線香花火ラスト1本
ボッと手持ち花火の先端が輝いた次の瞬間、パチパチと静かに火花を散らしはじめた。
琴葉は最後の線香花火にマッチで火をつける。辺りには焼け焦げた臭いが漂っている。
「ねえ加奈。どこの高校を受験するの?」
琴葉は線香花火を手に持ちながら、隣で一緒に花火を眺めている加奈に問いかけた。
「うーん、まだ決めてないんだよなー。琴葉はどうするの?」
「私は…、実は私もまだ決めてないんだ」
「そっかー、将来のことって本当に悩ましいよね。ほら、わたしって色々やりたいことあるからさ」
本当は決めているはずなのに。
隠し事をしてしまっている自分が嫌だ。琴葉はすぐに自己嫌悪に陥った。
加奈が自分に何か特別な感情を抱いている気がしている。最近、特にその思いが強まってきた。
しかし私が自分の進路を明かしたら加奈の気持ちを揺さぶり、最悪の場合彼女の夢を邪魔してしまうのではないか。
琴葉は親しい仲の加奈に自分の思いを伏せ続けている罪悪感と、進路について打ち明けることで彼女を傷つけてしまうのではないかという不安で板挟みになっていた。
視界がぼんやりと歪み意識が薄れる感覚。隣の彼女が酷く遠くにい感じる。
琴葉は夜の闇に一人佇んでいる気分になった。
線香花火の勢いが少し弱まっていた。
「まあ、焦らなくてもいいよねー」
加奈は気軽に言って笑う。意識が急に濃さを増す。
彼女は何を考えているのだろうか。
その笑顔が胸を締め付ける。
「うん、そうだよね…」
琴葉は歯切れの悪い返事しかできない。
「あっ」
「線香花火」
灯火は暗闇に落ちていった。少し焦げ臭さが強まった気がして、急に世界は暗く、夜の存在感は膨張した。
少し涼しい風が吹いた。花火が燃え尽きた後の薫も空気の流れで薄まっていく。
中学最後の夏が退いていく。