第6部 君のいない世界で
『光へ お手紙ありがとすごく嬉しかった』
その文字からは何処か儚げな美月の表情が見て取れた。
『私本当は光が東京へ行くのすっごく嫌だったんだ。今まで光と樹と私、3人で一緒に居たから。誰か1人が欠けちゃうのすっごく嫌だった』
綺麗な文字で美月の本当の気持ちが素直に綴られていく。
『でもね、光が東京の話をするの、私はすごく好きだった。だって光、その話をする時いっつも楽しそうなんだもん。それを見ていた私も何でだろ? 楽しくなっちゃってた』
光は読みながら東京へ向かう前の自分を思い出す。東京という街に憧れ、少しでもいいから早くあそこへ行きたい。当時の光は強くそう願っていた。
ーー実際は、全然楽しくなんて無かったのに………。
『光がくれた手紙には、私のいつも笑ってる所が好きって書いてあったよね。私ね、本当はそんな事全然ないんだよ?」
ーーな、何を………? そんな事はない。アイツはいつも笑ってて、楽しそうで。
『本当はすっごく臆病で怖がりで泣き虫なんだよ?』
「そんな事ねぇよ………」
光は手紙を見つめ呟く。そう、本当の雪野美月と言う人間は、光の思っているような人ではない。いつも笑顔な訳でもなければ、太陽の様な子でもない。ただ、光が彼女の事を知らなかっただけなのだ。
『ーーでもね、』
『光と居ると私は強くなれるんだよ』
手紙にはそう書いてあった。
『私は光と居ると笑顔になれる。光と一緒だと辛い事も楽しみに変わる。もし、光が私の事を本当に笑顔が絶えない子だと思ってるんだったらーー』
『それはーー』
『光と一緒に居る私が本当に幸せだったって事だよ』
光の瞳にいつの間にか浮かんでいた雫が手紙に落ちた。風が吹き抜け、光の前髪を揺らす。手紙の奥にボンヤリと映っていた墓場の花が一気に色付けられる。
夏っぽい嫌な暑さを感じ、目の前にある墓石の前で光は膝をつく。
一度流れた涙はもう止まる事はしない。光の頬を何度も何度も繋い地面へと落ちる。
光の今まで感じていた背徳感、その全てがスゥと抜けていく。光の心に強く『恋しい』という感情が刻まれる。
自分の故郷を忘れ、大切な人との約束も忘れ。何もない空っぽの自分に彼女は生きる強い『意味』を与えた。どうしようもないくらいの悲しみに打ちひしがれて。絶望する中、彼女の声だだけは光の耳にハッキリと聞こえた。
光は彼女を求め。そして、また彼女も光の事を求めていた。
『光ーー好きだよ』
手紙の最後の1文。彼女は光に想いを伝えた。
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「もういいのか?」
自分の前にやって来た光を見て、樹が声をかける。
「ああ、もう大丈夫」
強く魂のこもった返事をした光に樹は「そうか」と答えた。
ーーもう大丈夫。
光はやる気に満ちた足取りで一歩を踏み出した。
「なぁ、光ーー」
後ろから樹の声がした。
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次の日の朝。光は駅のホームのベンチに座っていた。
駅のホームに放送がかかり、遠くの方から電車の音が聞こえる。光は実家から持ってきたバッグの中に手を入れると、1通の手紙を取り出す。
やがて電車がホームに止まり、光はそれに乗り込む。窓側の席に座り、走り出す電車に肩を揺らした。
3人でよく来た駄菓子屋、鬼ごっこをして疲れた時に座る木の木陰。何度買っても当たらない自動販売機。通り過ぎて行く景色。その全てが今では思い出となってしまった。
恐らく今日の日の事もいつか思い出となっている事だろう。
『久しぶり、この手紙を読んでるって事は『約束』果たしてくれたんだね。光が今どんな暮らしをしていて、何を思っているのか。残念ながら分かりません』
『でも、光は男だから。女の私よりはきっと頑張ってるよね。今朝ね、久し振りに光の手紙読んでみたの。それを読んでやっぱり君は可笑しな子だな〜って思ったよ』
『こんな私見たいな子を好きになっちゃうんだもん。すっごい可笑しい。でもね、もっと可笑しいのは私の方』
『5年前に読んだ時よりも今の方が嬉しいの。私君がこの町を出て行った5年前よりも、もっと君の事を好きになってる』
この手紙は、昨日樹が光を呼び止めて渡した美月の最後の手紙。死ぬ3日前に書かれたものだと言う。彼女の手紙には最後にこうか書かれていた。
『人生ってたまにどうしようもならない事があるの』
『ーーでもね、』
『ーー結局何とかなるのよ、人生って』
これで完結となります。
読んでくれた方ありがとうございました。
すいません、誤字がありました。
改稿は誤字訂正です。




