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人生を決める滑り台   作者: お父さんはエセ作家
1章~生後~
8/12

サンビタリア 花言葉は『いつも愉快』です

2014/6/13 記号を変更しました。

 ボクの父である魔王【カイル・グリード】は、勇者【ベイリー・ディライト】によって倒された。これは、ボクが母胎内での約10ヶ月と、生後1年半を合わせた、約2年4ヶ月前の出来事である。


 魔族種であり【グリード家】としての、300年という長いガイア統治時代に幕が引かれる。良くも悪くも、この事件はガイア全土に強い衝撃を与えた。王の死は即ち、新しい戦争の始まりを意味する。


 人種はもちろんのこと、ガイアの主権を取り返す好機であり、また、他の魔族種にとっても王座の足掛かりとなったに違いはない。苦境に立たされているのは、【グリード家】とその親族ぐらいだろう。王という後ろ楯を無くなった今、頼れるのは、自分の領土と領民だけになる。喰うか喰われるかの世界。



 そしてボクは今、喰われる側にいる。






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 ガイアの中心にある大陸【ダイナスト】。今日も、いつもと変わらない1日が始まる。いや、実際は父【カイル・グリード】が、勇者【ベイリー・ディライト】に倒された時から、全てが変わり始めていた。【ダイナスト】における支配者が、【グリード家】から【ディライト家】へと、とって替わった時からだ。


 戦勝国が敗戦国にすることは、まず王の殺害から始まり、親族・指導者層の殺害。資源・産業設備を回収し、そして、敗戦国民を奴隷とする。これらは、敗戦国を弱体化し、戦勝国民が入植する為の当然の行為である。


 【グリード国】でも同じことが行われた。指導者層の斬首、金目のモノの回収、国民の奴隷化。しかし、【ベイリー・ディライト】は【グリード家】の生き残りである母を殺さず、当初は捕虜として扱っていたのだが、価値の薄さに気づき奴隷とした。


 奴隷には首輪がつけられる。主人である人種に逆らったり、無理に外したり、魔力の流れを感じると、致死量の電魔法が発動する奴隷用アクセサリーである。これにより、奴隷は戦争の傷跡の修復を強制されていた。



 【ディライト国】が誕生してから、約2年と4ヶ月。国は日々、発展を遂げているが、奴隷にはいつもと変わらない日常が始まろうとしていた。



◆◇



 奴隷地区の中心に、堂々と立てられたサンビタリアが描かれた旗が、風で気持ち良さそうに揺れている。この黄色い花は【ディライト家】のシンボルである。



「ガル?ウィスの面倒を頼みます」


 ボクを抱き抱えたゴブリンがギャウと答え、母に向かって頭を下げる。同じ奴隷という立場であるのに頭を下げるのは、腐っても相手が元王族だからなのだろう。


「ウィス?大人しくしているのですよ?」


 そう言って、母はボクの頭を優しくなでた。


「…………」


「もう話し出していい頃なのに……この子は他の子に比べ、成長が遅いのが少し心配です……」


「お妃様、まだ1才半です。2才に成られる頃には、お話することも叶いましょう」


「ミル、名前で呼びなさい。もう、王妃ではないのです。兵士にでも聞かれたら、あなたも大変な目に合います」


「も、申し訳御座いません……」


 母は、気をつけなさいと優しく諭すと、名残惜しそうにボクの頭からゆっくりと手を離した。


「では、行きましょうか」


「ギャウ」


 労役へと向かう母たちに、ゴブリンがもう一度頭を下げて送り出す。ボクは、次第に小さくなっていく母の後ろ姿を、複雑な思いで見つめていた。


 ゴメンね母さん……


 完全に姿が見えなくなったところで、ゴブリンの肩をポンポンと叩き、


「あ~あ~」


 と、指差す方向に移動するよう要求する。すると、ゴブリンは城下町に向かってヨタヨタと歩きだした。



◆◇



 奴隷である以上、教育を受けることも、書物を読むことも叶わない。更に、母が魔力を押さえられている為、魔法は全く学べる訳がない。無いことづくしだが、【見る】【聞く】ことは、1才半の奴隷でも可能だ。これだけしか、今のボクに出来ることはない。


 奴隷地区と区切るため、町は外壁で囲まれ、左右と正面の3ヶ所に入り口がある。それぞれの入り口には関所が設けられ、数人の兵士が見張り、無断での魔族種の奴隷の出入りに目を光らせていた。


 ボクは、正面の関所付近でゴブリンに止まってもらい、町の様子を眺める。正面から見た景色は、白い石畳の大通が城まで長く続いていて、商店が建ち並び活気が溢れている。家も白い壁と赤い屋根で統一しており、品の良さを感じさせる。地面に丸太を打ち込み、雨風を防ぐ為に、ボロい布を被せただけの奴隷住居とでは雲泥の差がある。


 それだけ【グリード国】に財宝があったってことか……もうここはいいや、次、行こっと


「おい、貴様!ここでなにやってる!?」



 長く留まっているボクたちに、兵士たちは不安を抱いたのだろう。近づいてくる足音に、ボクの心臓の鼓動が強く激しさを増した。




読んで頂き、有難う御座います。

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