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作戦その4 一緒に料理をしてみよう!2

「それじゃあ調理を始めるぞ」


 結局食材はほとんどフェンネルが集め、いざ調理へ。ティーナはいたって真面目な表情で頷いた。


「まずは肉を捌く」

「はい」


 ティーナが狩った動物を食べられるように捌く。説明しながら手際よく捌いていくフェンネルはチラチラとティーナの様子を伺っている。


「? どうかしましたか?」


 フェンネルの様子に気がついたティーナが尋ねる。


「いや、ティーナも一応女だし、動物を捌くのを見るのは気分のいいものじゃないだろうと思っただけだ」


 そう気遣うフェンネルの手には動物の内臓が握られている。それは、男であっても人によっては嫌がるような、なかなかにグロい図である。


「いえ、私は特に問題ありません。お気遣いありがとうございます」


 ティーナは平然とそう答える。


「まぁ……そうだよな。こいつを仕留めたのもティーナだもんな」


 フェンネルはやれやれと表情を和らげて作業を再開する。


「いつの間にこんな女に育ったのかねぇ」

「フェンネル隊長の厳しいご指導のおかげじゃないですか?」


 ティーナはクスリと笑う。


「私だって始めは魔獣を殺すことにも躊躇いがありましたよ?」

「そうは見えなかったがな」

「ふふふ、そうでしょうか」


 二人は楽しそうに笑い合う。その様子を通りがかりに見た隊員は「作戦成功だ!」と、思うより先に、血まみれの手で生肉を前に微笑み合う様が不気味に映り、逃げるように立ち去ってしまった。


「自分の居場所を作るのに必死だったので、そんなところまで頭が回ってなかったのかもしれませんね。そうしているうちに慣れてしまいましたよ」

「いいんだか、悪いんだか」

「いいんですよ」


 苦い顔をするフェンネルに向けてティーナは、


「いいんです」


 と、もう一度囁くように言った。




「さて、これで肉は捌き終わった」

「あとはキノコと一緒に入れて煮込むだけですか!?」

「まぁ待て」


 フェンネルは小鍋に肉とハーブ、水を入れる。


「臭みを抜くことも大事な料理の要素なんだ」

「臭み、ですか」


 ティーナは不思議そうに首を傾げる。普段料理をしないティーナにはピンとこない単語だ。


「この肉は臭みが強いからな。まずは一度別の鍋で煮込んで臭みを取る」


 フェンネルは小鍋を火にかける。


「その間に野菜の下ごしらえだ」


 大柄な体躯からは考えつかないような繊細な手つきで野菜を細かく切っていく。


「こいつは好き嫌い別れる野菜だからな、なるべく細かく刻む。ほら、ティーナも手伝え」

「はい」


 ティーナもフェンネルと並んで包丁を握る。


「フェンネル隊長は戦闘も強いのに料理も上手いなんて、なんだか不公平です」

「料理なんて誰だってできるだろ。慣れだ、慣れ」


 フェンネルはリズミカルに包丁を動かしている。


「騎士団を引退したら、料理屋さんを始めたらいかがです? お店の名前は『フェンネルの野営飯』!」

「そんなもん人が来るかよ」


 そうツッコミながらもフェンネルはまんざらでもない表情をしている。


「私は毎日通いますよ!」

「ティーナが来れば街の女も来るから、いい客引きになるかもな」

「隊員だってみんな来ますよ。寮のご飯よりフェンネル隊長のご飯のほうが美味しいですもん」

「……今日の鍋はティーナの分を大盛りにしてやろう」

「やったー!」


 ティーナは男顔負けの大食いなので飛び上がって喜んだ。たくさん食べるにも関わらず痩せているので、食事シーンを見られたら女性からは羨望の眼差しで見られるだろう。


「もし店を出すなら野営じゃ作れないような普通の飯も作りたいな」

「フェンネル隊長の普通のご飯、食べてみたいです……」

「おい、よだれ垂らすなよ」


 フェンネルはだらしなく開いたティーナの口を手を伸ばして閉めてやる。


「普段も作ってくださいよ」

「どこにそんな暇があるってんだ? 隊長会議を免除してくれるなら作ってやってもいいが」

「……無理ですね」

「だろ」


 ティーナは肩を落とす。隊長の仕事はかなりハードなので、料理を作っていたら休む暇がなくなってしまう。


「それにしても、騎士団を引退したら、か」


 フェンネルは目を細めた。


「どうなるか自分でも想像つかないな。戦いと無縁な人生なんて、考えられねえ」

「私も戦わないフェンネル隊長なんて想像つきません」

「だよなぁ」


 野菜を刻み終えたフェンネルは包丁を置いて困ったように笑う。


「騎士団はフェンネル隊長のことを手放したりしませんよ。例え隊長ご自身がそれを望まれても」

「それもそうだな」


 フェンネルは騎士団にとって大切な戦力だ。自分でもそれは十分に理解しているので、素直に頷いたフェンネルは目線をティーナへと向ける。


「俺は野菜を刻み終わったが、ティーナは……うお!?」


 穏やかな表情をしていたフェンネルはティーナの手元を見て一気に顔色を変えた。


「お前、それはなんだ!? 細かく刻めっつったのに、それじゃ乱切りじゃねえか!」

「え? 細かくしましたよ?」


 まったく悪気のないティーナを見てフェンネルは深い溜め息をついた。




 その後、ティーナはフェンネルが丁寧に指導したにも関わらず火加減を誤って鍋を吹きこぼそうとしたり、調味料をありえないくらいの量を入れようとしたりと散々だったので、結局追い出されてしまい、フェンネル一人で調理を済ませたのだった。普段料理をするよりも疲れた様子のフェンネルは、もう二度とティーナに料理はさせないと、高らかに宣言した。


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