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幕間その2 <うろんな客2>

翌日、今や完全に愛称が『じっちゃん』になってしまったキーロッカー氏に会いにいく。


「じっちゃんきたぞー。」

「じっちゃんきたよー、」

「じっちゃんまいりましたー。」

「じっちゃーん!、」

「おいおい、なんか孫がいっぺんに増えてるぞ。」


苦笑いしながらも、まんざらでもなさそうなキーロッカー。


「おお、こいつらがおめえさんの孫の相手か。」


白髭の痩せたじいさまが、白い歯を光らせながら笑う。薬を手広く扱うベッグハー商会のドレンという調剤師だ。

ちなみに、セイジも元の世界では本業が、ドラッグではないふつーの町の薬屋さん、薬剤師だったので、聞くと親しみを感じた。


「んん、うちのご主人様。」


キアラが少しほほを染めて言う。


「うちの工房でも、世をはかなんでヤケ酒に走ったやつが大勢いるぞ。」

「しゃあねえだろう、孫の命がけだあな。」


キアラは工房組合の中では人気者だったらしい。


「まあいいやな、今は紙だ。俺らの処でも、紙のコストはかなりでかい。あれが安くなりゃあ、記録も経理も万々歳よ。ありがてえこった。」

「で、どうよ。皮の剥げやすい、良く伸びてあまり役にも立たねえでたくさんある木ってのはあるのか。」

「記録をあさってみたんだが、一番合いそうなのは、コーキリの木あたりだな。雑木扱いで役には立たねえし、伸びるのが早すぎて茂ると面倒でいけねえ。」

「よくそんな記録がありましたね。」

「薬ってのはよ、役に立たなさそうなもんでも、どういう効き目があるかは知っとかにゃならねえんだ。逆に毒のあるやつは、中毒をどうするかも考えなきゃならねえしな。医者にかかれる人間は一握りよ。」


意外なほど期待されているらしく、ドレンはかなり詳しい情報をくれた。王都から見て『北西部』に多い植物で、ミレン村あたりに行ってみると良いという。


「というか、お前たちが行かなくても、人にさせればいいんじゃないのか?。」

「最初のやり方ってのは、意外に難しいんですよ。一度きちんとしただんどりを組んでおかないと、色々もめますしね。それに、下手をするととんでもない所から、横槍が入る可能性もあります。私らがだんどりを作って見せてからなら、それを改良や変更すれば済みますから、結局早くできるんです。」


前の世界でもそうだが、仕事を説明だけして最初っから人任せにすると、とんでもない方向へ間違ったりすることがある。ましてや、面倒くさそうなバカ公爵などが周りをうろついたりするとなると、どこからどう横槍が入るか分かったものではない。せっかく新しい世界で育てる新事業なのだ、迷惑の矢面に立つのは自分だけにしておきたいセイジである。


「ミレンか・・・、ちいと気をつけろよ。」


キーロッカーが気がかりそうに言った。


「『あの辺』は、山賊が多いと言われてる。とはいえ、大した勢力じゃあ無いんだが、噂になってる公王様の危険は、関係あるかもしんねい。」


『あの辺』すなわち王都の『北西部』で公王陛下が魔獣の群れに襲われた事は、緘口令が敷かれているが、何しろ犠牲者が多すぎた。噂は隠しようがなく、密かにささやかれている。

セイジがディリエルの肩にそっと手を置いた。


「ディリエルは一緒に来いよ。ちゃんと守るから。」

「え?」

「ああいう変なのが来た場合、相手の立場が立場、ディリエルは会わないわけには行かないわね、だけど嫌でしょう?。」

「絶対会わん方がいいで。一緒にきいや。」

「ありがとうございます。」


家を守ると誓っていたディリエルは、覚悟を決めていたようだが、セイジとしては万が一など絶対にあって欲しくない。だから今回は強引に連れていくことにした。血族を妾と人質で奪おうなどという異常人に、常識などまるで期待できない。まして、こうして面と向かって見ても、思わず見とれるほどの美貌なのだ。

一対一で会ったりしたら、飢えた野良犬の前に肉を放り出すようなものだと、セイジもイーラもキアナも、話さずとも意見は一致している。


「家の事なら、あいつらに任せておけば安心だしな。」

「ああ、あのゴーレムなら絶対大丈夫や。」


イーラもウンウンとうなづいている。女性陣に大人気である。


こうして、紙作りの材料探しに行ってみることにした。

行き当たりばったりだが、別にすることも無いので、良いだろう。




さて、セイジたちが出立して少し後、性懲りもなくベンダン公爵は、セイジたちの宿泊所を訪れていた。


「まったく、わしのごとき高貴な血筋の物が、朝早くから出向かねばいなくなるなど、田舎者は失礼にもほどがあるわ。」


すでに太陽は頭の上近くまで来ている時間である。ベンダンにとって午前中いっぱいは寝過ごして、昼過ぎから優雅に帝王としての日常を過ごすのが理想である。

夕刻から夜はパーティでちやほやされ、その後は自分の好みの女性と一番大事な子孫繁栄を務める。それこそが王の務めと本気で信じているから手が付けられない。


だが、またしてもセイジたちはいない。

警備兵たちはそう告げたが、ならば中に入っても問題ないとまたも入っていこうとする。

ベンダンからすれば、あんな田舎者、何を持ち込んでいるか知れたものではない。

怪しい物が無いか、調べて取り上げねばならないと勝手に思っている。

ついでに、不埒なことをしないよう、毒を飲料水やワインなどに混ぜるつもりでいる。

死んだところで、食あたりだろうと言う事にしかならないからだ。

ディリエルが同居しているなど、露ほども思っていない。


当然のことながら、重機械式ゴーレムたちが立ちふさがった。


「ココカラサキハ、ナニモノモキョカナクハイルコトハユルサレマセン。」

「ゴヨヤクナキカタハオカエリクダサイ」

「ホンジツゴヨヤクノアルオキャクサマハアリマセン」


「出おったな、昨日の我と思うなよ。やれ!。」


後ろに控えていた目つきの悪い連中は、今度は重たそうなハンマーを振り上げる。


「こいつらの素早い動きは、中身が軽いからぞ。殴りつぶしてしまえ!。」


早い動きをするものは、軽くなければ動けない。

当然このゴーレムどもは、見かけよりはるかに軽いはず・・・・・と、対策を考え抜いてきてこの程度。


ぶんっ


だが当たらない。


ぶんっ、


何しろ見た目より素早いゴーレムたちに、重いハンマーの軌道は読まれて避けられてしまう。


ぶんっ、ガチンッ


フラフラになった一人のハンマーと、振り下ろしたそれが接触し、軌道が大きく変わった。


最初に避けたゴーレムに、偶然それが向かった。


「キョウカ、キドウ」


重機械式ゴーレムには、最低限の魔法防御が組み込んである。

『強化』は、その一つで、単純にその重量と防護力の組み合わせが、相手の攻撃力と質量のエネルギーよりも大きければ、相手に反射できるという性質がある。

ただし、相手の方が大きければ、全体に拡散して、表面装甲の突破をさせないようにする。


今回は、反射で済む程度で、ゴーレムに当たったハンマーはその全エネルギーが180度跳ねかえった。


ベキイイインッ


柄からへし折れたハンマーは、公爵の額すれすれをかすり、石壁にめり込んだ。


「ひいっ、こ、こ、こ、この無礼者おおっ、やれっ、やってしまえええっ!」


股間を黄色くぬらしながら、公爵は切れたように絶叫した。


4人がかりで抱え上げた、先に尖らせた金属をはめた巨大な丸太が、突進してくる。

いやもう、何が何でもゴーレムか宿泊所に嫌がらせをしないと気がすまなくなっている。


センターがズイと前に出た。

モノアイがキラッと光る。

一瞬、低く構えた拳(丸い手だが)が、激突の寸前、思いっきりカチ上げた。

ぎりぎりの距離、寸前の角度、目にも留まらぬスピードが天を衝いた。

その一撃はまさに、


『超・銀・河・流・星・拳!!!』


ゴヴォンッ


巨大な丸太が垂直に立ち上がり、1メートルほども上に浮き上がる。

見事なアッパーカットの残身で、センターは彫像のようだった。


『ふっ・・・・・』


まるでセンターが呟いたかのごとく、すっと体を翻す。


ゴオンッ


浮き上がった丸太が、地面に激突する。

しがみついていた男たちも、全部振り落とされた。


ギリギリギリ


そして全員が落ちた方へ、へたり込んだ公爵の上へ、丸太がゆっくりと倒れ込んでいく。


「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!」


ドオオオオオオオンッ


地鳴りと共に、丸太が地面にめり込んだ。

あいにくと、誰も死んだ者はいなかったが。

白タイツの股間を茶色く膨らませ、泣きながらゴキブリのように這って逃げる公爵と、その目つきの悪い一党。


「「「「お、お、おぼえてろおおおおおおおおおおっ!!」」」」」


警備兵たちは、全員が静かなるゴーレムたちに、握りこぶしを向けて親指を立てた。


「俺たちも、ゴーレム以下だと言われないようにしなきゃあな。」

「ああ・・・、おとこだぜ!」


この日を境に、王城の警備兵たちの士気は格段に上がり、訓練の熱が非常に高くなったとグシャーネン将軍が喜んだほどであった。


ちょっとコメディになってしまいました。

書いてる時はノリノリでしたね~。

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