ボクの兄はゴブリンですけど何か?
「止まれ!」
目の前の衛兵2人が、それぞれ所持している槍を突きだし、交差させて行く手を阻む。
「身分証を確認する!手を上げて、大人しくしていろ!」
兵士の言葉通り忠実に待っていると、別の兵士が近づき、首から下げている身分証を確認し始めた。
「どこの者だ?名前は?」
「アドミニ商会の者で、ウィスダム・グリードと申します」
「ア、アドミニ商会の方とは露知らず、大変失礼致しました……どうぞお通り下さい」
アドミニ商会と聞いて、慌てて身分証を手から離すと、急ぎ横へと移動する。それにならい、道を阻んでいた兵士たちも、交差させていた槍を縦に持ち変え、左右へと別れ移動した。
道も開けたので、前へ進もうとしたのだが、
「ん?グリード?先ほどグリードと仰いませんでしたか?」
と、話し掛けてきたので、
「はい。ウィスダム・グリードと申しました」
と、素直に答えた。
「少々、お待ちを……」
不思議に思ったのか、兵士が再び前に立ち塞がると、首もとを確認し、身分証を凝視し出す。
「ん~、確かにアドミニ商会の身分証ですね……名前はウィスダム・グリード……奴隷……奴隷って書かれていますが首輪はありませんね……」
「どうかなさいましたか?」
「い、いえ!どうやら身分証が間違っているみたいで……」
「間違っていませんよ?」
「え?でも、身分証には奴隷と……」
「はい。ボクはアドミニ商会所有の奴隷です」
「し、しかし、あなた様は首輪をなされてませんが……」
「ご主人様が仰るには、まだ着けなくて良いと」
「…………はい?」
目の前の兵士は、身分証に表記してある内容と、それ相応の姿をしていないボクに、何が何だか全く分からなくなってしまっている様子だ。
「ボクはカイル・グリードの息子です」
「なっ!?」
「「!?」」
目の前の兵士が驚愕した顔を見せるや否や、素早く剣を抜くとボクの首筋に当てる。また、その兵士の動きに合わせ後ろの兵たちも槍を構え、いつでも攻撃出来る態勢に入った。
「貴様、奴隷かっ!クソっ!奴隷に敬語とは……騙しやがったな!!」
「え~?騙してませんよ~先ほどから申してるはずです。【アドミニ商会】の奴隷だと。身分証もそう表記されていると思いますが……【アドミニ商会】の……」
「も、もういい!分かった!」
「では、通っても宜しいでしょうか?」
「ま、待て!後ろにいるゴブリンは何だ!?連れか!?」
「はい。彼も【アドミニ商会】の奴隷でして……あの~そろそろ……」
「ぐっ!ど、どうぞ!!」
奴隷に「どうぞ!」はないでしょ。「どうぞ!」って…… ぷっ!ヤバい、吹き出しちゃう
これ以上、刺激しない様にと必死に笑いを堪え、ガルと共に丁重に頭を下げ関所を通過した。
◆◇
「あはははは!!!ガル兄、さっきの兵士たち面白かったね♪【どうぞ!】だってさ!ボクたち奴隷なのにね♪」
後ろを歩いていたガルは、同意を求めているボクを呆れた顔で見つめていた。そして、「フン」っと鼻でため息をつくと、呆れたまま視線を遠くへ逸らす。
「な、なんだよ」
『ギャウギャウ』
「え?何?」
『ギャキャギャギャウ!』
「分かんないって!人語で喋ってよ」
『チッ!』
ガルは、不機嫌そうに舌打ちすると、早足でボクまで歩み寄り、拳を握り締めたかと思うと、それをボクの頭へと落としてきた。
「何するのさ~」
6才のボクと、成年に達しているゴブリンのガルの身長はそう変わらない。ゴブリンは魔族の中で最も弱い亜人であり、大人になっても身体能力は人種の子ども並か、それ以下だと言われている。なのでゴブリンのパンチなんて、痛くともなんともないんだが……
あり得る?子どもとは言え、 ゴブリンに叩かれる魔族の元王子様の姿なんて……想像できないよね?
物心ついた頃から、何故かボクはガルを兄貴と呼んでいた。ボクが赤ん坊の頃から身の回りの世話をしてくれていたことで、尊敬の意を込めてそう呼んでいるだと思っていたのだが、どうも違うらしい。どうやら、ガルに弱みを握られているみたいだ。
何度か問い詰めてみたことがあるのだが、教えないの一点張りで、すでに諦めてはいるのだが……やはり、気になってしょうがない。
ボクがモヤモヤしているというのに、ガルは人指しを立てて、自分の耳の2度軽く小突き合図する。
「はいはい、分かりましたよ」
ボクはふて腐れながらも、周りに誰も居ないこと確認すると、自分の耳たぶを触り魔力を流す。
【翻訳】
この魔法は読んで字の通り、理解できない言語を翻訳する魔法だ。この魔法を知ることが出来たのは、ボクの主人が家畜の馬に魔法を掛けているのを、偶然見かけたからだ。それ以来、ガルと話したいが為に、こっそり練習して身につけた魔法の1つである。
魔力の流れというのは、普通には見えないらしい。だが、能力の長けた者なら、感知する所か流れさえも読めると言う。ちなみに、ボクとガルは首輪をしていない。なので、今のボクは魔法を使うことが出来るのだが、魔力の流れを感知されない為には、使用時には常に注意を払わなければならない。戦闘系の魔法じゃないとはいえ、魔法を使う奴隷をこのまま野放しに飼うはずが無い。
魔法を練習し、覚え、使うまでが、今のボクにとって一番の楽しみだ。この楽しみを奪われたくはない。だから、首輪なんてまっぴら御免だ。
◆◇
「はいはい、何?」
『やり過ぎだ』
よし!魔法は順調!問題有りません!
「え?」
『さっきの兵士の件だ!どう見てもやり過ぎだろ!』
「あ~♪あれね♪可笑しかったね♪」
『…………』
コイツは駄目だとばかりに、目を閉じ顔を左右に降る。
『お前死にたいのか?あれは【アドミニ商会】の名のおかげで命拾いしただけだ!』
「そ、そんなこと分かってるよ!死にたいわけないじゃん!」
『なら、もっと自重しろ!!』
「うっ……そんなに怒らなくてもいいのに」
『お前のことはボニー様から頼まれているからな』
「なるほど、母さんね……」
はっきり言って、ボクは母のことが嫌いだ。口を開けば、 「あなたは偉大なる王の息子です」だの、「力をつけて、ベイリーを倒し、ダイナストを取り戻しなさい」など、現実を見ていない。いったい奴隷のボクに何が出来ると言うのか。父が亡くなり国も消え、正気を保つのは辛いとは思うが……正直、頭がおかしくなったとしか考えられない。息子に死ねと言っている様なものだ。
『それに……』
「え?」
『お前からも頼まれてる』
「はい?頼んだ覚えないよ?それはいつさ?」
ガルが黙る。
「もしかして秘密?」
『いや……4年前だ』
「…………あり得るわけないじゃん!4年前ってボク2才だよ?ボク自身、2才の記憶すらないのに……嘘つき!ボクは信じないね!」
『……本当に忘れてしまったんだな』
「はぁ、もういいよ……ガル兄はいつも秘密ばっかり」
『…………』
「話変わるけど、ガル兄ってゴブリンなのに知力高いよね?人語を話せないのは分かるけど、何で理解は出来るの?」
『それはお前が……』
「ボクが……?」
『秘密だ』
「……やっぱりね」
『いつか必ず話してやる。ほら、行くぞ!主人が待っているはずだ』
ガルが走りだす。ガルは必ずと言ったが、それは一体いつになることやら。
なら、待つとしますか……
そして、ボクもガルを追うように走りだした。そして、直ぐに追い越す……
「ガル兄!足、遅!!」
ついに、6才になっちゃいましたね♪魔法も出てきました♪まあ、生活魔法みたいなものですが……
ゆっくりですが、これからも続きます♪
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