2話 衝撃の告白
ミーン、ミンミンミンミー…
7月に入り、少しずつ蝉の合唱が聴こえ始めたころ。
いつもどおり瑞菜と陸人といちごは部の活動として、依頼者が来るのを待っていた。
「相変わらず、依頼はこねーな。」
陸人が頬杖をつきながらだるそうに言った。
と、その瞬間、ドアが勢いよくガラガラっと開いた。
「ねえねえねえ!君たち奉仕部だよね!ちょっと頼みがあるの!」
ぜぇぜぇと息を切らし現れたのは、髪の毛を横で1つに結び、赤いメガネをかけた女子生徒。
「あんた、もしかして生徒会の?」
どこかで見たことある顔だと思った瑞菜は、女子生徒に尋ねる。
「そう!私は生徒会役員の2年5組、朝倉芽衣っていうの。」
そしてふらふらと3人に近づき、バンっと机をたたいた。
「再来週にある生徒会の研修会に一緒に来てほしい!」
この美凪高校では、夏に他校の生徒会と集まって1泊2日の研修会を行っている。
意見交換をしたり、みんなで自然を体験したりする、交流会のようなものだ。
「研修会って生徒会が行くんだよね?なんで私たちに?」
いちごが首をかしげる。
「いやあ、実は今回の研修会さ、生徒会の人以外も参加可能なんだよねー。」
「で、私たちが行って何すんの?」
瑞菜が聞く。すると、芽衣は言いづらそうな顔をした。
「えっと…実は、参加する他の高校には奉仕活動部っていうのが無くってさ、みんな興味持ってんのよ。ほら、奉仕部って人のために活動してるじゃない?だから、意見が聞きたいってことで……おねがい!!」
「へぇ~…ってことは、私たちって結構認められてるってことだよね!!行こうよ~!」
いちごが嬉しそうに言う。
「まあ、再来週にはもう夏休みだし、3人の予定が合うなら私は参加してもいいけど。」
「俺も特に予定はないしな。」
瑞菜と陸人が賛同し、3人の意見が一致したところで、芽衣が詳細を話し始める。
「本当にありがとう!!研修会は1泊2日だよ。他の高校との合同合宿で、今年は山の方に行きます!そこでそば打ち体験もするよ。」
芽衣は、持ってきていた研修の紙を3人に渡していく。
「楽しそうだね。でも私たち生徒会じゃないから、そんなたいそうな事言えないよ?」
いちごが紙を見ながら心配そうに言う。
「大丈夫。奉仕活動部ってだけで良い印象しかないから。普段してる活動とか、学校生活でもっとこうしたらいいっていう意見を出してくれれば十分だよ。」
「普段の活動ねぇ…依頼内容がまともなのないから何とも言えないんだけど。とりあえず、何かしら話す内容は考えとくよ。」
瑞菜の言葉に安心したのか、芽衣はよろしくと言って部室を出て行った。
「生徒会の人だらけの中に行くのか。俺たち絶対浮くよな。これだし…。」
陸人が自分の髪の毛を指差す。その色は少し赤茶色だった。
いちごも自分の髪を触り、生まれつき茶色い髪の毛を見つめる。
瑞菜も一時期金髪だったため、色が抜けて黄土色っぽくなっている。
「傍から見たら、奉仕活動してる人には見えないよな。」
瑞菜が指摘する。
それを聞いて、いちごは慌てて大丈夫だよと言った。
とにもかくにも、奉仕活動部(通称:奉仕部)は、生徒会の研修会に参加することとなった。
下校時刻になり、3人は帰る支度をして昇降口へと向かう。
しかし、忘れ物に気づいた瑞菜は、陸人といちごに先行っててもらい、教室の方へ向かった。
教室に近づいていくと、まだ残っている女子たちの声が廊下に響いてきた。
「潤くんって華奈のこと好きなんだって。最悪!」
「華奈って森田華奈?」
「そう。ちょっと顔が良くてお金持ちだからってちやほやされてさ。」
「華奈って彼氏10人いるって噂だよ。」
「えっ!それマジ!?最低!」
入りづらいと思いつつ、瑞菜はガラッとドアを開けた。
一瞬シン…と静まり返ったが、入ってきたのが瑞菜だとわかると女子たちはあろうことか、今話していた内容を振ってきた。
「ねえ瑞菜、華奈って彼氏10人いるらしいよ。最低じゃない?」
「へえ。あんまり喋ったことないからよく知らないけど。」
瑞菜は机から明日提出の書類を取り出しながら、適当に答えた。
その後の会話も適当に相づちを打ち、教室を出た。
「(正直、ああやって同意を求められるのが好きじゃないんだよね)」
などと思いつつ、昇降口に向かう。
森田華奈。家が金持ちで、容姿端麗、才色兼備。いわゆるパーフェクトな人間。
そのために妬まれることもしばしばある。
「(華奈か。今頃どっかで告白でもされてんだろうな。)」
翌日。
いつも通り眠い授業を終え、放課後になり3人は部室に入った。
そこで、瑞菜はいちごと陸人に華奈の彼氏10人疑惑を話した。
「えー!そうなの!?確かに華奈ちゃんはモテるけど、10股もする子には見えないけどなあ~。」
「そんな喋ったことないからわかんねぇけど、俺も森田がそんなやつには見えねえな。男としては、高嶺の花だし。」
いちごと陸人は、華奈が悪い子には見えないと言った。
「私も、清楚なお嬢様って感じがする。」
そう話していると、部室のドアがガラッと開いた。
「こんにちは。」
入ってきたのは噂をすれば、森田華奈だった。
ゆるくウェーブのかかった長い黒髪をふわっと揺らし、微笑みながら3人に近づいてくる。
「なにかしてほしいことがあるの?」
いちごがやんわりと言う。
すると、華奈はカバンの中から紙袋を取りだした。
「実は、私が作ったお菓子の味見してほしいの。」
恥ずかしそうに笑いながら、3人に紙袋を差し出す。
「え!お菓子!?食べたい食べたい!」
いちごは目を輝かせて、紙袋に手を突っ込んだ。
瑞菜と陸人ももらい、3人で試食する。
「これ、マフィン?すごい美味しいんだけど。こんな完璧なのなんで私たちに味見なんかさせたの?」
瑞菜は、味も見た目も完璧なマフィンをたいらげ、華奈に尋ねる。
すると華奈は言いづらそうな顔をした。
「今週親戚が家に来ることになってるの。そこで私の作ったものが食べたいっていう方がいるらしくて…結構味にうるさい人だし、親戚同士の仲を悪くはしたくないから。」
「へえ~でもこれすごい美味しいから平気だと思うけど。」
瑞菜が言うと一瞬嬉しそうな顔をしたが、すぐにうつむいてしまった。
「その人、気に入らない料理人をすぐクビにするし、自分の子供が作ったものでさえもケチつけるのよ?私なんかが作ったものじゃなんて言われるか…。」
「料理人て…さすが金持ちだな。てかその親戚の人はさ、はなからケチつけるつもりで言ったんじゃねえの?」
陸人が言うと華奈は苦笑いをし、そうだと思うと答えた。
「でも一応、ってことだよね。うん!大丈夫だよ!これなら私何個でも食べれるもん!」
いちごは華奈に笑顔を向け励ました。
すると、嬉しそうにありがとうと答えた。
ここで瑞菜はある事を思い出し、華奈にあの質問をしてみる。
「あのさ…答えづらいかもしれないけど、10股してるって噂本当?」
その瞬間、華奈は目を見開き驚いた様子を見せた。
そしてクスクスと笑い始めた。
「どこからそんな情報出たのよ…ふふっしてないわ。第一、私は男性と一度もお付き合いしたことないのだけれど。」
「「「……ええ!?」」」
3秒の沈黙後、3人は叫んだ。
華奈は笑いながら、本当よと言った。
衝撃の告白に開いた口が塞がらない。
「そうだったのか…じゃああの噂はデタラメってことね。」
瑞菜は衝撃の告白に驚きつつも、急に親近感が湧いてきた。
金持ちのお嬢様だから、経験も豊富だと思っていたのだ。
「でも、告白はしょっちゅうされるんじゃないの?まさか、全部断ってるとか?」
いちごの問いに、またもや笑い出す。
「一度もないの。告白とか付き合うとか。」
「「「ええ!?」」」
3人は再び叫んだ。