第8話
「ま、とりあえず中に入りなさい」
悠はそう言うと、奥へと消えていく。
ふうっと一息つくとつぐみ達は靴を脱いで中へと母に続いていく。
「お母さん、お父さんは?」
「少し帰りが遅くなるそうよ、だから……心配してたんだけどね」
つぐみがしんみりとした空気を打ち払うように声をかけると、悠は前を向いたまま答えた。
それを聞いて「そっか~」と寂しそうに呟いてしまう。
「ふふっ……大丈夫よ、お土産もってとんでくるように帰ってくるから」
「わあ!?もう、お姉ちゃん!!」
笑いながらつぐみを抱っこする美桜。
いきなりのことで驚いて怒りながら見上げる。
まあ、そんな顔しても見た目が見た目なのであんまり意味がなかったりする。
「あ、あの…」
「なーに?」
秀久が美桜に声をかけるとすんごい良い笑顔で聞き返される。
つぐみを抱っこしてもふっているからか、お肌もつやつやになっていた。
「俺も…つぐみを」
「あら、いいわよ♪」
秀久もそろそろつぐみ分を補給したくなってきたのだろう。
彼が頼み込むと彼女はつぐみを抱き上げて秀久の胸元に押し当てる。
歩きながらよくこんな会話をしていても、悠はにこにこ笑顔で聞いている。
「もが!?」
「みゅ?!」
のだが、ずれて秀久の顔につぐみの豊満な胸があたり、苦しむことになった。
それにつぐみは驚いて離れようとするのだが、秀久はなんとかつぐみの位置をずらすことに成功した。
すっぽり秀久の腕の中に収まるつぐみ。
「あらあら、青春ね~♪」
「見ていてほほえましいわね♪」
お互い顔を赤らめてるつぐみと秀久を見てにこにこ笑顔で笑う二人。
やはり、母娘なゆえだろうか。
そんなことが狼崎家で起きていた頃。
廃病院内では……。
「ふぅ……後はコレで埋葬するだけね」
「普通に燃やせばいいじゃろうが」
まみの言葉に玉藻が不服そうに割り込みながら言うと。
「それじゃ、ダメなのよ。他の妖怪や悪霊が寄ってきちゃうからね」
「浄化すればいいのだろうが、これほど食い荒らされた遺体は骨がおれるからな」
まみは苦笑いしながら答え、札を出すと遺体に投げた。
すると、青白い炎に包まれてぼろぼろに消えていく。
その間まみだは手を組んで祈りをささげていた。
白い巫女服に身を包んだ状態で。
「こんな時に聖女の力をもつ彼女がいてくれたら、もっとマシになったんだがな」
「仕方ないですよ、他に用事ができたそうですからね」
明晴がぼやくと澪次は苦笑を浮かべながら言う。
ここにはいない、仲間のことを思い浮かべながら、ただ祈るをささげるだけがこの場に満ちていた。
そして、翌朝の狼崎家内では。
「ヒデくーん、起きろー!」
小柄な少女――つぐみが月光学園の制服に身を包んで、お隣の部屋で寝ている秀久にへと声をかけていた。
まずは扉をノックして声をかけるが、返事はなし。
それにむう、と頬を膨らまして扉をあけると中にはいる。
ベットの方へと足を向けると、くのじで眠っている秀久を発見。
「こっらー!起きろっていってるでしょ!」
「ぐお!?」
つぐみが秀久の握っている布団をはぎとると、転がりおちる秀久。
なぜ、こんな起こし方をするかというと、美桜がそう教えたからだとか。
他にもいろんな起こし方があるなか、これが抜群だと言われたのだろう。
姉が大好きな彼女はすぐに信じてしまい、それの巻き添えは秀久と悠の旦那である。
ま、なかなか起きない二人にも原因があるんだろう。




