閑話 笹原まみのとある日
夜中、とあるマンションにてまみはため息をついていた。
そんな彼女はベッドに寝そべっているようだが、どこか違和感があった。
そう下半身が人間のものじゃなく、蛇ようなのだ。
「……いつ見ても長いわよね~」
自分の蛇の部分を見てぽつりとつぶやくまみ。
彼女はラミアという種族なので、周りにバレないように過ごしている。
まあ、つぐみ達は彼女の正体に気づいているから気にもしないが。
「…………こんな姿をみたらさすがに彼も怖がるかもしれないわね」
自嘲気味につぶやくまみには悲しげな色があった。
もっとも知られたくないのは大輝という男子生徒だ。
好かれているというのは彼女としても嬉しくないというわけでもない。
ぼんやりとしていると突然、めまいがしてきたのだ。
「…………っ、お腹すいたわね。 人間の男の血を飲まないと……そういえば、どれくらい飲んでないかしら」
頭を抑えながらまみはつぶやいた。
ラミアである彼女は血を飲まないと餓死してまう危険性があるのだ。
だから、催眠で眠らせて少しだけ血をもらって生きていっている。
だが、少しだけではそんなに栄養はとれないという欠点もある。
それでも彼女はそれだけにとどめているのだ。
「…………まったく不便なものね」
まみはそう言うと人間の姿に戻り、よろよろとマンションの部屋から出ていく。
さすがに飢えが激しいので動かないわけにはいかないのだ。
こんな真夜中に出歩く人間など、いるのだろうかと考えなくもないが。
それでも、今の状態をなんとかしないわけにもいかない。
「あの……先生」
「小雪ちゃん? どうしてここに……」
「先生、僕もいますよ」
おずおずと声がかかるので振り向くとそこには小雪と澪次がいた。
二人は吸血種な為に夜目もきいており、目が赤色に光っている。
真夜中は吸血種の時間でもある、なにもラミアである彼女だけではないことはとうにわかりきっていることだ。
「あら、二人して真夜中のデート? いいわね、若いって」
「ち、違いますよ!? そ、そもそも澪次くんのような素敵な人にわたしなんて」
「小雪ちゃん、落ち着いて。 今は先生にあるものを渡さないとね」
にっこりと笑いながら言うと小雪は慌てだし、それをみてなだめる澪次。
「輸血パックはいいわよ。 生徒からもらうなんて大人としてちょっとね」
まみは苦笑しながらそう告げた。
限界にもかかわらず拒否をするのは二人のことを思ってのことだろう。
「でも……」
「無理はしない方がいいですよ? そろそろ限界ではないですか?」
小雪は困ったように見つめており、澪次は諭すようにまみを見ていた。
彼からみても限界そうに見えるのかとまみは悟った。
「それでも、よ。 それは二人のご飯でしょ?」
「あの、私達なら大丈夫です。 さきほど摂取しましたし」
「これは先生の分なんで、遠慮なくどうぞ」
まみが二人を見つめて言うと小雪は笑顔で答え、澪次は笑みを見せて輸血パックを見せる。
お互い血を飲むもの同士、助け合いも可能なのかもしれない。
「…………わかったわ。 もらっとくことにするわね」
「きちんと飲んでくださいね? いきましょう、澪次くん」
「うん、そうだね」
折れるように言うと輸血パックを渡されて、澪次と共に小雪は去る。
なお、小雪は姫抱きされてしまったが。
「あらあら、若いっていいわね~」
小雪と澪次の様子を見てくすりと笑うまみだった。




