第7話
「あら、もう終わったの?」
「まみ先生、遅いよ~」
金色の綺麗な髪をなびかせて歩いてくるスーツ姿の女性を見て美桜に抱っこされながら言った。
秀久はまたか、とぼやいて恨めしそうに見ているが美桜はつぐみのお腹をなでなでと至福状態になっていた。
「ごめんね、途中で悠さんが怒鳴り込んできて、遅れたのよ」
「ソーデスカ、すいません……いつもいつも母が」
「姉妹ともど、重ねてお詫びもうします」
と、苦笑いしながら彼女が言うとつぐみと美桜は口元をひきつらせて謝る。
美桜とつぐみの母ーー名は狼崎悠といい、彼女は猫の妖の血を引いているのだ。
昔はハンターをしており、今は引退しているのだとか。
それでも彼女強さはけっこうである。
だが、彼女は超努級のファミコンなので……どうしても暴走しすぎる傾向にあったりする。
「後始末はしておくから、早く帰って安心させた方がいいわよ?」
「「はい、そうします。本当にすいませんでした」」
まみの言葉に感謝しながら再度謝るつぐみと美桜。
「なんで、いつもいつも美桜さんに先をこされるんだ?」
「もっとすばやく行動せんと、無理ではないかの」
「同感だ、つぐみを抱きしめたければ美桜より早く行動するんだな」
落ち込む秀久に玉藻と明晴がそう言ってアドバイス?をしていた。
彼等のアドバイス通りにして、成功できるかは秀久の運しだいといえるであろう。
「由香里ちゃん、またね!」
「……(こくん」
つぐみはそう言って笑顔で手を振ると美桜に抱っこされたまま連れて行かれる。
そのさい、美桜が立ち止まり秀久を見ると。
「秀久くんも、行きましょ?」
「あ、はい」
彼女はとてもきれいな笑顔で言うと秀久はそちらへと向かった。
なぜ、彼が呼ばれたかというと…ときどき彼の力が暴走を起こすのでそれに耐えきれる家といえば狼崎家くらいだとわかり、そこに居候ということとになったのだ。
まあ、美桜・つぐみ・秀久は仲良し幼馴染なので、問題なかった。
それどころか、驚くことに彼女達の両親もあっさりと彼の部屋の提供すらもしたのだ。
いったい彼女達の親はどこまで後光をさせばいいのだろう。
「また、明日のう」
「強く生きろよ」
「親友として、生きていられることを願ってるよ」
玉藻・明晴・澪次が苦笑しながら秀久を見送る。
彼女達の態度はこれからどんな目にあうかなんてあんまり考えたくもないからこその反応だといえるだろう。
屋根伝いに飛び跳ねるように帰るつぐみ達。
闇夜に紛れる中、長い髪が風で揺れる姿はとても幻想的で綺麗に見えた。
しばらくして狼崎家に到着すると、生唾を飲み込むこととなった。
「い、いくよ、お姉ちゃん。ヒデくん」
「ええ」
「お、おう」
そう言って扉に手をかけて美桜と秀久に声をかけすると、扉をあける。
「遅かったね~? まーた……妖対峙かな…」
「あ、あの…お母さん、これには海よりも深く山よりも高いわけが」
にこにこ笑顔で笑いかけているが、目が笑ってないのが見てとれる。
彼女の気迫のオーラがびしびしと当たっているようだ。
「つぐみは黙ってて、ねぇ……美桜? 行くときには連絡してと言わなかったかしら?」
「…おかしいな~……送ったと思うんだけど」
美桜に視線を向けると彼女は笑顔で笑った。
こんな空気の中でも笑っていられる美桜につぐみは抱きついて涙目になっていた。
秀久はというと冷や汗たらり状態だ。
「って、あれ……美桜さん。送ってませんでしたか?」
「ああ、あれに送ってたの、それじゃあわからないか
ごめんなさいね。お母さんの早とちりだったみたい」
秀久の言葉に悠は納得して、美桜とつぐみの頭をなでなでし、頬をつんつんしていた。
「早とちりしすぎよ~♪」
「あら、娘の未来の義息子の帰りを心配してたら、冷静にいられるわけないでしょ~♪」
あっはっはっと笑い合う母娘。
つぐみは困惑しつつ、秀久にくっついていた。
もちろん彼も困惑していたのはいうまでもないのだ。




