第3部 色もない世界で
多分今日中に完結
学校の裏山に美月の墓は建っていた。その墓を見つめ光は呆然と立ち尽くしていた。
悲しいという感情はあるのに涙が出ない。もう一度だけでいいから会いたい、と強く願うことが出来ない。光は一瞬の気の弾みでここへ来た事を後悔していた。
ーー俺はここへ来るべき人間じゃない。ここに来ていい人間ではない。
光自身それはよく分かっているつもりだった。
「何も分かっちゃいねぇじゃねーか………」
呟いた声は怒りで震えていた。それは美月に向けられたものではなく自分自身へ向けられたもの。
8年前の光が知っている美月はいつも笑っている太陽の様な子だった。
誰かが困っている時は自分そっちのけでその人の為に尽くし、結局一番自分が大変な目にあっている。それが分かっていても彼女は誰かの為に動こうとする人間なのだ。それを近くで見ていた光は彼女の何処かに惹かれていった。
当時の光は彼女の事なら一番よく分かっていると思っていた。
「アイツが死ぬ前にどんな事考えてたのか、知りもしねぇのによぉ………」
光の拳がブルブルと震える。悔しいのに、悲しいのに、泣きたいのに。光の瞳に段々と生気が無くなっていく。
先程まで何処かで鳴いていた蝉の声がしなくなった。
なびいていた髪も今では何も感じない。
ーー俺は何でここに来たんだ………?
先程まで感じていた怒りはもう無い。
それだけでは無いーー
「色が無くなった………?」
この時、再び光の前から色が無くなった。
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「ねぇ、本当に卒業したら東京へ行っちゃうの?」
「え? う、うん。そうだけど?」
「この町には残らないの?」
「う〜ん……そうだなぁ」
「そっかぁ………残念だなぁ。何かあっちでやりたい事でもあるの?」
「いや、無いよ。東京って街で俺も生活してみたいんだ。都会の中の都会、ん〜楽しみ!」
ーーこれは………東京に行く前の俺。
そこには東京という街に期待を募らせる光と、それを心配そうに見守る美月の姿があった。
すると光の視界が歪み、また新たな場面へと移る。
そこには涙でクシャクシャになった美月の姿があった。そしてその前には8年前の自分の姿。曇天の空、家族や友人などが寂しそうに俺を囲んでいた。
ーーこれは俺が東京へ出発した日。
8年前の光は腕を後ろに回し、なだめる様に美月に話しかけていた。
光はその光景を見て自分という人間に失望した。
ーーいつも笑っている美月をこんなに泣かせて、泣かせて………。俺はこの時の事………
「覚えてないのかよ………」
再び光の視界が歪む。
そこは東京で光が住んでいるアパートの部屋の中だった。玄関の扉が開き5年前の光が入ってくる。
ーーこの後の事は覚えてる。こんな事は覚えてて、
「あいつが泣いていた時の事は覚えてないのかよっ‼︎」
光の悲痛の叫びが頭の中で響く。自分が憎いはずなのに、嫌いなはずなのに。その感情はすぐ何処かへ消えていってしまう。
5年前の光が『佐藤様へ』と書かれた手紙を広げる。
「もう………やめてくれ…………」
そう呟くと、いつの間にか光はまた美月の墓の前に戻って来ていた。
ーーきっとこれは美月が俺という人間に呆れ、怒っていると伝えたかったのだろう。
光はフラフラと山を降り始めた。
その目に生気は無かった。
ーー俺は今から自殺する。
しかし、何かを決断した様にも見えた。




