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ペドロMARKⅡ   作者: ふじわらしのぶ 2017年度版
4/6

偽りのエリュシオン

 あれからどれほどの時間が経過したのか。

 ペドロ(わたし)は未だに鎖に繋がれたままである。

 ペドロの為に死んだ親友 ゲイリーのこともロクに思い出せないまま、ペドロは個室の窓から外の景色を見る。

 青空。森。山。たとえ何らかの手段を使って救援を呼ぶことが出来たとしても、ここにたどり着くことは容易ではないだろう。

 ペドロも傭兵という仕事関係で人命救助や捜索などの経験はある。

 誰かが自分の存在に気がついてここまで助けに来てくれる、というような楽観的な希望をもつのは得策ではない。

 この場合は、自分で食料と脱出ルートを確保する方がよほどマシな選択だったのだ。


 そして、普段は滅多に開かない扉が開いた。

 施錠はしていないが扉が重すぎて、ペドロにはどうすることも出来なった代物だ。

 それをいとも容易く引いてしまうのだからゴメスの連れている巨漢はかなりの力持ちということなのだろう。

 意識をしっかりと保っていなければならない時だというのに頭の芯がグラついている。

 空白と混濁がペドロの意識は普段の状態には戻っていない。

 ゴメスの打った紫色の液体のせいだろう。

 ペドロはゲイリーを殺した憎きゴメスを睨みつけた。ゴメスはペドロの憎しみを満足そうに笑う。


 「新しい身体の調子はどうかね、ペドロ君。今回は改良に改良を重ねた結果、奥歯を噛み締めると口の中がワサビでいっぱいになるギミックを追加してみたのだが」


 ペドロはゴメスの言葉を聞いてショックのあまり何も考えられなくなってしまった。

 たしかに奥歯を噛む度に口内がワサビで満たされる。

 それはペドロにとって死刑宣告を受けたのも同然の出来事だったのだ。


 「俺が回転寿司でいつも注文する時に「ワサビ抜いてください」と頼んでいるのを知っているのか?」


 とりあえずペドロは奥歯のワサビスイッチをONにしてみた。

 ペドロの上あごからワサビ成分が含まれたワサビクリームが口内に向かって大量に放出される。

 そして、未曾有のワサビチックな辛さがペドロの脳天を打ち砕いた。

 ペドロはあまりの辛さに頭を抱えて悶絶する。

 だが、その行為はペドロが再び奥歯を結果となりペドロの口の中はワサビとワサビの辛さで満たされているのだ。

 ペドロは口から薄緑色の液体を吐き出した。

 ペドロはもう悲鳴をあげることさえできない。

 そんなペドロの醜態を見ながらゴメスは悪魔的な嘲笑を浮かべている。

 ゴメスは超小型万能胃カメラで毎日毎時ペドロを監視していたので、ペドロの弱点を熟知していた。

 実はペドロが回転寿司屋でケーキやラーメンを注文している時に密かにその現場をデジカメで撮影し、一部始終を記録した画像を自宅のパソコンで保管していたのである。

 果たしてここまでやる必要があるのか。


 否。相手は人類最強の兵士と名高いペドロである。

 雌雄を決する為の準備とあらばどれほど慎重になっても足りないくらいだ。

 ゴメスはポケット中に隠してあるワサビの分量を調節するコントローラーのダイアルをマキシマムにまで上げておいた。

 ペドロはその後、気絶するまでワサビの辛さに苦しんでいた。


 「嫌あああーッ!ワサビ、もう嫌あああッ!」


 絶叫。そして、覚醒。どちらが先にペドロの身の上に起こった事なのかはペドロにはわからなかった。

 しかし、ゴメスならば知っているかもしれない。

 ゴメスは相も変わらずガラス越しにペドロを見つめている。

 ペドロはどうなったかといえば胴と首、両腕を開いた状態で拘束されていた。

 その姿は人類の罪科の全てを引き受けて死んだ古の預言者のそれを思わせる。

 これもゴメスの望みというやつか。

 ペドロはゴメスの悪趣味に心底、吐き気を催した。

 おそらく自分が改造した殺人サイボーグを人類の守護神として祀り上げるつもりなのだろう、あの狂気の科学者は。


 ペドロはゴメスを睨んだ。

 今やゴメスは親友 ゲイリーを殺し、ペドロの肉体を破壊兵器に改造した男だ。

 ペドロは鎖を千切ってすぐにでもゴメスを殴り殺すつもりだった。

 それだけではこの怒りは到底収まらない。

 ゴメスの四肢を引き裂き、臓物を取り出して地面にぶち撒けてもペドロの怒りは収まらないだろう。

 ペドロはゴメスに目がけて唾をべっと吐き出した。

 ペドロの放った唾は両者を隔絶する特殊ガラスに当たり、ゴメスにかかることはなかった。

 それでもペドロはゴメスを睨むのを止めなかった。

 もしも他者を憎むだけで殺すことが可能ならば、ペドロはそうしていただろう。


 「ペドロ君。反逆心が旺盛なのは素晴らしいことだが、君は自分の記憶が正当なものであることを確認できるのかね?」


 今度はゴメスがペドロを睨んだ。

 ペドロが決して考えまいとしていた禁忌の思想とも言うべきものを、ゴメスは見抜いていたのだ。

 もっとも最初から真実を知るゴメスがこんな他愛無い駆け引きをしたのは酔狂以外の何物でもないのだろうが、この時のペドロにとっては有効な精神的ゆさぶりでもあったのだ。

 案外カレーを食している時に黄土色の水彩絵の具の話をされるとこういった気分になるのかもしれない。 これはカレーのルーじゃなくて絵の具?みたいな感じだ。

 ペドロは全身からどっと汗を噴出した。

 彼の内心は今自分の口の中に運ばれているものがカレー以外の何かである可能性を完全否定できないカレー大好き星人のような心境だったに違いあるまい。

 ちなみに水彩絵の具を食べると確実に体に悪影響を及ぼすのでみんなも注意しよう!

 ペドロはゴメスの視線に恐怖を感じている。

 ゴメスはペドロの想定内の反応に満足し、再度ワサビスイッチを指で押した。

 今度はペドロの下あごがガクガクと揺れ動き、奥歯からワサビが流れ込んでくる。

 ペドロはまたも意識を失うまで体内にワサビを投与され、そのまま倒れてしまった。

 作中で使用されるワサビは宇宙空間を漂うダークマターから作られた非現実ワサビなので、ペドロを十分に苦しめた後は元のダークマターに還元して再び宇宙空間にリサイクルしているのでご安心ください。


 「ドクター。あのペドロという男は何者なのですか。ただの囚人には見えないのですが」


 ゴメスの部下たちは屈強な男たちばかりだったが中でも群を抜いてのパワフルなボディの持ち主がこの男だった。

 彼の名前は新条エマニュエル、ゴメスのボディガードである。


 「言葉に気をつけたまえ、エマニュエル君。ここは思想犯罪者の為に作られた政府公認の医療施設だよ。彼が囚人とは実に聞こえが悪いではないか」


 ドクターゴメスはこの状況を皮肉った愉悦から口の端をわずかに歪める。

 実際、ゴメスはエマニュエルを信用していない。

 エマニュエルのこれまでの功績や経歴は信頼に値するが、彼は政府によってゴメスの領地に送り込まれたスパイのような存在なのだ。

 うかつに心を許そうものならゴメスは明日にでも亡き者にされてしまうだろう。

 ゴメスはペドロの情報が書き込まれたCDをエマニュエルに手渡した。

 エマニュエルはそれを恭しく手に取る。

 結果がどうであれ今のところゴメスはエマニュエルの上司である。

 この気狂いの科学者に従ったふりをするのもエマニュエルの仕事だ。


 「今回もご苦労様です。我が国の偉大なる功労者、ドクターゴメス」


 どの口がほざくか。ゴメスはエマニュエルの慇懃な態度に憎しみを覚える。

 結局、ゴメスのスポンサーである政府が欲しているのはゴメスの技術であり、ゴメス個人ではない。

 ゴメスは不機嫌な態度を隠そうともせずに嫌味な質問をしてやることにした。

 慇懃無礼を絵に描いたようなエマニュエルのような若造にはこれくらいの意地悪が丁度いいのだ。


 「エマニュエル君。外の世界の話なんだが、例の生物兵器の話はどうなったのかね。たしか名前はギリシア神話から取ってヒドラだったか」


 生物兵器 ヒドラ。

 南極で発見された超古代の生物の細胞片を培養、後に改良に改良を重ねて作られた不死身の戦闘生物。

 核兵器を使用しても完全に消去することが難しいと言われた厄介者の極みのような存在である。

 ゴメスはヒドラの話を最初に聞いた時にひどく出来の悪いジョークだ、と笑った。

 自分たちで制御することが出来ない怪物など、兵器とは呼べない。

 そんな与太話を聞かされた為にゴメス博士はペドロという最高の素材を使って、究極の戦闘兵器を作ることを思いついたのである。

 ゴメスはまず政府の信用を勝ち得る為に以前から研究していた「水につけておくだけでグングン伸びる強力エリンギ人間」を無償で提供したのだった。

 結果、敵国に送り込まれたエリンギ人間は凄まじい速度で増殖し、一か月後には敵国の国民はエリンギ人間を食べすぎてスーパーでエリンギを見ただけで吐き気を催すようになってしまったという。

 ゴメス博士はこの功績を高く評価され、世界の多くの国々から注目を浴びることになった。

 ゴメス博士は政府から贈られた感謝状と賞金 お米券一万円分を使って無人島を購入した。

 研究所は島を買った時に貯まっていたポイントで作ったことは最早言うまでもないことだろう。


 ゴメスは科学者であると同時に世界的に有名な経済学者でもある。

 この程度のエコノミクスは造作もない行為だったに違いあるまい。

 しかし、この天才的な閃きが周囲の反感を買い、やがてはゴメスがこの島に閉じ込められる結果となる。


 悲しきかな。

 天才の独創的な或いは革命的な発想は、彼らを日頃から憎悪する凡愚たちにとっては新たに綴られる屈辱の歴史に刻まれる出来事の一つでしかないのだ。


 ゴメスの「溜まったポイントで研究所を建てちゃった」事件は世界経済に様々な波紋を呼んだ。

 世界各国の要人たちはゴメスを称賛し、またその陰で彼は学者の皮を被ったペテン師だと愚弄した。

 しかし、ゴメスの目的は世界各地の紛争を終結させることを目的とした兵器開発である。

 無人島も、研究所もゴメスにとっては目的を達成するための道具でしかなかったのだ。

 こうしてゴメスはやっかみ、嫉妬といった周囲の雑音を避けるために無人島に引きこもる羽目になってしまったのである。

 彼個人の心境を代弁するならば不幸という他はないだろう。

 こういった事情ゆえに既に世間とは縁を切ったはずのゴメスだったが、ヒドラのことだけは忘れられないでいたのだ。

 対してエマニュエルはゴメスの視線を避けた。

 エマニュエルの表情には聞かれたくないことを聞かれてしまった、そんな悲痛な様子さえ見られた。

 ゴメスはエマニュエルの姿から、その後のヒドラの開発がどのような事態を引き起こしたかを推察した。


 「ヒドラが思いの他、数が増えすぎたので海に捨てたのかい?」


 いくらなんでもそんなことはないだろう。

 思ったままを安易に口外して、ゴメスは苦笑する。


 エマニュエルはゴメスの質問を聞いた直後に顔面蒼白となった。

 この男は経済や科学の分野で才能を発揮するだけでは飽き足らず、預言めいた推理もやってのけるのか。 エマニュエルの頭の中での打算の図式が一転する。


 この場において告白しよう。


 エマニュエルは政府がゴメスを監視する為に送り込んだスパイだ。

 彼は一介の科学者でしかないゴメスを政府の最高権力者から直に命令を受ける立場である自分と比較して軽蔑していた。

 しかし、蓋を開けてみればどうだろうか。

 過去どころか未来さえも見据えたゴメスの堂々とした態度と彼を権力闘争の道具としてしか見なしていない政府の最高権力者とその取り巻き立ちの愚かな振る舞いは比べるまでもなくエマニュエルの心はゴメスの方へと傾きつつあった。


 現在、政府の失策によって危険地帯に放置されたヒドラの研究所付近では無尽蔵にヒドラが増殖していた。

 飢えたヒドラたちが危険地帯のバリケードを越えて、国内本土に上陸する日もそう遠くはないだろう。

 これらの事情を鑑みたエマニュエルの決断は早かった。

 なんと驚くなかれ国家に忠実だったはずの走狗の正体は、権力者にすり寄る下種のような狼だったのだ。


 「その様子から察するにご存知でしたか。流石はゴメス博士。貴方は我が国の危険地帯と呼ばれる場所をご存知ですか?政府は制御不能に陥った生物兵器を危険地帯に解き放ったのです」


 ゴメスの悪い予感は的中した。

 ゴメスの故郷の汚点の一つ、危険地帯。そこはとある新型爆弾の実験である。

 爆弾を使った数度の爆発試験の結果、そこら一帯が半永久的に人が住むことが出来ない場所になってしまったのだ。

 その新型爆弾は世界各地で活躍し、案の定禁止兵器に認定されてしまったのである。

 政府はその事実から目を逸らす為に例の新型爆弾の開発に携わった人間を一か所に集めて幽閉し、実験場を危険地帯として一切の立ち入りを禁止する。


 臭いものには蓋を、人類社会の負の習俗であった。


 ゴメスは厳しい表情で現実を鵜呑みにする。無能な政府はよりによって爆弾によって汚染された廃棄物が残留する場所にヒドラを解き放ったのだ。

 生物にとっては毒にしかならない汚染物質もヒドラならばうってつけの食料になる可能性は十分に考えられる。ゴメスは苦笑した。


 「まるでギリシャ神話に登場する本物のヒドラだな。毒ガスでも吐くんじゃないか?」


 ゴメスの言葉を聞いて、またもやエマニュエルの脳天に稲妻が落ちる。

 落雷のショックでエマニュエルは「あばばばばっ!」と意味不明な悲鳴を上げてしまうのであった。

 ゴメスは白衣のポケットに忍ばせていた電気ウナギにエマニュエルの体内に蓄積された電気を食べさせた。

 エマニュエルとしては電気ウナギっぽい何かは絶対に電機以外のものも自分の体から吸い取っているように感じてた。

 だが、あえて反論するような真似はしない。

 ここでゴメスの機嫌を損ねて、彼に取り入ることに失敗すれば元も子もないのだから。


 「その通りです。ドクターゴメス。ヒドラは「サンタさんなんていねえよ。お前の父ちゃんがサンタさんなんだよ」と毒を吐き、さらに口から何でも溶かしてしまう紫色のガスっぽいものを吐いているのです。それだけではありません。ヒドラの通った後には毒おしっこや毒ウンコなどが放置され、飼い主は水の入ったペットボトルやウンコを回収するビニール袋を持参してヒドラの散歩をしろ。放し飼いなどもっての他だ。といった具合に世界中から苦情が寄せられているのです」


 相互監視社会などと言われているが相変わらず責任の在り処は曖昧なままだな。

 ゴメスは個人の責任を請け負う能力を失った現代社会の不甲斐無さにため息をつく。

 前時代的な考え方かもしれないが、社会の公的な役割とは責任を背負うことに不慣れな成りたての大人を教導しなければならないのだ。

 何でも責任を個人に擦り付けるようではテリトリーを拡大するために増え続けるだけの単細胞生物と変わらないではないか。


 ゴメスは白衣のポケットから常備してある犬のお散歩の時に用意するウンコ袋と水の入ったペットボトルを、エマニュエルに手渡した。


 「ヒドラが散歩してる時にウンコしたら手早くこの袋に入れて。外からウンコ見えないように工夫してあるから。おしっこしたらペットボトルの蓋を開けて水を出してジャーってね。他人が見ていなくてもこれやっとくとヒドラ飼ってることに変な負い目を感じることもないから」


 律儀にもエマニュエルはゴメスから袋とペットボトルを受け取る。

 果たしてこの最大積載量5リットルの袋に全長三キロくらいあるヒドラのウンコが入るのか。

 そして、ヒドラの何でも溶かすだけではなくて有毒物質を発生させるおしっこに対してペットボトルに入っている水道水がどこまで有効なのか。


 科学者ではないエマニュエルにはわからなかった。


 「ありがとうございます。ドクターゴメス。これで我が国を悩ませる問題は全て解決されたも同然でしょう。ところで、あなたが出してくれたこの電気ウナギは私の血を吸っていますよね。さっきから頭がクラクラしているのですが」


 ゴメスの用意した電気ウナギは最初のサイズよりも十倍くらい大きくなっていた。

 ウナギの目には知性の片鱗を感じさせる何かがあった。

 この電気ウナギ(仮)、エマニュエルの血を吸うことにより知性に目覚めているのかもしれない。

 貧血のために意識を失いかけているエマニュエルはガンベルトに収められていたスモークレバーを食べる。

 これでエマニュエルの失われた血液は全て補充されるだろう。

 エマニュエルは戦うことしか能がないありきたりの戦士ではない。

 知性と理性を備えたスーパーソルジャーなのだ。


 エマニュエルは口内がレバー臭くなりゴメスの印象が悪くなることを危惧して、口の中にミ○ティアを放り込む。

 エマニュエルは人類の可能性を超越したスーパーソルジャーに止まらず、エチケットを弁えたジェントルマンでもあるのだ。

 しかし、実際はエマニュエルの口の中はミントの清潔感あふれる香りとレバーの独特の風味でゲロを吐く一歩手前のような状態となっていた。


 「エマニュエル君。手の平に「人」という漢字を書いて飲み込むのだ。これは医学的にも既に証明されているが、体にいいそうだぞ。なんとこれを定期的に続けると体内で自然発生したヘドロ由来のコラーゲン成分がドコサヘキサエン酸を化学反応して若返り効果が暴発した結果全身ムチムチの便秘体質になるらしい」


 人生とは何があるかわからない。


 エマニュエルは吸血行為続行中のウナギを体から引きはがし(なんと驚くなかれ。この時、電気ウナギはエマニュエル氏よりも大きな体に成長していたのだ)、電気ウナギをムシャムシャと食べた。

 すっかりエマニュエルに体を食べつくされて頭としっぽだけになってしまった電気ウナギは、自分の体を食べたエマニュエルに問いかける。


 「エマニュエル君。どうよ。あたい、おいしかった?」


 エマニュエルは無言でかぶりをふる。


 答えるまでもない。


 口の中に入れても舌がピリピリしただけだった。


 電気ウナギはおいしくなかった(ヤツメウナギ系は基本的においしくない)。


 だが、ここで迂闊にも「不味い」と答えたばかりに電気ウナギの最終スキル「あの世に道連れ100万ボルト」を食らうわけにはいかなかったので明確な回答を避けたのだ。

 さらにエマニュエルの属性は「水」であり、電気ウナギの属性「電気」に対しては圧倒的に不利である。


 卓越した身体能力と感情を排し如何なる状況にも対応し得る氷の頭脳を持つ男、それがエマニュエルだった。


 「よかった。じゃあ、あたいと一緒に行ってくれるよね。天国ヘヴン」

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