閑話 猫又の血覚醒をした日
過去編みたいなものです
「由香里お嬢様、起きてくださいまし」
「ん……まだ、ねむ、い」
メイドが由香里の身体を揺さぶるがその揺さぶりの振動をものともせずに眠ろうとする由香里。
それにため息をもらすと、布団を勢いよくはいだ。
「……んにゅ!?」
ころん、と転がりながらベッドから落ちる由香里。
そのさいに悲鳴があがるのはいつものことであった。
「由香里お嬢様? きちんと起きてくださ……まぁ!?」
「……うぅ……翡翠さん……ひど……ん?」
視線を向けてメイドがしゃべるのだが、途中で止まる。
由香里は気づかずに頭を撫でながら涙目で声をかけるがメイドの様子を見て首をかしげる。
「まあまあ♪ なんと可愛らしいお耳と尾ですこと♪」
「……???」
にこにこ笑顔で笑うメイドを見てますます由香里は困惑していた。
べしんべしん、と床を叩く音がして振り向くと由香里は目を丸くした。
それもそのはず、姿見の鏡を持って由香里の目の前にメイドが佇んでいたのでそれを通して見てしまったのだ。
「うふふ♪ 可愛いですわよ、由香里お嬢様」
「…………どう、いう……こと?」
鏡をもったまま笑顔を浮かべるメイドに由香里は思わず尋ねていた。
それを聞いてメイドは目をぱちくりさせていた。
「どう、とは?」
「……ん」
小首をかしげるメイドに己の頭頂部に生えている猫耳と尾を指差す。
それに気づいて納得したメイドは笑顔を見せた。
「それは旦那様に聞かれた方がよろしいかと思いますよ?」
「……お父様……に?」
メイドの言葉を聞いて、なぜそんな回答になるのかわからないようである。
「さあさ、早くお着替えになさってくださいまし! 旦那様達がお待ちですよ」
「……うー……ごまかし、た」
背中を押すメイドに由香里は不服そうに呟きつつも、ネグリジェから着替えはじめる。
メイドはその間に由香里が着る私服のブラウスとスカートを用意していた。
「はい、どうぞ♪」
「……ん」
由香里は渡された私服を受け取ると身に通す。
猫耳がぴこぴこと微動し、ふたつにわかれた猫尾も不満げに揺れていた。
今の由香里の感情に合わせて動いているようだ。
それから由香里は部屋を出て会食場になるフロアを目指す。
由香里が通る度にメイドや執事達が微笑ましげに見つめているようだ。
「…………入り、ます」
「うむ、おはよう。 ゆか……んん?」
「あらあら、まあまあ♪」
由香里が部屋に入ると厳格そうな父と祖父と穏やかそうな母と祖母がそれぞれ反応する。
まあ、それも一瞬だけだったが。
「お父様……聞き、たい……こと、ある」
「ああ、それのことだろ?」
真面目な顔で言う由香里に父親は笑みを浮かべた。
それを聞いて由香里が逆に目を丸くする。
「……知って、たの?」
「ああ、母さんが猫又だからね」
由香里の疑問に父親は笑みを浮かべて答えた。
突然の言葉に由香里は驚きを隠せないでいた。




