表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

第4部 影もない世界で

 

 山を降り川に沿って歩く。やがてたどり着くであろう海に光は飛び込もうとしていた。



 ーーこの町に帰ってくるべきではなかった。



 光は歩きながらそんな事ばかり考えていた。8年前にこの地を離れ、今まで一度も故郷の事を考えていなかった。東京の時の流れに戸惑い、いつからかこのばしょを忘れていたのだ。



 ーーそんな俺が来ちゃダメだよな………。



 この町には光の大切なものがたくさんあった。大切な友人に、大好きな母。何にも無いのに通い続けた学校。初めて友達と一緒に遠出した駅。



 当たり前の様に有るその『存在』が、光の心を傷つけた。



 目を向ければそんな事分かったはず、それをしようとせず光はこの町から目を逸らし続けたのだ。



 ーーその結果………アイツを失った。



 もはや光の瞳には一点のひかりも無かった。魂を抜かれ、抜け殻となった身体だけが動いているゾンビの様だった。



 光自身、自分の身体が自分のもので無い様な感じがしていた。誰かに自分が操られ、魂が上に上がっていく。段々と光の意識は落ちていく。



 体のどこも苦しく無い。しかし、視界がボンヤリとした黒い何かに覆われて行く。



 ーーこれが全て覆われたら………死ぬ。



 光はそう感じた。しかし彼は冷静だった。自分の歩を止める事なく、歩き続けた。今の彼には死なんて何も怖くは無かったのだ。



 やがて光の視界が黒い何かに完全に覆われた。それと同時に光は体が軽くなるのを感じた。光の意識が消えかける。



 ーーっ………。



 ここに来て光は冷静さを失った。感情が暴走し何を思っているのか分からない。何を考えても、何をしようとしても身体が動かない。もう光の魂はこの身体から抜けかけていた。



 ーー死んでもいいと思ってイタノニ、ケッキョク………ナンデイマサラ…………。




「ーー光くん?」



 小さな声だった。その声に光の魂は一気に体に引き戻される。



 何処か温もりを感じる声。昼にかけられた光の母の口調に似ていた。光はゆっくりと声の方へと向いた。



「ーーあなたは………美月の…………」



「覚えててくれたんですね、そうですよ。美月の母です」


 ____________



 六畳の小さな和室に、美月の写真が立てかけられた仏壇がある。



「さぁ、どうぞ入って」



 美月の母に促され光は和室へと入る。仏壇の前に正座し写真の中の美月を見つめる。その写真は美月と光と樹の3人で撮った写真だった。いつもの様に光が真ん中に立ち、その両サイドに2人が肩を並べる様にして立っていた。



 その写真の中の光は笑っていた。この先にある未来の不安なんて、一切感じさせない様な輝きを放って。



 光は目を瞑り彼女の前で両手を合わせる。今の光に出来るのはこれぐらいだった。墓場で彼女の怒りを知り、自分の家にまで上がった俺を恨んでいるだろう。光は目を瞑り心の中で訴え続けた。



 ーーごめんな。




 やがて目を開けた光は家を立ち去ろうとした。早く出て行った方が良い。彼女がそう言った気がしたのだ。



「光くん、ちょっと待って。渡したい物があるから」



 美月の母は光に言うと、バタバタと2階へと上がって行った。少し経つと、美月の母はゆっくりと階段を降りてきた。



 その手にはーー



「これ、あのみずきが亡くなる前に光くんに渡して欲しいって」



 美月の母は光に一通の『手紙』と一本の『万年筆』を差し出した。



 光はそれを受け取ると、その場で崩れ去る。



 ーー違う違う違う違う違う違う違う違うちがうちがうちがうちがうちがう



 ーーあの時、彼女は



 ーー笑ったんだ



 光は美月の家を飛び出した。外は星が輝いていた。光には1つの豆粒にしか見えなかったが、光以外の人が見れば誰もが「満点の星空」と言うだろう。



 光は手紙と万年筆を握りしめ、墓場へと向かった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ