩と全て押さえてあるものの私の好みは居なかったんだ... 非常に残念な事に。
むしろライバルである令嬢達に非常に素敵な方が居てむしろそっちの方が(自粛)
何はともあれ、幸い悪役令嬢の方ではないし、私は彼等に興味ないんだし問題ないだろう!と高を括って、何事も無く15歳になりサンドリア王立学園に入学し、憧れの侯爵令嬢や伯爵令嬢とお近付きになって仲良くなれた!
ここまでは良かったのに・・・
問:何故、私は無駄にキラキラしい男性陣に囲まれているのでしょうか?
もちろん、誰かが答えてくれる訳ではない。
ただの現実逃避なのだけど、本当に誰か助けて... 私はお姉様方とお茶の約束があるのに!!!
私は本来敬愛するミリーナ様やメルティナ様達と午後お茶をする約束で先にテーブルの用意をしていたのだ...
それが気がついたら第二王子やら、公爵家子息やら、侯爵家子息やら攻略キャラ達に囲まれて身動き取れなくなってしまったのである。
これが同じ男爵家の人間とかなら「邪魔よ!」と追い払えるが、上位の方々にそんな失礼な事は出来ず、ただただ固まっていた。
そんな私を救ってくれたのは黒髪の天使だった。
「アイシス様、お顔が強ばっておりますわ…」
苦笑しつつ、私を囲む男性を押しのけて来てくれた美女の声に我に返る。
「み、ミリーナさまぁ~っっ」
「あらあら、アイシス様ったら… ほら、殿方で囲むからアイシス様が怖がっていらっしゃるじゃないですか!
皆様も立場ある方々なのですから、あまりアイシス様を虐めないで下さいませ」
ミリーナの剣幕に男性陣はそれぞれに慌て、弁解するが更に追撃が来る。
「そうですわ、殿下だけでも気弱なアイシス様は気遅れされると言うのに」
と、ため息つきながらそっとアイシスの手を取ってミリーナとは反対側に座る銀髪の妖精の如き美しき令嬢。
「そもそもぉ、みなさま方はあたくし達を放っておいてアイシス様を困らせるなんて、如何かと思いますのっ」
ぷんすか!と形容されそうな、ちっとも怒っていないのに怒っているように言う、オレンジの髪をツインテールにした幼く見える令嬢がアイシスの前で仁王立ちする。
「本当ですわよねぇ。まあ、それよりも、わたくしもアイシス様とお話ししたいと思っていますのよ?」
「勿論、私も交ぜてくれるよね?」
最後のダメ押しに華やかな金髪の令嬢と、男性顔負けの長身に長い灰色の髪を無造作に編んで流している令嬢もアイシスを守るように来る。
「メルティナ様、プリシラ様、ジャスティーナ様にマリアベル様まで!みなさま、ありがとうございます・・・!!」
先程までとは別のキラキラしさに囲まれて、アイシスはうっとりとしてた。
煌びやかな令嬢達は、男性陣(彼女達の婚約者)を追い出すといそいそとお茶会を始め、負けた男性陣はすごすごと散って行くまでが昨今の学園の風物詩となっていた。
どちらにせよ、中心に居るのは常にアイシスであり、一般生徒としてはアイシスはまさに触らぬ神に祟りなしであった。
◇◇
ある日の事、学校から帰宅してアイシスは母ミリアネアとお茶をしていた。
「アイシス、学園での生活はどう?」
「素敵な方々と知り合えて、とても楽しく過ごしていますわ」
「そう、どんな方々?」
アイシスは自慢げにメルティナやミリーナ達令嬢方の話を母に聞かせ、ミリアネアも娘の様子を微笑ましく聞いていた。
「そんなに素敵な方々に良くして頂いているなら、今度お茶会でも開いてお礼を申し上げないといけないわね」
「お母さま、良いの?きっとみなさま喜んで下さるわっ」
「ええ、シェフに腕によりをかけて用意して貰いましょう」
きゃー!と喜ぶアイシスを見るミリアネアの表情が曇る。
「所でアイシス、殿方とは... どうなの?」
「えっ? 殿方とどうって・・・特に親しい方も残念ながら居ませんわ」
一瞬焦りつつも、そつのない答えを選んだハズたったが、母の表情は益々曇る。
「ねぇ、アイシス。貴女は何もしていないのに一方的に寄ってくる殿方が何人かいらっしゃらない?」
「えっ・・・」
「やっぱり」
「お、おかあさま、わたくし本当に何もっっ」
焦るアイシスの手を取って抱き寄せると、ミリアネアは優しく「大丈夫、貴女は何も悪くないわ」と囁いた。
ホッとすると共に涙が零れた。自分は何もしていない、全ての男性にお断りをしても、それでも寄ってくる状況が正直怖かった。
大好きな友人達や、母に嫌われるんじゃないかと気が気じゃなかった。
「アイシス、ごめんなさいね。貴女に話さなければいけない事があるの」
そう言ってミリアネアが話してくれたのは、母の家系に伝わる伝説。
◇
その昔、サンドリア王国には妖精の森と呼ばれる深い森があった。
その中心には小さな泉があり、妖精達が住まうと言われ、人間は妖精を敬い立ち入る事は無かった。
とはいえ、森の浅いところは自然の恵も多く、何だかんだ近隣に住む者はそれを取りに入っていた。
そして、妖精が悪戯好きなのは古今東西変わらなかった為、悪戯される人間もそこそこ居たため妖精の存在は認知されていた。
ある時、貴族の男性が狩りの途中で暴漢に襲われ、知らずに森に迷い込んでしまった。
そして、妖精の一人を見初める。
妖精もまた男性に惹かれ、人間となり男性と共に森を離れた。
◇
そんな王道、お約束通りの話をミリアネアはアリシアに語った。
「お、お母様・・・」
「ええ、お母様の実家に伝わる伝説よ。
そして、このお話には続きがあって、これが重要なの」
固い表情の母にアイシスもまた緊張する。悪い予感しかしない。
「わたくし達の祖先である妖精は元は花の精なのだけど、花はその香りや存在で虫や鳥を惹き付けるでしょう?
同じように、わたくし達一族の女性は本人の気持ちに関わらず男性を引き付けてしまうらしいの。
ただ、誰もがそうなる訳ではないのだけど、アイシスちゃんには10歳頃にはその片鱗が見えていたので心配で...」
「おかあさま... そ、それはどうにかなりませんの?」
「大丈夫よ」
アイシスの頬を撫でながらミリアネアは優しく微笑む。
「アイシスちゃんが、本当に好きな人が出来ると自然と治まるから」
(それってルート確定したから邪魔が入らなくなるってだけじゃ?!)
呆然とするアイシスにコロコロと笑いながらミリアネアは早く素敵な人を見つけなさいと言いながら部屋を出ていった。
「・・・・・・めっちゃチートじゃないかー!!!!」
アイシスの叫びだけが虚しく響くだけであった。
翌日塞ぎ込むアイシスに、いつもの令嬢達が心配して寄ってくる。
お昼にとうとう前日母から聞いた話しを聞かせる。
「まあ、それで悩んでらしたのね」
「アイシス様らしいわ」
みんな苦笑しつつも驚いた素振りがなく、怪訝な顔をするアイシスにマリアベルが頭を撫でる。
「アイシス、君の母上のご実家の話は貴族世界では有名なのだよ」
「そうですわね。それに貴女にわたくし達の婚約者を取りたいと言う気持ちがないのも知っておりますし」
「わ、わたくし、みなさまに嫌われてしまうかと・・・」
「もぉー!アイシス様をそんな事で嫌う訳ないじゃないですかーっ」
それぞれの令嬢に抱きつかれたり、撫でられたりして慰められた。
「問題は、アイシス様に想う方がいらっしゃらない事ですわよねぇ」
「えっ?」
「想像してごらん、貴女の周りは常に殿方が居るんだよ?
他の殿方はどう思うかな?」
完全に逆ハーレムである。
どう考えても同性にも異性にもふしだらだと思われる事は間違いない。
流石に血の気が引く。
今現在好きな人は居ないけど、貴族社会における令嬢はやはり結婚は大事だ。政略としても、ふしだらだと言われる令嬢は不利だろう。
「わ、たくし・・・」
「そんなに心配されなくても大丈夫ですわ。アイシス様はこんなに可憐で人柄も可愛らしいんですから」
項垂れたアイシスを心配してメルティナの言葉に他の令嬢も頷くが、当のアイシスは全く別の事を考えていた。
「わたくし・・・事業を起こして一人で生きて行きますわっっ」
「「「「「えっ?!」」」」」
「そうと決まったら、経済や経理の勉強しなければいけませんわねっ!
みなさま、大変申し訳ありませんが失礼致しますわ」
スッキリした笑顔で去っていくアイシスに、令嬢達の気持ちはひとつだった。
どうしてそうなる?!
◇◇
それから、アイシスは令嬢達だけでなく、攻略対象の男性達、更には両親に止められても挫ける事無く経済や数学を中心に勉学に励む。
数ヶ月経ち、期末試験では学年トップを取れるようになり、事業を行う上で大切だからとコミュニケーションも大切にしてお茶会なども積極的に参加して行く。
この頃になると両親は観念して好きにしろと、必要なものについては専任の家庭教師を用意したりミッテンハイマー家の取仕切る事業についても教育を始めた。
相変わらず男性がいつも周りに居るものの、浮いた話は一切なく清廉な人柄と老若男女に受ける完璧な令嬢に仕上がって行った。
そんなアイシスにとって順調な生活に変化が起きた。
「お嬢様、また計算ミスです」
「わ、分かっていますわ!今直しますわよ!」
そう、アイシス専任の執事がついたのだ。
ミッテンハイマー家は貿易を行う為、そこの支配人を任されている家の長男である。
次期支配人として期待されている為、勉学はもちろん武術も嗜んでいる。
そんな人物を男爵令嬢の使用人兼家庭教師に付けたのだから、アイシスの両親も思い切った事をする。
彼の名をジェイク・リヒテンハイムと言う。
焦げ茶の髪に、鮮やかな青い目が冷たく細められる。さっさと直せと。
ジェイクにとってアイシスの使用人、執事となるのは面倒なだけであったが男爵家の覚えを良くするという意味では悪い話では無かった。
ただし、ジェイクはサンドリア王立学園に通う数少ない平民の為、アイシスの印象は最悪であった。
そう、常に男性を侍らす軽薄な令嬢として、認識されていた。
ジェイクには何故アイシスがそんなにモテるのか分からなかった。
確かに愛らしい見た目の令嬢ではあるが、所詮は男爵令嬢だ。公爵家やまして王家の人間が婚約者を差し置いてまで執着する理由がないように思えたのだ。
そして、その男性達の婚約者である令嬢達とも仲が良いのだから益々不思議だったので、アイシス付になる事を承諾する前にアイシスについてきっちり調査を行い、アイシスと令嬢達との話を聞く。
「ああ、アイシス様は今日も愛らしいよな。
俺達平民にも分け隔てないし、フラウリーズ家の呪いがなくてもアイシス様ならモテるよ」
そう友人の一人が漏らした。
フラウリーズ家、伯爵家であったはずだ。特に経営不振でもない伯爵家の令嬢であるアイシスの母親が男爵家に嫁ぐ事が異例である。当たり前だがアイシスの母に憚る事などない完璧な貴婦人でもある。
ジェイクもまたブラウリーズ家の呪いの話を知らなかった為、その内容を知り驚くと共にアイシスのおかれた状況を理解した。
理解はしたが、だからと言って好意を抱いた訳ではない。ただ、その特殊性を活かして人脈を広げるアイシスの強かさは尊敬出来る。
真面目に勉学にも励んでいるので、それなりに手伝おうとは思えるようになった。何より、営業拡大出来るのは願ったり叶ったりでもある。
そんなこんなで、ジェイクはそれまで知らなかった貴族社会に執事として参加しつつ、アイシスを通じて多くの貴族と繋がりを作り、半年経つ頃アイシスはようやくミッテンハイマー家の事業を一通り把握した。
「ねえ、ジェイク。我が家の事業は相変わらず盛んに見える反面、停滞している様に見えるのだけど?」
「ええ、お嬢様の仰る通りです。ミッテンハイマー領は国内有数の港を持ち、貿易で利益を上げています。
それは同時に自領に特産を持たないのと同義なため、輸出入の相手に何かあると立場は一気に弱い物となるのはご存知の通りです。
実は最近東国に変化があり、我が国からの鉄の購入が目減りしています。」
「そう、かの国は鉄を産出していないはず。わたくしにはそんな話は入っていないと思うのだけど?」
「私の元にもありませんね。ただ、かの国の内乱が収まりそうな予兆があります」
「なるほど。すぐに不要にはならないけど、これ迄ほど買うのは躊躇する状況ね。
内乱が収まるのは良い事だけど、代わりに何か別の物を提供しないといけないわね」
「何かお考えがおありで?」
「大したものじゃないわよ。単に砂糖や反物、彼の国は漆器が中心と聞くので陶器など、今までより少し上質なものを増やそうかと」
「まあ、無難な線でしょうね」
「じゃあ、鉄は今までの9割、代わりに贅沢品をその分増やしておいてね。
あまり急に変えると警戒されかねないから、その辺の匙加減はジェイクに任せるわ」
ジェイクが一礼して下がると、そのままアイシスは次の書類へと取り掛かる。
アイシスが業務を行う机には常に書類の山があり、現在アイシスの両親はアイシスに事業を任せて早めの銀婚旅行と称して避暑地へと行っていた
なんとも調子の良い両親だと思わなくもないが、一人娘であるアイシスが幸いにも事業の才能があったためアイシスに領主代理の権限まで預けられる豪胆さがあるとも言える。
「それにしても・・・こうも特産もないと厳しいですわねぇ・・・
港を有してるし、領地の首都は港町だから魚介類は新鮮でそれが特産と言えなくもないけれど」
令嬢らしくなく「うーーーーー」と唸りつつ机にぺしょっと寝る。
サンドリア王国は海にも山にも恵まれている国であり、ミッテンハイマー領以外にも海を持っている領地はある。そして捕れる魚介類も大差はないため、海産物と言うだけでは売りにならない。
「となると・・・サンゴとか、真珠とか、海の宝石系もあまりない・・・真珠の養殖はできないかしら?温暖な気候だもの養殖に向いているかもしれないわね。あ、マベパールもあるかもしれないわ」
気になったら即行動あるのみ。ジェイクに人工での真珠やマベパールについては聞いた事がないと聞き、真珠貝やマベ貝について調べつつ、真珠貝などが捕れる漁村への視察日程を組んだ。
「ジェイク、宝石職人の手配もしてあるわね?」
「ええ、腕の良い若い職人を呼んであります。明日の出立には間に合います」
「ありがとう。これが上手く行けば、我が領にも特産品が出来るわ」
「しかし、お嬢様は良く真珠の作り方なんてご存知でしたね」
「昔、本で真珠は元々は貝の中に入った異物を貝が自分の体が傷つかないようにした時に出来た。つまり偶発的に出来るものだと読んだの。でも、それならば異物をわざと入れれば、真珠を人為的に作れるはずでしょう?マベパールも同じ原理よ」
「なるほど、となるとこれが成功したら大変ですね」
「ええ、絶対に他へ漏らす事はダメよ。いつかバレるでしょうけど、4~5年は秘密にしたいわね」
「承知しました」
にやりと良い笑顔を浮かべるジェイクに雑事は任せて、アイシスはそのまま留守にするための業務を前倒しで進めて行く。
翌朝アイシス多少疲労を感じつつも、気持ちは期待に膨らみ晴れやかだった。
幸い天気にも恵まれ、颯爽とジェイクと宝石職人や数人の部下と共に漁村へ向かった。
◇◇
そして、翌年アイシスは18歳となり、成人の儀を他の貴族と共に王宮で行われる式典へと赴いた。
男爵家令嬢でしかないアイシスも控え室が与えられていたが、そのアイシスは全て準備が整ったものの機嫌の悪い表情のまま窓の外を眺めていた。
「・・・・・・憂鬱だわ」
「領の特産品のお披露目です、大いに目立って来てくださいませ」
「分かって、いますわよ・・・ でも、式典とか堅苦しいのはあまり得意じゃありませんの」
「侯爵令嬢や伯爵令嬢のみなさまもお待ちですよ?」
「そうね、みなさま方がいらっしゃらなかったら、本当に来たくなかったわ。メルティナ様と第二王子のエドワルド様の成婚のお祝いもお渡ししないといけないし、頑張りますわ」
不貞腐れるように、立ち上がるアイシスにジェイクは苦笑しつつも見惚れる。
アイシスはこの日の為に用意された豪華なドレスに身を包んでいた。
薄絹を何枚も重ねて胸辺りは白に近い淡いピンクから徐々に濃い深みのある薔薇色のドレスに、パステルピンクの髪はハーフアップにして華やかさと令嬢らしい上品さにまとめていた。
そのドレスも、髪にも大小の真珠が惜しげもなく使われていた。
アクセサリーは逆にさり気なく耳には大粒の真珠を1つずつ、首元はドレスと同素材で作った深みのある薔薇色のチョーカーで飾った。
「大丈夫、お嬢様がこの会場で一番お美しいですよ」
「ありがとう。貴方がそう言うなら安心だわ。わたくしの晴れ舞台をしっかりご覧になっていてね」
艶やかかに微笑むアイシスに一礼して、控え室の扉を開ける。
その瞬間、息を呑む音が広間の方より聞こえる、ジェイク自慢のお嬢様の大舞台が今始まった。
アイシスはこの日、まさに一輪の薔薇、まるで薔薇の精だとの参加者の注目を一心に浴びた。
真珠は朝露のように薔薇を輝かせ、真珠の華やかながらも上品な美しさは女性の目も奪った。
アイシスとジェイクの目論見通り、この後真珠は王国で一気に流行となる。
ミッテンハイマー家は真珠とそれに連なる宝飾品を特産とする領地を持った事により、貿易と共に実績を積み上げ徐々に爵位を上げていく。
その基礎を作り上げたアイシスは真珠姫とも真珠の女帝とも後の世に呼ばれる事となる。
アイシスのその後は詳しくは知られていないが、アイシスの後を継いだのはピンクの髪と少し冷たい鮮やかな青い瞳をした青年の絵姿が残されている。
恋愛要素は・・・・・・きっと、ささやかに。
連載の方をずっと煮詰まっていて、悩んでいて色々不整合出てきたので見直して
書き直すのも視野に入れて書いている時の現実逃避ではありません。
ええ、きっと・・・