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第2話 ここはドコ?わたしはダレ?

「う…ん…。」

ああ…朝か。学校の準備をしなければ。

目蓋の裏から光が感じ取れる。

それと何だか肌寒い。布団の重みを感じ無いところから考えるとどうやら布団を蹴り飛ばしてしまったらしい。寝相は良い方だと思っていたが自惚れだった様だ。それにしても身体の真下が冷たくて硬い。植物の青臭い香りが真近に感じられるし、さっきからサワサワとまるで木々の葉が風に揺られる音が聴こえる。自分の部屋で寝た訳じゃなかったかのかなどと取り留めのないことを考えながら目を開いた時、


ペキッ


と小枝が折れる乾いた音が少し離れた場所から聞こえ、寝惚けながらも反射的にそちらに目を向けると信じ難いものがそこにいた。


一言で言うなら、ゴブリンだった。

よくファンタジー物のゲームや漫画などに、最序盤の雑魚として出現するモンスター。

背丈はおよそ小学校高学年の子供程度で、耳は大きく尖っている。

肌は薄緑色で瞳は赤色、鼻は鷲鼻、口には小さな牙が並んでいる。


そんな御伽話から抜け出して来た様な姿そっくりのゴブリンがこちらに背を向け、なぜか額から冷や汗を一筋垂らした顔だけ振り返っている状態で立っていた。


寝起きにそんな物が目の前に存在していたので必然的に驚きの声を挙げる。


「「うわっ」」


…?アレッ?


自分の真横からも全く同じ反応を示す声が聞こえたので首をそちらに向ける。


……


そこにはうつ伏せの姿勢から腕を支えにして顔を挙げる犬がこちらを見ており、自然と見つめ合う状態になる。

その犬は黒い毛並みで青くて細い目が特徴的な犬だった。


但し、自分が知っている犬は、罷り間違っても うわっ などという人語を発することは無い。


⁉︎


それに気が付いた瞬間、ゴブリンのことなど頭から消し飛ばし、身体の筋肉を総動員して跳ねる様に立ち上がり、その勢いのままに隣に寝ていた犬?から距離を取る。


「な、な、何なんだよこれはぁぁぁ!」


今度こそ掛け値無しの絶叫を挙げた。


意味分かんない。全く理解できない。何で?どうして?どうしてこうなった?ここはドコ?自分は今日、自室で寝ていたのでは無かったのか。それが何故、こんな意味不明なことになってんのか。誰でも良いから答えてくれ。


完全に混乱していた。感情の制御が効かないまま、暫し思考停止状態に陥っていると今度はこちらを見たまま固まっていた犬?が信じ難いことに立ち上がったのだ。しかも2本足で。犬などの四足動物が2本足で直立すると骨格の問題からどうしても不安定ひなりがちだがこの黒い犬?は、そんな常識を意にも介さずドッシリと立っていた。しかも立ち上がると成人男性程の身長があり、余計に度肝を抜かれることになった。


「な、何だお前は⁉︎」


咄嗟に口を突いて出た言葉がそんな台詞だった。


もう少しだけ落ち着いた心境であれば動物に返事を求める失態を演じることは無かったがこの時ばかりは、自分をコントロールすることができなかった。もうこの際、この状況を理解できるなら、何でも良かったし、誰でも良かった。


「…人に名前を尋ねる時は、まず自分が名乗るべきだろう。」


犬が喋った。再びパニックを起こし掛けたが今度は、冷静に頭を回す。


人間、自分の許容量を超える事態に直面すると一周して冷静になれるものである。


落ち着きを取り戻したところで、返事をするべく声を出す。


「俺の名前は、…。あれっ?俺の名前なんだっけ?」


サッパリ分からない。ど忘れしてしてしまったのだろうか?それにしても自分の名字すら思い出せないのは妙だ。まるで記憶にロックが掛かった様だった。アルツハイマーにでも掛かってしまったのだろうか?


再び思考の海に埋没しかけ、今自分が会話の途中であったことを思い出し、相手に目をむける。


その犬?は何とも芸達者なことに、こっちを警戒するような眼差しのまま、いぶかしむ表情を浮かべていた。


「ゴメン。パニックで名前忘れた。先にあなたの事を教えて貰える?」

と犬?に水を向けると相手は、一層眼差しを強めた。

相手の姿を今一度冷静に観察してみると黒くて、人間大の、二足歩行をする、犬というか狼だった。その狼は、青くて細い目をしていて頭頂部の毛並みが天を突く程に逆立っていた。二足歩行の狼といえば最初に連想されるのは狼男だろうか。しかし今は昼であり、満月を見て変身する狼男には、そぐわない。とすると狼の獣人で次に有名なものといえば、コボルトである。こちらもゴブリンと並び立つ程にゲームの雑魚モンスターとしては有名である。ゲーム等で有名なコボルトは、ズボンのみを身に付けている姿が思い浮かぶが今目の前にいるコボルトは、身に覚えのあり過ぎる服を着ていた。

すぐに何の服か理解できた。自分も今現在身に纏っている服である。


それは、学生服。砕いて言えば学ランであった。


より注意深く観察する。


あのツンツンの毛と細い目、それと着ている学ラン…。いや、いくらなんでもそれは無いでしょう。どうやって人がコボルトになるんだよ。でも、見れば見る程よく似てるなぁ。


コボルトがおもむろに口を開いた。


「…○○高校。」


「っ‼︎やぱっり!」

自分達の通う高校の名前だった。これでこのコボルトの正体は、判明したも同然だ。


そして、自分の親友の名を呼ぼうとしてハタと気づく。


アレ?こいつの名前なんだっけ?


「俺の名前も思い出せないか…。」

とコボルトが諦めた様に言う。


「ちょっと待って!すぐに思い出すから!」

「いや、良いんだ。俺もさっきから自分の名前もお前の名前もアイツの名前も思い出せないんだ。ついでに言うと家族の名前もな。」

「どうこと?」

「分からん。だがこれからどうしたものか。」

「とりあえずアイツ探そうよ。たぶん近くにいんじゃない?」

「まぁ、そうだな…。」


とその時、今の今まで存在感を消し、木の後ろに身を隠してこちらを窺っていたゴブリンが飛び出してきた。


「オレだよ!オレオレ!それオレの事だよ!」

と必死な様子でこちらに話掛けてくる。

こちらも学生服を着ていたことと顔の雰囲気や喋り方で友人の一人に間違えない。


「エッ?ちょっと待って?何でみんなそんな感じにイメチェンしてんの?前衛的過ぎるだろ!特殊メイクかなんか?」


「はあ〜。まるで自分だけは無事だとでも言いたげだな。」

「気付いて無いの?」

コボルトとゴブリンが呆れた声で言ってきた。


は?2人共何を言っているのか。自分はこの通り、不自然に背丈がかわったり、急に毛深くなったりなんてしていない。全くこんな時にそんな冗談なんて。不謹慎だな、全く。

と自分の姿を確認するとまず、自分の両手が視界に入る。


…青い。真っ青という訳では無いが人間の肌にしては青過ぎる。血行が悪いんだ。こんな状況に急に放り込まれたんだ。無理もないさ。


次に爪が分厚く鋭い形になっているのに気が付いた。ハッキリ言って人間離れしていた。今日の昼は、確か海苔弁を食べたのできっとその副作用だ。海苔は髪の毛にも良いと聞くし、きっとその副作用だ。


「現実逃避するなよ。お前、顔が豚っぽくなってるんだぞ。」

「うん、まんまオークみたい。」


オークもRPGのモンスターとしては最も有名な物の一つだろう。豚の様にめくれた鼻に大柄な体格、長くて太い腕が特徴でこれもまた物語の序盤の敵役で有名である。


…そんな…馬鹿な。よりにもよってオークか。不細工の代名詞ではないか。いくらなんでも酷過ぎだろ。


「いやー!嫌だー!」


「俺だってこんなの嫌だ。でも今は受け入れるしかないだろ?」


「そうだ!俺なんてただでさえ身長低いのに更に縮んだんだぞ。」


…ショックだ。元々美形では無いがかといって不細工にする必要なんて無いじゃないか。


「とりあえず3人揃ったんだ。これからの方針を決めよう。」


「その前に名前を決めない?このままじゃ不便だよ。」


確かにもっともな話である。


「それじゃ、アレで良くない?オンラインゲームする時のハンドルネーム。」


「そうだなぁ。とすると俺は、アーサーか。」とコボルト。


「オレは、イグニだな。」

とゴブリン。


「アルファルド…。」

と未だ立ち直れないオーク。


「そろそろ元気出せよ。きっとすぐ元通りだって。」

イグニが根拠も無く能天気に、落ち込んでいる友人を励ます。


ちょうどその時だった。

「ぐわぁぁぁあ⁉︎助けてー‼︎」

と絶叫が自分達がいる森へ木霊した。





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