ボニーに首ったけらしいよ
ボクは、兵士の声に気づいていないかように、ゴブリンの肩を叩き、右の方向を指差した。ゴブリンもそれに従い、動き始める。
「お、おい!聞こえないのか!止まれと言ってるんだ!」
近づいてきた兵士が剣を抜いて走りだした為、慌ててもう1人の兵士も、ボクたちの方へ走りだした。
「動くな!聞こえなかったのか?止まれと言ってるだろうが!」
ゴブリンに追い付き、後ろから剣を首筋に当てようとしたが、右肩の上から出ているボクの目と合うと、慌てて剣を納めた。そして、ゴブリンの肩を掴んで留まらせる。
「お、おい!お前!何を担いで……こ、子ども!?」
「どうしたモリス?いきなり剣を抜いたから焦ったぞ」
「フェル……いや、何か担いでるように見えたから気になってな……ん」
兵士があごでボクの方を指し、後から来た兵士に見るよう促す。促された兵士は、「はあ?」と言いながら恐る恐るボクを覗き込むと、
「あぁ~♪」
と、笑顔に変わった。
た、助かった~
かなり緊張していたので、強く握りしめていたゴブリンの服がしわくちゃになっていた。
◆◇
「この子知ってるのか?」
「ああ♪よく見かけるぜ。散歩でもしてんだろ」
「なら、このゴブリンは子守りか?ったく!普通させるか?魔物に子守りなんて……親の顔が見てみたいぜ」
「ん?見たことあるだろ」
「はあ?どこのお偉いさんだよ?」
「ボニー」
母の名前です
ボニーと言う言葉に聞き覚えがないのか、「ん?ボニ~……」と、腕をくみ、しかめっ面をしたまま考え始める。
「ボニー・グリード」
「おお!あの、魅惑の未亡魔人か!って!この子魔族かよ!?」
「ああ」
「魔族でも魔人となると分かんねーもんだな?人種と全く変わりないじゃないか」
「俺も最初は分からなかったな……おい!そこのゴブリン!なに人の子をさらってんだ!ってね」
「ふ~ん。どうやって見抜いたんだ?」
「これ」
ボクの身に付けているボロボロの布の服を指差す。
「あ……この子はこの年で奴隷なんだな……こんなに可愛いのに」
哀れに思ったのか、ボクの頭を優しく撫でる。
「ちなみに性別はどっちだ?」
「たしか男の子だろ」
「そっか……跡取りか……」
優しく撫でていた手が、ポンポンと軽く叩く。
「俺がこんなこと言うのはおかしいが……大きくなったら、目立つことは絶対するんじゃないぞ?賢く生きろ!いいな?……まだ小さいから俺が言ってることなんか全然分かんないだろうな」
兵士がボクに苦笑いする。
ううん、ちゃんと伝わっているよ。ありがとうモリスさん。ボクね既に言語を理解してるし、本当はペラペラに喋れるんだ。だけど、モリスさんが言った通り、ボクの立場はかなり危ないからね。だかり、ダメな子を演じなければならないよね。今も、この先もずっと……人種って本当に優しいんだな……
「とりあえず今は、ベイリー王が全奴隷の主人になっているからな……王家の血筋だろ?簡単には手放さないだろうな」
「多分な。下手に家臣や貴族に与えて、王家転覆なんてシャレにならないだろ」
「お、おい!フェル!」
「わ、悪ぃ」
「滅多なことを言うな!一族ともども消されるぞ!」
「悪かったって……」
「しかし、いつから奴隷商が国にはいってくるんだ?」
「とりあえず今は、荒野の開拓だろ?その次は港町って話だ。多分、それが終わってからだろな」
「4年か5年後か……それまで生きられれば、何とかなるかもしれないな」
……5才か6才か……見えなくなっているんだろうな……
急に寂しさを覚え、上を見上げる。そこにあるのは、本来なら見ることが出来ない、懐かしき巨大な雲と建物だった。
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