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第十二話 <グリーンダイダロス>

毎度のことですが、多少桃色成分が多いです。

パッカッパッカッパッカッ


馬車がのんびりと田舎道を走っていく。

公王家の紋章を隠しているお忍び用の比較的質素な茶色の馬車、見る物が見れば金がかかっているというタイプ。


そろそろ老年に差し掛かった御者は、一時間おきに休まねば耐えられないはずなのに、まだ余裕で走っている。道が良くなったものだと、感心していた。


だが、車内でもその話題が出ていた。


「この馬車、恐ろしく静かですね、さすが王家の馬車だわ。」

「いいえ、私も体が弱かったので、1時間続けては乗っていられなかったのですが、体が元気になったせいかと?。」

「いやー、これは恐ろしく静かや。どうなってるん?。」


最初は緊張気味だった3人も、慣れてきたのか周りに関心が出てきたようだ。

そういえばキアナ、慣れてきたら急に言葉遣いがおかしくないか?。


「ああ、車軸と車体の間に強化バネをいくつか入れた。」


セイジは、先日初めて馬車に乗ったが、あまりの振動に『これなら馬の方がましじゃないか?』とすら思ったぐらいだった。

油を差した鉄の輪に車軸を通しただけの乗り物は、地面の凸凹が直接響く。

柔らかいソファを置いていても、揺れは気持ちが悪いぐらい出る。


左手ヴェルムンガルドに金属精製と加工ができるか聞いたら、問題なくできたので、ベアリングを入れたさびにくいステンレス合金製の筒に車軸を通し、無酸素鉄の強化スプリングと車体の支持棒をつけて、車体を接合したのである。

21世紀の日本の自動車エンジンのスプリングでも、一分間数千回の伸縮に10年以上余裕で耐えられるのだから、左手ヴェルムンガルドの作ったそれはそれ以上に持つだろう。



「な、なにそれ??」


キアナが説明に仰天して食いつき、


「と、と、止めて止めて、見せてえええっ!」


即座に飛び降りて見ようとしたので、慌てて全員が止めるはめになった。

とにかく小休止を取り、存分に見せてやることにした。


「はああ、すごいわ~、こんな技術があるなんて・・・。」


根掘り葉掘り聞くので、仕方なく高熱で焼き入れをした極めて純度が高く酸素の無い鉄と、その原理を説明する。

もちろん、簡単にできるものではないが、彼女にとってはそれがあることが重要なのだ。


しかも、重機械ゴーレムは丸い球状の手にもかかわらず、左手ヴェルムンガルドの指令を受けて、その通りに馬車を加工してしまったので、セイジは何もしないで済んでしまった。

ついでに、ほかの馬車も皆同じように加工しておいたので、乗り心地はどれも最高になっている。


もちろん公王は喜んだが、後日同乗した王族や大貴族達は全員これを欲しがり、ディリエルを通じて頼まれて作ってやったら、山ほど贈り物やら礼金やらが届いて驚いた。日頃のお礼のつもりで、値段など言わなかったのだが、ディリエルに言わせると、貴族にとってタダほど怖いものは無いのだそうだ。


下の者の働きには、相応の代償を払い、器量を見せねばならない。これは多すぎてはいけない。少なくても長く雇ってやるなら問題は無いのである。そして同等以上の相手が報酬を求めずしてくれた事に対しては、相応以上の誠意を見せなかったら、評判と人気が落ちる。これが婚姻や仕事、取引や人脈に大きな傷が出来るので、うっかりケチると後々取り返しがつかなくなる。しかも、借りができるので、後からどんな無理難題を吹っ掛けられても文句は言えないのだそうだ。ましてや、公王の愛娘ディリエルが間に立っているので、評判を落としたら致命傷と恐れているらしい。


ふと気になって、キアナの妙な言葉遣いの事を聞いたら、カンサイとかいう系統の地方人が実の父親(戦争で夫婦共に没)で、その地の言葉がキアナには染みついてるんだそうだ。

と言っても、普段は通じないのでこちらの言葉なのだが、俺に通じることが分かって地が出ているんだとか。キアナに言わせると、『セイジは他人に思えへん!』のだそーだ。あっさり馴染んだのは、こういう所も一因らしい。


「セイジ、あんたって、思ってたよりずーっとずーっとすごいんやねえ。」


馬車が動き出すと、目を潤ませ頬を染め、甘い息がかかるほどに密着し、抱き付いてきて、体中を擦り付けてきた。


「な、なに、どうしたの。」

「あかーん、もう体が熱くて、セイジ鎮めて・・・」


キアナは技術オタクなだけではなく、高度の技術を見聞きすると興奮してしまう技術フェチであったらしい。


「あーもうずるいっ、私もお願いします。」

「どうせ暇なんだし、お情けをお願いしますね。」


馬車の中は小麦色に桃色に真っ白の肌が乱舞して、花畑となる。

馬車が少し軋みをまし、のんびりと走っていく。

初老の御者は、少しだけ道が荒れてますねと、何も気づかないふりをして、のんびり馬車を走らせている。




「はあ・・・堕落しちゃいそうね。」

「毎日こんなでええのかなあ。」

「貴族は本当に堕落したらダメなんです。」


ディリエルがセイジの膝に乗っかり、右手にイーラが左手にキアナが裸で寄りかかっている。

もちろん、位置は時々で変わるが、これ以上増えたらどうしようかというのが3人の密かな悩みだったりする。


3人に甘いキスを繰り返しながら、桃色の軽い体を楽しみ、白い鮮やかな尻を撫で、小麦色のボリュームのある胸を愛撫して、自分が一番堕落しそうだとちらっと思うセイジ。


「どんなに自堕落な生活をしても、出るときは矜持を絶対に忘れない。

 それを失った貴族は、貴族社会全体から抹殺されます。名を汚すことはもっとも許されない事なんです。んっ、」


馬車の軋みと、ディリエルのかすかなうめきが重なる。


カッポカッポ、馬の蹄の音だけが、静かな野原に響いて細かいことはどうでも良い。



「あたしは、姓を貰えたことに感謝しているのよ。そして妻に認めてくれて、もう何もいらないわ。でも、さらにセイジは贅沢も楽しみもくれる、正直どうしていいか分からないの。」


胸に甘えさせながら、イーラは俺を優しく抱き、キスする。

ディリエルとキアナに、性の指導をしてくれているのも経験豊富な彼女であることは間違いない。

彼女はいろいろ苦労してきている、その体験を元にした話は、二人に幸せな相手を得たことを教えていた。


「最初に、俺を助けてくれたのも、温めて慰めてくれたのも、守ってくれたのもイーラだよ。俺の方こそ感謝しているし、これからもずっと一緒だ。誰にもやらんぞ。」

「うん」


セイジの首筋や肩口にしなだれ、甘え、嘗め回し、キスをするキアナは、尻を撫でられ、まさぐられて白い体を悶えさせる。


「不思議やね、セイジといればいるほど、びっくりして、驚いて、感動して、何かもう全部どないでもしてって感じになっちゃうんよ。もちろん全部セイジにあげたけど、心まではって、どっかで思ってたんやろね。でも、今は、んんっ、ぜんぶっ。」



カッポカッポ、ヒヒーン、


馬の蹄の音に、軽いいななきが混ざった。




到着して、肌色が隠されていく。

小麦色の艶のある肌も、桃色の鮮やかなキスの跡も、白い肌の指の跡も、俺のもんじゃという印がにやけてしまう。

でも、その隠していく動きや艶やかな眺めもすばらしい。


「なーに、いやらしい目をして。また吸う?。」

「見たいのでしたら、また脱ぎますが。」

「したいように言うてくれてええよ。」

「いやいや、着ているみんなもすごくきれいで、うれしいんだよ。」


これで自分を保つのは、大変だなあと思うのだ。みんな好みで、美人で、俺に本気で惚れてくれてるし。





田舎の村に馬車が来るのは珍しいのか、遠巻きに見ている人がいる。


何事かと村長を名乗る中年の男が来たが、ドレンの名を出すと、丁重にあいさつされた。


「ドレンどのには、いつも多くの薬草を買い上げていただいております。そのご紹介でしたら、大事なお客様です。」


これでディリエル公女の名前まで出たら、ひっくり返ってしまうかもしれない。

彼女にはフード付きのローブを着せて、顔を見えにくくしてある。


だが、丁寧な割には視線は3人の女性にちらちら行っている。

けっこう油ぎってるから、スケベ親父なのは仕方がないだろうか。


コーキリの木と聞いて、妙な顔をされたが、思わぬ利用法がありそうですと言われて、ほうと驚いていた。


「あれは、面倒な雑木で、伸びが早く役に立つとは思えないのですが、何か使えるならありがたい。」


見せてもらった茂みはすごく深く、密生している。伸びも早いのだそうだ。これなら少々荒っぽく使っても足りなくはなるまい。

後は調査しますからと、村長に帰っていただいた。


道具は亜空間にしまってあるので、取り出して加工してみればよい。


『ご主人様、警戒すべき存在が近くにいます。』


左手ヴェルムンガルドが、珍しく『警戒すべき』と言ってきた。

脳裏にレーダーサイトのような光景が浮かび、かなり強い光が近くにある。光の強さは対象のエネルギー量に匹敵するらしい。


『というか、これってあのドラゴンよりずっと強くないか?。』

『はい、先日の空竜スカイドラゴンの10倍以上あります。』


だが、それにしては静かすぎるし、近すぎる。あのサイズならこの距離で見つからないはずがない。

下の方に何か違和感がある。視点を凝らすと左手ヴェルムンガルドが補正を掛けた。


そこには、4,5歳ぐらいのちんまりした女の子が、ちらちらこっちを見ていた。

クルクルの巻き毛も肌も緑色で、単純な子供服のワンピースを着ているように見えた。足ははだしだ。

しかしそのエネルギー量は、ドラゴンよりはるかに高い。


俺がじっと見ていることに気付いたのか、少女もこちらをパチクリと見た。


「おにーちゃん、あたしが見えるの?。」

「うん。」

「おにーちゃん、だあれ?」

「誰ですその子??。」

イーラがびっくりするが、ディリエルもキアナも今の今まで気づかなかったようだ。

『セイジ様のパートナーの皆様にも、視力補正を掛けておきました。』とは左手ヴェルムンガルドの弁。


「セイジだよ、セイジ・リグマ。君の名前は?。」

「んー、ハイネおねえちゃんは、グリちゃんって呼ぶのよ。」

「その子、まさか・・・グリーンダイダロス。」

「え、まじぃ?」


ディリエルとキアナの言葉に、びくりとする少女。


「驚かしちゃだめだろ、みんな同じ目線で話すといい。」


俺はすぐに膝を折って座った。

敵に回したら、とんでもないことになる相手だと思うが、仲良くするなら問題なさそうな感じがする。

精霊は上位になるほど知性が高いので、こちらの話も分かるだろう。

グリちゃんと名乗る女の子は、とてとてと近づいてきた。

みんな腰を下ろした。


「初めて見ますが、王宮の文庫の絵の通りです。・・・生命の象徴、緑の大精霊ですよ。」

「見えない人には見えず、見えた人には見える。気は優しくて力持ち、ドラゴンすらも子供あつかいってあれかい。」

「可愛い女の子にしか見えませんねえ。」


キラッとした目が、セイジをじっと見る。


「ハイネおねえちゃんの友達?。」

「今ここに来たばかりなんだ、ハイネおねえちゃんはグリちゃんの友達かい?。」

「うん、あたしが見えてたのよ。でもこの頃見てくれないの。どうしたのかなあ。」


たぶん、ハイネという女性はこの緑の大精霊に好かれていたのだろう。だが、精霊が見えるのはごく一時期だけであったり、何か問題があったりすると見えなくなるというが。


前の日本では、セイジは自分の特性上、妙な友人が数名いた。その中に、超能力者ではないが、精霊に詳しく、式神という妙なものまで使って見せる人がいて、セイジも多少は知識がある。

意識を持つ自然エネルギーの塊のようなもの『精霊』には寿命が無い。生きているという概念も無い、有ると無いの区別も無い。ただあるレベルを超えると、多くの精霊を従えたり、非常に強大な力を持つ大精霊となるそうだ。

意識はあっても、人間とはまるで異なる存在の精霊たちは、彼らの長い長い時間の中、一瞬で消えていく人間になど、普通ほとんど興味を持たない。そんな彼らがまれに人間に構う事があっても、一瞬に過ぎない。人間から見れば、興味を持った相手には、一生関わる事も多いそうだ。それでも精霊には一瞬に過ぎない。

精霊に構われた人間に、興味が無いと言えばウソになる。


「おねえちゃんに、聞いてあげようか?。」

「うん、おねがい。」


ふわっと、こちらの周りにいい香りと、気分の良さが押し寄せてくる。

生命の精霊の感謝は、とても体に良いようだ。


藪がワサワサと勝手に道を開けて、細い獣道が現れる。


「この先に、おねえちゃんのお家があるのよ。でも何度行っても私を見てくれないの。」


精霊は、哀しげにそう言った。

獣道を歩いて、10分ほど行くと、小さな教会があった。


「うわ・・・すごい。」

「なんてきれいな!。」

「うわー、何この量。」


彼女たちがびっくりしているのは、花、花、花、だ。

教会の入り口から周りは花だらけ。

普通の野の花から、巨大なとげだらけの高い木、密生した細かな白い花の木、見事なランやウツボカズラのような食虫植物まで、花だらけである。


「おそらく大精霊がしょっちゅう来るからだろうな。」

「ああ、そうか。精霊が良く来る場所には、その影響が強く出るっていうし。」


キアナのような技術者にとって、精霊の影響はバカにならない。

鉱物の採掘や、材料の採取を行うには、そういうパワーポイントのような場所を把握しておかねばならないからだ。

聞いてみると、この世界では精霊の存在が非常に大きく、絶対者である神霊ほどではないが、多くの記録があるそうだ。ちなみに、最強の精霊として知られているのは、氷で覆われた極北大陸全土を支配する『氷雪の女王』ことアズサという精霊で、アズサが生まれてからは、その影響力で極北大陸の氷は一度も溶けたことが無いそうである。


「でも、こんな場所があったら、凄く有名になりませんか?。王都にこれがあったなら、毎日人が押しかけますよ。」


ディリエルの疑問はもっともである。だが、イーラはちょっと首を傾げた。


「ただ、村の連中からすれば、毎日こうならもはや当たり前なんだろう。」


狭い村であり、いつも同じ顔触れ、そんな中で花があふれるほど咲いていても、いつもの事なら気にもしなくなる。何より、家に花を飾るような百姓はめったにいない。


「それに、何か問題がありそうだ。」


俺はその建物をみて、眉をしかめていた。


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