第9話
大騒動が起きそうにはなったが、朝食を食べ終えて学園に向かう三つの影。
三つのうち、二つは小柄な体格の少女でもう一つは背が高い少年の影である。
その影の正体はいわずとしれた、つぐみ・美桜・秀久の三人だ。
「もう、お姉ちゃんがあ、あんなことさせるから」
「あら~? その方がヒデくん喜ぶと思ったんだけど」
「すっげぇ、うれしじゃなくて……危うくショートするところだったんだが!?」
顔を赤らめながら走るつぐみに美桜はにこにこ笑顔でいい、秀久は思い出して壊れそうにな状況になりながらなんとか持ちこたえた。
「本音がだだモレなんだけど!?」
「まだ、動揺しているようね~」
秀久の様子を見てつぐみがツッコミをいれ、美桜はにこにこ笑顔で走りながらつぶやいた。
そんな会話をしていると、前方に人影が見えた。
「あ、由香里ちゃーん!」
「……おは、よう。つぐみ、ちゃん」
つぐみは笑顔で呼びかけると、彼女――由香里は振りかえり、会釈をする。
声だけで判別する由香里もあるいみすごい。
「うん♪ おはよう♪」
「おはよう、由香里ちゃん♪」
笑顔で近寄り、頷くつぐみの隣で美桜も近寄り笑いかける。
それに気付いて会釈を返し、
「おはよう、ございます……美桜、さん」
そう言って挨拶を返した。
かなり丁寧なあいさつに美桜はちょっと困り顔だ。
「よっす、猫宮」
「……おは、よう……影狼」
秀久も近寄り、挨拶すると、彼女は再び会釈して挨拶をかわす。
「昨日はどうだった?」
「あれ、から……浄化、して」
つぐみが歩きながら問いかけると、由香里はとつとつと語りだす。
あの後、死人の霊魂を天に返し、恨みや未練をのこした霊魂には浄化の聖歌を聞かせて癒されながら天へと登らせたとか、廃病院はよからぬ人が使わないように解体することになったらしい。
そして、あそこで元々いた妖怪はすでに首鬼達に食い殺されていたようで、玉藻の炎で綺麗に燃やして輪廻の輪に戻したと聞かされた。
「そっか……」
「優しい人?だったんだけどね」
寂しそうに歩きながらつぐみが呟き、美桜はとても残念そうに言うとつぐみの頭を撫でた。
「けど、食い殺すなんて……もう酌量の余地なしじゃないのか、あいつ」
「……ん、無期の永続判決が、下された」
秀久がわかりきったことのように言うと由香里も頷いてあの時の判決のことを告げた。
無期の永続とは……永遠の時空の中でさまよい生き続けなければならないという過酷なものだ。
「あれは、人だろうが、妖怪だろうが……どちらにも下される物だな」
「うん……多く殺した人や妖怪ほど……あの刑を適用されるからね…」
秀久の呟きにつぐみも賛同するように頷いて目を伏せる。
そんな会話をしていると学園の校門まえまでたどり着いた。
「……あ、心、くん」
「ん? 由香里ちゃ、おはようぜよ!」
由香里は嬉しそうに相手を見つけると近寄り、声をかける。
その相手は心で、彼は振り返ると笑顔であいさつを返した。
まあ、嫉妬の視線がぎらぎらと心に向けられるのは由香里の可愛さゆえだろう。
ちなみに、嫉妬の視線を向けられるのはなにも心だけにかぎったことではなかったりする。
「あー……またかよ」
「大丈夫? ヒデくん」
「うふふ~♪ つぐみに近寄ろうなんて、100年早いわ~♪」
げんなりしている秀久をつぐみが心配そうに見上げて声をかけていると。
美桜がけん制するように睨んでいた男子生徒達に目をむける。
それにより、そそくさと逃げ出す生徒が続出していく。




