第6話
「さーて、お仕置きといこうか」
そう少女――美桜が言うと吹雪が舞う。
口調が由香里同様にさきほどよりがらりと変化しているのがわかる。
これは中学時代の彼女が少々荒れていた頃の影響か、もしくは母の影響なのかもしれない。
まあ、ここにいるのがばれたら怒られるだろうが。
それで少女と母親の壮絶な戦闘が巻き起こるのは目に見えていたりする。
その間、彼女達の父が少女の妹を連れて避難することがたびたび起こるのだ。
「うわ~……お姉ちゃんてば、戦闘モードだよ」
「まあ、最近では暴れてなかったしな」
フードをかぶった少女――つぐみと少年――秀久が悪霊・首鬼とやり合うのを見て呟いた。
少年の方はやや呆れ気味だが、聞こえていたらやばいことをしるべきだと思う。
「それ、お姉ちゃんの前で言うのはダメだよ」
「うむ、死亡ふらーぐじゃ」
「それを言うならフラグね」
少年の言葉を聞いて呆れた目をする少女の隣で絶世の女性――玉藻がおなじく金色のフードをかぶり、現れていた。その隣には黒いフードを着た男性――明晴もいる。
女性の言葉を聞いて訂正するあたり、この二人はかなり仲が良いのだろう。
「おんしらはいったい…」
「ああ、そういえば……いたんだったな」
心がつぶやいたのを聞いて全員が振り向いた。
いや、正確には後ろの方にいるなにかを見ているようにも見える。
「は?」
『こいつだけでも食ろうてやる!』
心のまのぬけた声と共に振り下ろされるこん棒。
それに気付いて振り向くが一歩おそく、これは直撃コースだと目をつむるのだが。
「んん~…よいしょ!」
『うごばあああ!!?』
刀の鞘でさきほどの小柄な少女が受けとめて、押し返すと後ろへともんどりかえる。
こん棒が宙に舞うと、少年がそれをうばい、相手へ馬乗りになると振り下ろした。
「あーあー…まーた血がついた」
「後で、洗えば大丈夫だよ!」
だるそうに言う少年に小柄な少女が近寄り、笑いかける。
少年がいた場所には頭蓋に大きな穴をあけた牛鬼だったものと、血だまりがあるだけだった。
「……はやか…」
ぽつりと呟く心。
あの時、いつのまにか心の前に来ていたのだ、それは心にはおろか、牛鬼にすら判別できなかった。
いや、それくらいの速さで動いたとみていいのだろう。
「さて、しばらくの間、君には寝ててもらうよ」
「うむ、ここで起きたことは夢だとおもうて忘れよ」
そんな心にさきほどの少年と少女と一緒にいた二人が近寄り、手をかざす。
それにつられて心の意識は闇へと消えていく。
あらがっていたが、彼のあらがいはそこまで強くないようだ。
「はっはぁ!どうした、この程度か!?」
『く、くそお!』
「美桜、やりすぎちゃダメ」
楽しそうに釘バッドを扱い、首鬼を追いこむ美桜に由香里が注意する。
ところどころ、首鬼がぼろぼろなのは美桜に押されているだけじゃなくて、動きを由香里により、制限されているからだ。
「おー……こいつらに聞かなきゃいけないことがあったんだったな」
「うん、牛鬼に聞けばよかったんだろうけど……影狼がノシたみたいだから」
ふと思い出す美桜に由香里は淡々とした態度で話す。
まあ、一人つぶれてももう一人いればいいだろうという考えはどこか歪に思えてくる。
これも妖ゆえの特異なのだろうか。
「ちっ……手加減すらもしないのか」
「仕方ない……今回はつぐみを抱っこできてなかったから」
苦々しく言う美桜に由香里はくすくすと笑いながら言う。
それを聞いて、ああっと彼女は納得した。
『わ、私を無視するなああああああっ!!』
「うぜぇよ」
襲いかかろうとする首鬼がきゅうに動けなくなり、血が肌からにじみでてくる。
よくみると細い糸が首鬼をからめとっていた。
そして、一番の理由がお腹あたりがすうすうしているのだ、まるで穴があいたように。
腹をみると美桜の小さな手がはいりこんでおり、それが抜かれると珠が握られていた。
「思った通り、これが出回っていた」
「なりふり構わない連中だな、おい」
呆れた顔で顔を見合わせる美桜と由香里。
そして、視線を首鬼に戻すと口から泡をふいていた。
「はっ…この程度でなさけない」
「新米……かも」
毒をはく美桜に由香里は正常どおりの口調で言うと、扉が現れた。
その中から一人の影が出てきて。
「君たち、やりすぎだよ?」
「正当防衛だと思うのよ~♪」
青年が苦笑しながら注意すると美桜はにこにこ笑顔でいってのける。
もうこのやりとりをなんどしたことかといわんばかりのため息をもらして、失神してる首鬼を黒い珠へと吸い込ませるとポケットにしまう。
「あ、これの調査もおねが~い♪」
「やれやれ、魔核珠か……これで限界まで引き上げようとしてたんだね。
それにこれ、まだ試作品のようだから、調査しておくよ」
美桜に手渡されたものを受け取り、青年はそう言うと、扉をくぐりぬけた。
後にはなにもない廃病院内と、眠りこんでいる心と同じく眠り込んでいる肝試しをしにきた連中だけだった。




