第3話 ファーストコンタクト
「ぐわぁぁぁあ⁉︎助けてー‼︎」
…やれやれ。今日は兎に角トラブル続きだ。起き抜けに、ゴブリンやらオークやら想像上の存在がやたら近くにいると思ったら、それは高校の連れで、しかも最低な事に俺自身もモンスターにされていた。
起きた時、既に俺の身体はコボルトになっていた。
コボルトなんてゲームでは、初っ端に出てくるだけで何の印象も思い入れも無い。
ただ2本足で歩く狼ぐらいの認識だ。
助かったのは、身体の構造が人間と同じで、言葉を発することができることだった。
これがもしも、スライムだのデカイ虫だのにされていたと思うと寒気さえ感じる。
他の2人も似たような物ので、とりあえず人型であったことだけは、感謝をするべきだろう。
「どうする?」
モンスターの癖にやたらと人懐こい雰囲気を醸し出しているオークが黄色の瞳をこちらに向ける。
「どうするって、助けてなんて言ってるみたいだし…。」
と赤目のゴブリンが心配そうな声を出す。
「悲鳴の感じからして、何者かに襲われている様な感じだが、下手に手を出せば、こっちが危ないんじゃないか?」
もし熊などの野生動物が人を襲っているとしたら、残念ながら俺達にできることは、無いだろう。
第一に武器が今手元に無い。仮に猟銃を持っていたとしても普通の高校生が満足に扱えるとは考えられない。今襲われている人間と一緒に餌になるのが関の山といったところだろう。
「遠くから様子を窺って、安全が確認できたら寄ってみるっていうのは、どうだろう?」
アルファルドが少し考えてから提案した。
「このまま見捨てたら気不味いもんなぁ。」
イグニが仕方ないといった感じで賛成した。
「わかった。その段取りで行こう。但し、少しでも危険を感じたらすぐに引き返すぞ。」
アルファルドもイグニもこんな状況だというのに人が良い。ここで3人で話をしても埒が明かないので丁度良かった。
そうと決めたら後は、進むのみだ。自分達が寝ていた場所には、特にこれといった荷物も無く、文字通り体一つでここに来た様な状態だった。
3人で、おっかなびっくり声の聞こえた方向に進んでいくと、獣道の幅を広くした様な道にでた。当然、舗装などはされておらず、ただ単に木がたまたま生えなかった場所を通路としていた様な道であった。
「この辺りだと思うけど。」
「通路に轍がある。こっちの方から変な匂いがする。」
と通路の先を指差した。
「流石、嗅覚も犬並みだね〜。」
とイグニが茶化して言った。
「無駄口を叩いて無いでさっさと進むぞ。」
この匂い、何処かで嗅いだことがある。
鉄臭いというか、錆臭いというか。あまり良い匂いでは無いな。
道に沿ってしばらく進むと道の真ん中に何かの残骸が放置されていた。匂いの元もその残骸だった。
「たぶん声は、あそこからじゃないかな?」
アルファルドが予想する。
「匂いの元も、あそこからだ。」
と2人にも知らせておく。
「よしっ、じゃあ行って見よう。」
とイグニが我先にと駆け出しそうになった所で襟首を掴んで引き止める。
「うっぷ!何すんだよ、アーサー!」
イグニが突然の理不尽に抗議する。
「最初の話を聞いてたのか?近づくのは安全が確認できてからだ。とりあえずアレを中心に周りを一周するぞ。」
と周囲に危険が無いか確認する。
見える範囲では問題なさそうだ。近くまで寄っても平気だろう。
残骸に近づくとそれは元々、馬車の形をしていたのだと推測できるが、今や車輪が壊れ、横倒しになり、馬車としての機能は最早期待できそうになかった。
馬車の大きさは乗用自動車程度で、木造あり、横面と横面と天井には、幌が張られているものだった。恐らく人では無く、物を運ぶ為の物だろう。
匂いの発生源も特定できた。馬車の御者席の部分に夥しい量の真っ赤な液体がベッタリと付いていた。恐らく血液と見て間違い無い。凝固せずに未だに、地面にポツポツと血液が滴り落ちている様子から、この馬車が何かに襲われてからまだそんなに時間は経っていない筈だ。
「ウェ…。」
とショッキングな現場を見たためか、アルファルドが目を背ける。
「大丈夫か?」
一応声を掛けた。
「アーサーはあんまり堪えて無いね?」
「俺は、ホラーゲーとかFPSで多少のグロ耐性はあるつもりだからな。…匂いは流石にキツイけどな。」