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作戦その6 吊り橋効果を狙え!

 アレスの森に到着した第二小隊は魔獣討伐作戦を開始した。探すのが手間だ、とフェンネルは魔法で大きな雷を落として魔獣をおびき寄せた。


 現れたのはイノシシに似た魔獣だ。森の出口からそう離れてないところで現れたので、放っておいたら森を出て人の行動するエリアに出てくるところだった。国民をこういう危険から事前に守るのが対魔獣騎士団の仕事だ。


 魔獣は大きく鋭い角と氷の魔法で攻撃を仕掛けてきた。攻撃力が高い反面動きは遅いので、隊員たちは魔法で上手く攻撃をかわしながら剣でとどめを刺していく。


 5人1組になった隊員たちが苦戦しながら魔獣を1体倒す間に、フェンネルとティーナは2人だけで5体の魔獣を華麗に倒していた。ティーナの防御魔法はこのレベルの攻撃なら完璧に防ぐことができる。フェンネルは魔獣の攻撃を避けることなく倒すことができるのだ。


 持ち分を倒しきった2人は隊員たちのフォローに入り、見事に怪我人なく魔獣を討伐してみせた。


 合計10体を倒したのでそれだけでも十分な成果だが、第二小隊はまだ森の奥へと進んでいく。時間的余裕のある今の時期になるべく多くの魔獣を倒しておきたいのだ。なので、危険は承知で魔獣の住む区域である森の奥へと進む。


「フェンネル隊長……」


 行軍の最中、先程まで生き生きと魔獣と戦っていたティーナが情けない声でフェンネルのことを呼んだ。


「本当にこのまま進むんですか?」

「当たり前だ」


 隊員たちは頼りない様子のティーナなど見慣れていないので目を丸くした。フェンネルは「えぇー」と、文句を言うティーナを鼻で笑う。


「わかってるぞ、ティーナ。お前、この先の吊橋が怖いんだろう?」

「うっ……」


 図星だったらしい。ティーナはバツが悪そうに目線を逸らす。


 まだ魔獣が住み着く前のアレスの森には人がまばらに住んでいた。なので、人工的に作られた吊橋がかかっている。


 ここの吊橋は崖と崖を繋いでおり、なかなかの高さがある。それに、人の手で作られたものなので板と板の間に隙間はあるし、そこから下の景色を眺めることもできる。高所恐怖症にはなかなかに辛い橋だ。


「ティーナは本当に高いところがダメだよなぁ」


 フェンネルはいたずらっ子の表情でそう言う。ティーナをからかう時のフェンネルは魔獣との戦い並に生き生きしている。


「魔獣は怖くなくて高いところは怖いって、変わったやつだよ」

「だって、魔獣の攻撃は防げますけど、高いところから落ちたら死んじゃいますよ」


 ティーナは情けない顔で必死に訴えた。


「ね、フェンネル隊長。ルート変えませんか?」

「ダメだ。そこしか奥へ行く道はないだろう」

「えー」


 迂回する道もないわけではないが、かなりの遠回りになってしまう。任務のことを考えれば吊橋を渡るしかない。


 フェンネルたちの会話を聞いて隊員は吊り橋効果という言葉を思い出す。恐怖のドキドキを恋愛のドキドキと勘違いするのだとか。既にフェンネルに恋をしているティーナだが、思い切った行動を取らないとも限らない。そこまで考えた隊員は二人にこう提案する。


「それじゃあティーナ副隊長はフェンネル隊長の腕に掴まって渡ったらどうですか?」

「え、ええ!?」


 隊員の提案にティーナは動揺したリアクションを取る。わかりやすくドギマギしているのだが、相変わらずフェンネルがその様子に気がつく素振りはない。それどころか、


「おう、俺はいいぞ」


 と、楽しげに乗ってきた。


「え、えええ!?」


 ティーナの耳がとうとう赤くなっている。こういうところが女性らしく可愛く見えるのに、フェンネルはニヤニヤと笑うだけだ。おもちゃを見つけた子供のような表情は、どうやら何か企んでいるらしい。


「その方が早く進むかもしれないからな。ほら、着いたぞ」


 目の前に吊橋が現れた。人の手で作ってある割にしっかりとした吊橋で落ちる心配はなさそうだが、隊員たちが見てもなかなかの高さにある吊橋だ。


「ひ、ひえぇ……」


 先程まで赤かったはずのティーナの顔はもはや蒼白。へたり込みそうな勢いだ。


「ほら、さっさと渡るぞ」

「ひ、ひゃー!!! ちょっと待ってくださいフェンネル隊長!」


 ティーナは眼下を見て足を震わせ、なかなか吊橋に足を踏み出そうとしない。その様子を見てフェンネルは爆笑している。控えめに言って鬼だ。


「ほらほら」


 フェンネルの腕を取ることも忘れて立ち尽くすティーナ。そのティーナの腕を逆にフェンネルが引いて吊橋へと誘おうとする。


「や、やめてください! 刺しますよ!」


 ティーナはそんな物騒なことを言って腰につけた剣に触れた。冗談なのか本気なのかわからないので隊員たちはハラハラしてしまう。


「おい、やめろティーナ。暴れたら途中で吊橋が落ちるかもしれねえぞ?」

「ひっ……!」


 フェンネルは楽しげにティーナをからかい続けている。フェンネルがあまりにも楽しそうなので、隊員たちはティーナのことが不憫に思えてきた。


 隊員たちが流石にフェンネルを止めようとしたその時だった。


「しょうがねえな。俺が連れて行ってやるよ」


 そう言ったフェンネルはティーナをひょいっと抱えたのだ。しかも、これは所謂お姫様抱っこというやつだ!


「ちょ、ちょっと!!!」


 せっかくのフェンネルとのふれあいなのに、ティーナはそれどころではないらしい。フェンネルの腕の中でバタバタと暴れ始める。


「おい、暴れたら落ちるぞ」


 フェンネルは暴れるティーナを抑えて吊橋を渡り始めた。


「ぎょえー!!!」


 ティーナは女性らしくない悲鳴を上げて暴れるのをやめたようだ。


「ほら、大丈夫だろ?」

「は、早く! 早く渡ってください!!!」

「はいはい。じゃあ走ろうか?」


 フェンネルがわざと身体を揺らすと吊橋もそれに合わせて揺れる。


「いやー!!!!」


 けたたましい悲鳴を上げたティーナは思いっきりフェンネルにしがみついた。


「やめてください!」

「ははははは!」


 フェンネルは爆笑し、わざとゆっくりと吊橋を渡っていく。そんなフェンネルにティーナはしっかりと抱きついていて──


「俺たちは何を見せつけられてるんだ」

「あの無自覚バカップルめ……」

「頼むから早く付き合ってくれ」


 フェンネルの笑い声とティーナの悲鳴を聞きながら、隊員たちは二人で吊橋を渡らせたことを深く後悔したのだった。



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